九十七話 凸
警察が帰ったあと、俺たちはそのまま栞の家に向かった。ちょうど中間あたりでの襲撃だったので仕方ない。
彼女の家についてそのまま上がらせてもらい、優さんたちに事情を話しつつ処置を施してもらった。
本当は病院に行くべきなのだが、あいにくと今の時間はやっていない。緊急外来?知らないですねそんなもの。
「そう、それなら後は警察に任せておけばいいとは思うけど……」
「なんてことなくて良かった、栞が無事ならそれでいいと思うよ」
俺ならどうとでもなるけど栞や衣織ちゃんがしんどい思いをするのは耐えられない。
そんな気持ちもあってそう言ったところ、傷の手当てを終えた優さんが抱き締めて、優しく頭を撫でてくれる。
「何言ってるの、好透くんだって私たちの子供のようなものよ?そんなあなたが怪我をさせたその男の子に結構ムカついてるの」
「そうだよ。今回は手の怪我だけで済んだけど、もしもっとひどいを怪我したり、病院送りにでもなったら 僕たちみんな耐えられないさ」
多熊さんもこちらにやってきて、背中をさすってくれる。夫婦揃って優しすぎんか?
二人がいずれ義両親になるわけだが、そのためにも命は大切にしないとね。ヤツも警察に捕まるだろうけど、それこそ普段から色々なことに気を付けておかないと。
優さんからのお誘いで一緒に夕飯をいただき、そのあと少しだけ栞と衣織ちゃんと遊んで帰路についた。
夜道は暗くなり、少し冷えた風が頬を撫でる。
少しだけ運動しようと、軽いジョギングをしてから家に帰った。
そして翌日……あの男は学校に来ることはなく、もう大丈夫だと思い今日は栞を家まで送った。
彼女と手を振って別れ、家に向かって歩く。
今日は二人でゲームをする予定だ、夕飯を食べたら連絡しよう。
そして時間が経って夜になり、夕飯を食べ終えた頃にインターホンが鳴った。まだ片付けがあるというに……誰なんだ?
不審感は特にないが疑問に思いモニターを見てみると、そこには誰も見えなかった。
今どきピンポンダッシュなんてあるあるわけもなし、とはいえ姿が見えないということはわざわざ隠れたということだ。そこから不審感が胸中に頭角を表しはじめた。
とりあえず無視しつつ警戒だけはしておくが、またもやインターホンが鳴らされた。しかしモニターには誰もいない。
とはいえ誰がこんなことをするのかと、この後の用事もあるしこれ以上鳴らされると困ると思い、扉を開けて外に出た。
少し歩いて家の門をくぐったところで、その脇から誰かが飛び出してきた。
「ックソ!死ねよ!」
「なっ……!」
飛び出してきたことにはそこまで衝撃は無かったものの、その正体があの男であったことには驚いた。
またもやカッターナイフを手に飛びかかってくるが、咄嗟に距離を置いて顔面に蹴りを入れて対応した。
自分でもこんな動きが出来たのかと少し驚きつつも、転げ回ったヤツを拘束し念の為にと持ってきたスマホで警察に通報。
ギャーギャーと喚くヤツがうるさいので電話中だけは首を絞めて声を出せなくしてやった。
さすがにトドメを刺してはダメなのでね。
通報を受けた警察がすぐにやってきて、またもや俺を逮捕しようと組み伏せられた。ヤツは手に刃の折れたカッターを持っていたので一緒に捕まった。
昨日と同じことを繰り返して、どうしてこう警察というのはアホなのかと思ってしまうが、人をやっぱり組み伏せていたらそっちが怪しいと思うもんなのかな?
そして彼らは俺たちに事情を聞いているのだが、昨日ヤツにつけられた怪我、取り上げられたカッターに血が付いており、極めつけはおどおどして支離滅裂なことを言い出す始末。
ここまでのことが起きればさすがに誤解は解けたようで、ヤツはそのまましょっぴかれていった。
まさか今まで逃げおおせていたとは、よほどヤツの潜伏能力が凄いのか、あるいはよほど警察がアホなのか偶然なのかは知らないがそれにもびっくりだ。
まぁ学校でも影の薄い人間だと聞いたし、そういう事なのかもしれない。
無事に警察が帰り、起きた出来事を栞に電話で話した。彼女はすごく心配してくれたが今回は怪我をしていないので、無事だと返しておいた。
「いやぁ好透が無事で良かった!」
「来てくれたのは嬉しいけどせめて一言連絡ちょうだいね?」
「たはは……面目ない」
電話が終わり夕飯の片付けをしていたところで栞がすっ飛んできて今に至る。さすがに夜に学生一人というのは心配なのでせめて連絡の一つは欲しかったのだが、どうやら感情が上回っていたらしい。彼女は後頭部に手を当てて苦笑した。
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