百四話 ちくしょうご褒美だよ!

 あれから日にちが経過して、気付いば今日から文化祭が始まる。いやーまさかこんなに早いとは……


 一日目である今日は学校外から人は来ないものの、明日と明後日は生徒達の家族友人がやってくる。衣織ちゃん舞幸ちゃんも来るよ。

 そういう訳で始まったんですけど、思いのほか盛り上がっていますよ、我がクラスは。


「好透!注文入ったよ!」


「了解」


 出し物用に装飾が施された教室にある、その仕切りの向こうから栞がメモを持ってきた。

 俺はそのメモを見て、注文の品を用意する。


 基本的に簡単なものばかりではあるが、やはり飲み物の提供が早く、どうしても食べ物の注文は相応の時間がかかってしまう。


「はい、とりあえず飲み物からね!」


「はいよ」


 端田はなだが飲み物を用意し、それを高畠たかばたが受け取ってお客さんの元に持っていく。

 そう、うちのクラスの出し物は飲食ができるもの……それも喫茶というワードが付く。


 今俺と同じポジション……つまり厨房的な立ち位置にいるのは端田である。午後からは別に二人と交代するよ。


 明日は俺も外……つまりホール的な立ち位置に変わる。これは決定事項だと言われてしまった。

 中でいいよー料理するから籠らせて。しかし却下である、世知辛い。


 仕切りの外からは賑やかな声が聞こえてきて、繁盛していることがよく分かる。

 ちなみに今のそっち担当は栞と高畠と、また男女それぞれ一人ずつである。午後からは疾峰と小春と優親ともう一人の男子が担当するみたい。


 ホール四人と厨房二人の構成で回しているが、結構大変だぞこれ。

 ちなみにこの役割に抜擢された面々は準備と片付けをしなくても良いとのこと。それならありがたいね。


 目が回るほどに忙しい昼時を終えて、時刻は二時を指した。そろそろ交代の時間だ。


「お疲れ様天美くん、替わるね」


「ありがとう」


 次の料理番は三宅だ。彼女は家でも料理を嗜むらしい、さすがだね。


「じゃあ行こっか」


「おう」


 端田に背中を押されて外に出ると、お客さんたちに惜しまれながら今の四人も一緒に出てきた。

 着替えは空き教室を使って良いとのことで、そちらを使わせてもらっている。


「じゃー好透は私と一緒に着替えようね」


「え、いや普通に高畠いるしそっちで……」


「いいね、ほら行くよ」


「えっ、あっ……まっ……」


 中と外の衣装は違うというのに、栞と端田が女性用の仮設更衣室へと連れていこうとしている。

 二人は有無を言わせず俺の腕をがっちりと掴み、グイグイと引っ張っていく。そこから逃げられる自信がなく、助けを求めてもう一人のクラスメイトの女の子を見やる。


「仕方ないなぁ……ほら天美くんさっさとして」


「いや止めろよ、俺は男だからそっち行くからなマジ……っておい」


 頼みの綱であった彼女までも俺を後ろからグイグイと押し始め、本当に逃げられなくなってきた。しかし残念だったな、そっちには着替えがないのだ!

 それを理由に逃げようとした時、何故か高畠がニコニコ顔で誰かの服が入っているであろう袋を持ってきた。


「はいよ、天美の着替えそこ置いとくからな」


「ありがとー、ほら行くよ好透!ワガママ言わないの!」


 いや普通におかしい。どっちが我儘だというのか、俺は間違っていない!

 男が男子更衣室を使うのは当たり前だろうが!


「意味わからん!高畠お前覚えとけよこの野郎!」


「ほら!さっさとする!」


 一番意味が分からないのは、どうして端田とロクに関わりのない女の子にまで連れ込まれているのかということだ。

 なんでお前らまで楽しそうなんだよ!助けてくれぇ!




 ちなみに言うと何故着替えがいるのかと言えば、ウチのクラスの出し物がコンカフェ風喫茶店だからということだ。

 どうしてコンカフェ風なのかいうと、メイド喫茶を目指したがそれでは女子だけがメインになってしまうから、男子も執事をやれ!厨房はコックの格好しろ!という意見からこうなりました。


「いやぁ天美くんって料理上手だよね」


「でしょ!好透ってば一人暮らしだから」


「おーすごい、今度アタシも遊びに行こうかな?」


 クラスメイトの女の子とそんな話をしている栞と、それにうんうんと頷く端田。

 楽しそうな空間ですねぇいいですねぇ。


「なんでもいいけどもう俺出てっていい?着替え終わったんだけど」


「まだ私終わってないからそこで待ってて」


「外でええやん」


 俺はと言うと、つまりそういうことである。

 年頃の男にこの光景はとっても目に余る、しかも俺は奥に押し込まれるようにしているせいで、出ようにも前に進めない。

 もし行こうとすると、色々マズい事になる。


「じゃあ行けばいいじゃない。でもアタシたちどけないから、悪いけど頑張って通ってね。もし触ったらアタシのこと好きってことで」


「それいいね。ほら通りなよ天美くん」


 端田も女の子も完全に悪ノリである。困ったことにガードされている事は知っているので、通ることはできないのだ。

 決して彼女らを見ている訳じゃないぞ!壁見てるんだからな!


「いや無理じゃん。出口で仁王立ちされたらさ」


「えー?アタシがここにいるのなんで知ってんの?もしかして見てる?」


「予想通りだからだよ」


「別に見ても良いのに」


 栞は良いさ、だって恋人だし。でもさ、端田とあの子は違うじゃん。ただのクラスメイトだもん。

 頼むから、いい加減解放してくれ。

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ずっと仲良しな幼馴染 サカド @udonge1366

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