九十八話 凸の後

 家にあの男が突撃してきたことで警察に通報した俺は、ヤツがしょっぴかれていった後 栞にその旨を電話で伝え、家事をしている途中で今度は彼女が家に突撃してきた。

 思い立ったら即行動なのは悪いことじゃないし来てくれるのは嬉しいんだけど、せめて一報は欲しかったかなと思いつつも、サプライズのようで嬉しい気持ちになったのは間違いない。

 次からは連絡してと彼女に伝えると、気まずそに笑った。

 これから風呂に入ろうと思ったのだが、栞も一緒に入りたいらしい。


「ふんふん♪おふろおふろー♪」


 嬉しそうに服を脱ぐ栞を見ながら、俺も一緒に服を脱ぐ。

 彼女の脱衣速度はとても早く、目を離した隙に生まれたままの姿になっていた。


「ふわぁ……好透ってばすっごい……♪」


 脱ぎ終えた俺の体を見た栞が顔を赤くしながら興奮したようにペタペタと触れながらなにやら呟いている。


 そんな彼女と一緒に身体を洗いあって、お湯に浸かる。俺は湯船に背を預け、そんな俺に栞が背を預けている。

 彼女を抱きしめながらゆっくりとする時間は幸せを実感出来てとても心地良かった。



 唐突に決まったお泊まりの時間なわけだが、やることはいつも通りで風呂から上がった後は本を読んだりゲームをしたり喋ったりと、思い思いに時間を潰していた。

 逆ギレした男が刃物を手に家にやってきたと考えれば恐ろしい話だが、これが栞や衣織ちゃんに向けたものじゃなくて本当によかった。

 もしあちらにその矛先が向かい、二人に何かあれば俺は絶対にヤツを許さないし " 相当の覚悟 "をしただろう。


 しかし事はそこまで深刻にならず、今はこうしていられる。これからも警戒は怠らないようにしないとな。


「あぷっ!」


 そんなことを考えていると、俺の膝を枕にして仰向けになっていた栞が手に持っていたスマホを顔に落としていた。痛そう。


「大丈夫か?」


「たはは、大丈夫……」


 気まずそうに笑う彼女の頭を撫でながら時間を確認すると、もうそろそろ十一時になろうというところだった。

 確かに眠気も感じ始めてきたところだし、もう寝ようかな?


「もう寝るか?」


「うん♪」


 そう言った彼女は上半身を起こしたと思えば服を脱ぎ始めた。えっ、寝るってそっち?

 驚きはしたが嫌ではないので俺も服を脱いだ。



 最近は寝る前に行為に及び、朝にシャワーを浴びることがだいぶ増えた。

 今日もその通りで、起きたらシャワーを浴びて朝食を食べる。


「やっぱり好透って凄いよね」


「なんだいきなり」


 味噌汁を啜り一息ついた栞がそう言った。

 何がどうすごいのか分からないが、褒められて悪い気はしない。でも栞や衣織ちゃんの方が素敵だと思うんだが……っていうかすごいとは?


「だって勉強も運動もできて、そのうえ家事もできるでしょ?優しいしイケメンだしぃ、それにエッチも上手ときた!だからすごいなぁって思ってさ♪」


「朝食時に聞かないワードが出た気がするぞ……でも、そうか?特に考えたことないけど……」


 なんでもそうだが、あくまで必要だからやっただけなんだよな。勉強だって運動だって家事だって、全部必要だから出来るようになんとかやっただけだ。

 だからそう言われると報われた気持ちになる。


「私って家事できないし勉強もあんまりでしょ?運動は自信あるけど……比べてみるとそう思ってさ」


「気にしすぎだろ。それに栞は勉強できないっていうけど、平均以上はちゃんと取れてるからノルマは超えてるよ。むしろ無理してでも学年上位を目指すのはただの酔狂みたいなもんだ」


 人には向き不向きとか得手不得手とか、そういうのもある。俺はただ偶然勉強が少し得意だったというだけだ。栞までそれに合わせて無理をすることはない。

 そんな俺の言葉に彼女はふんふんと相槌を打っている。

 

「それに、家事だっていきなり上手くやれるようになったわけじゃないよ。なにより栞は遊んでて楽しいし明るいし、お互い理解もあるだろ?あれができるこれができるとかそういうのじゃなくて、思いやれることが大事だと思う」


 幼馴染だからこそ、こうして良好な関係を築いてきた。知ってるところも知らないところも、それらを考え配慮し合えることが一番大事なのだと思う。

 どっちがすごいとかじゃない。


「栞はすごく可愛いし性格も良いし、能力じゃ測れない魅力はたくさんあるよ。まぁ結局何が言いたいかって話だけど……俺は栞が好きだよ」


「んっ……ありがとっ♪」


 満面の笑みでそう言った栞だが、少し喋り過ぎてしまった。それからの彼女はとてもご機嫌だった。

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