第4話 魔女の責任
「にゃにをそんなに落ち込んでるにゃ?」
「うるさい……」
「当ててやるにゃ。ソージ関連のことにゃ」
「分かってるなら聞くな」
「にゃはは」
ったくこの猫は……。他人事だと思って、毎回面白がってさ。ほんとにムカつく使い魔。
「それで? 何があったにゃ? 話くらいは聞いてやるにゃ」
「…………」
どうしようかな。モナに話しても何か解決するわけでもないし。
「別に話したくにゃいなら、それでもいいにゃ。でも、そんな辛気臭いはやめろにゃ」
「ごめん。んじゃまぁ……ちょっと聞いてくれる」
「任せろにゃ」
今日、学校から帰ってくると、そう――ボケナスの方から珍しく話しかけてきた。内容は体に溜まった魔力を抜いてほしいとのことだった。
確かにそろそろだったと思ってし、今日にでもアタシの方から言うつもりだった。それがまさかボケナスの方から言ってくるとは思わなかったな。
まぁ……魔力抜き自体は、いつも通り終始無言で終わった。話しかけてもこないし、目も合わせてくれない。それにずっと不機嫌そうにしていた。よっぽど嫌なんだなってのが、これでもかってくらいに伝わってきた。
こうなることは分かってはいるんだけど、毎回毎回こうだと、流石にキツイものがある。
「まぁ……そういうわけだよ」
「ふ〜ん。まぁいつも通りだにゃ」
「ねぇ、もうちょっと何かないの?」
「あーはいはい。お疲れにゃ」
こんのクソ猫……。そっちから話聞くって言っといて、その態度はないでしょうよ。てか、一応アタシは、あんたのご主人様なんだから、もう少し気を使いなさいっての。
「そういや、モナ」
「んにゃ?」
「あんた、今日はアタシのご飯奪いにこないのね」
「なんにゃ? 奪ってほしいのかにゃ?」
「んなわけないでしょ」
どこの世界に自分ご飯を奪ってほしい人がいるのよ。ただ、毎日のようにやっていた死闘がないから、ちょっと拍子抜けしただけだってのに。
ちなみにいつも負けているから、今日は魔法でぶっ飛ばしてやるつもりだ。ここらで、上下関係ってのをしっかり教えてあげないとね。あと、この間のメガネに猫パンチの恨みをはらさないとね。
「今日はソージに作ってもらったから、大丈夫にゃ。安心して食べるにゃ」
「ちょ、は!? そ、ボケナスに作ってもらったって何よ!」
「何ってそのまんまの意味にゃ。美味しかったにゃ」
アタシの知らないところで、何でそんな美味しいイベントこなしてんのよ……。てか、普通に羨ましいんだけど。アタシここに来てから、ずっとコンビニ弁当なのに。
「ちなみに何作ってもらったの?」
「豚のしょうが焼きにゃ」
「うわ、美味しそう……」
「最高だったにゃ。ヒメノは食べられなくて残念だったにゃ。にゃはは〜」
「ぐぬぬ……」
こんのクソ猫めぇ……。
「ま、これもヒメノが猫缶を空けてくれなかったおかげにゃ。感想くらいは教えてやってもいいにゃ」
「いらんわ!」
くっそぉ〜。こんなことなら、面倒くさがらずに猫缶空けてあげればよかった。そうすれば、モナだけ美味しいご飯を食べずに済んだのに。
「悔しかったら、ヒメノも料理覚えることだぁにゃ」
「うるさい。余計なお世話」
覚えられるなら、とっくに覚えてるっての。
でも、残念ながらアタシは料理は壊滅的にダメで、どんなにレシピ通りに作ってもダークマターになっちゃう。
一時期通ってた料理教室の先生も、何で? って首を傾げてなぁ。あれはドン引きされるよりダメージがあった。
まぁ……とにかくあれだ。いい加減コンビニ弁当は飽きた。外食って手もあるけど、毎日は流石にお小遣いも心許ない。はぁ……お母さんの料理が恋しい……。
ダメ元で、ボケナスにお願いしてみようかな? いや、無理だやめとこう。間違いなく拒否られるし、言い争いになりそうだ。
「それで、ヒメノ」
「何?」
「ソージの魔法は解けそうなのかにゃ?」
「解けるなら解いてるよ……」
あの日以来、アタシはあの魔法についてずっと調べている。古い魔法書を引っ張り出したり、知り合いの魔女に聞いたり、とにかくやれることは色々とやっている。
「それでも、何かしらの手掛かりは掴んでいるんじゃにゃいのか?」
「まぁ……」
「ワガハイにもいい加減教えてほしいにゃ。ヒメノがソージとどうなるかは、どうでもいいにゃが、それでもソージのことは心配にゃ」
「どうでもいいって言うな……」
ったく、一言余計なんだっての。でもまぁ、モナはボケナスと仲良いし、心配なのは本当なんだろう。
「呪言魔法。それがボケナスにかかってる魔法」
「ちょ、ちょっと待つにゃ! それって消えたはずの魔法にゃ」
「うん。ずっと前にね」
魔法は誰から教わるのが基本だ。アタシの場合はお母さんから教わった。お母さんはおばあちゃんから。そんな感じで、代々受け継がれていくものだ。まぁたまに自分で作っちゃう天才がいるんだけどね。
それで、呪言魔法ってのは、昔一人の天才魔女が作った魔法だ。ただ、あまりにも危険過ぎるということで、誰にも教えなかったそうだ。だから、本来はその魔女しか使えないはずの魔法なのだ。
「それを何でヒメノが使えるのにゃ」
「そんなこと知らないよ。何か使えちゃったんだもん」
「にゃんてことにゃ……」
「ほんと、困っちゃうよね……」
正直、自分の魔女としての才能が恐ろしい。恐らく、こんなことが出来るのは、歴代の魔女の中でもアタシだけだろう。
「でも、そこまで分かってるなら、何で解くことが出来にゃいのにゃ?」
「鍵が分からないから」
「鍵?」
そう。そこが問題なのだ。
アタシの推測だと、呪言魔法は魔法というより呪いに近い。言葉に魔法がかかり、鎖という形で具現化してボケナスを縛っている。
ただ、魔法であることには変わりない。かけた魔法を解くには、自分の魔力を流すとか予め決めていた言葉や行動など色々ある。
それを何にするかは、かけた本人が決めるんだけど、アタシの場合は無意識にやってしまったからそれが不明。
「それと、もう一つ問題があるんだよね」
「なににゃ?」
「ボケナスにかかってる魔法が、日に日に強くなってる」
「どういうことにゃ?」
「ボケナスの体質の問題よ。体に魔力を取り込んでいるから、魔法自体が魔力を吸って、より強力になっているってこと」
「それはまずいにゃ……」
「うん……」
仮に鍵が分かっても、それと同等以上の魔力が必要になる。つまり、かかっている魔法よりも弱い魔力だと意味がない。
「今のところは大丈夫にゃのか?」
「うん。まだまだ全然余裕。この辺は自分の才能に感謝だね」
「でも、ずっとってわけじゃにゃいんだろ?」
「そうだね。今のペースだとあと二年くらいで、アタシの魔力より強くなるね」
「二年かにゃ……」
「うん、二年」
つまり、アタシ達が高校を卒業するくらいがタイムリミットだ。それを過ぎたら、アタシ以上の魔力を持った魔女を見つけなくちゃいけない。
ただ、それはかなり難しい。アタシ以上の魔力を持った魔女なんてそうそう居ない。
だから……絶対にアタシが何とかする。絶対にだ。それがアタシの責任なんだから。
「とりあえず、事情は分かったにゃ。ワガハイに協力出来ることがあったら、何でも言ってほしいにゃ」
「分かった。ありがとね、モナ」
「ソージのためにゃ」
「はいはい」
まったく……最後の最後で可愛くないなぁ。まぁモナらしいけどさ。
とにかくまぁ、あと二年だ。頑張らなくちゃね。
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