終末まで残り十分

金網滿

終末まで残り十分

 世界に終末が訪れるまで、いよいよ残り十分となった。


 テレビから垂れ流される女子アナウンサーの嗚咽は、最早視聴者の不安を煽るものでしか無い。

 最後にもう一度だけ、今も律儀にカウントダウンを続ける終末時計擬きを見てからテレビの電源を落とした。

 テレビ局も中々粋な事をする。


 ふと、窓の外を見遣ると、そこには晴天が広がっていた。

 雲一つ無いと言おうとしたが、曲がりに曲がった飛行機雲が視界に入った事で、喉まで出かかった言葉は消え失せた。

 もう外を覗く気は起きない。固くカーテンを閉ざした。


 そうだ、昨日の朝に炊いた米はまだ食べられるだろうか。

 確か炊飯器の保温スイッチを押したままだった筈だから、今頃下の方の米は食べられたものではないだろうが、上の方は問題ないだろう。

 都合良く冷蔵庫の中に賞味期限が近い卵があった筈だ。最後の晩餐は卵かけご飯と洒落込もう。


 食材となった生き物たちに感謝を捧げ、ついでに神様に助けを願ってから、卵かけご飯を頬張った。

 すっかり醤油の存在を忘れていた卵かけご飯は、余り美味しくなかった。


 さて、食欲は満たされたし、睡眠欲もある程度満たされている。残りの性欲もまるで問題無い。


 そうなると、やるべき事はもう何も無い。


 この日の為に熟読しておいた聖書でも読み返そうか。いや、辞めておこう。結局あれには、具体的な救済される方法等記されてはいなかった。


 今更本一冊に文句を言った所で、という問題だな。それに、具体的な救済方法の記されていない経典等、それこそ宗教の数だけ存在するだろうに。

 突き詰めれば思想の原点は同じだと言うのに難儀な話だ。



 そう言えば一体、終末とは何なのだろうか。これだけ恐怖し、準備を周到にこなしてきたと言うのに、その実態を全く知らない。


 終末とは何なのか。


 何の終末なのか。


 誰の終末なのか。



 さあ、そろそろ時間だ。



 皆は終末の一時をどう過ごしたのだろうか。

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終末まで残り十分 金網滿 @Hirorukun

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