九十六話 逆恨み
あのよく分からない男が俺のことをネットに晒し、俺が関わった女子たちに変なことを言って回ってしばらく、今は特にアクションを起こしていないようだ。
周囲の連中からはかなり距離を置かれているらしく、肩身狭い思いをしているらしい。
とはいえ油断はできない。もし栞が八つ当たりや逆恨みでもされたら最悪だ、俺はソレを警戒して周囲に気を配っている。
家に帰る時も必ず栞を俺の家でゆっくりさせてからにしているので、万が一つけられたとしても大丈夫のハズだ。
家から外を覗いても姿はないので、家に入る直前に立ち去ったと仮定したとて彼女の家に行くことは無い。一応 長名家全体で警戒を徹底してもらうように伝えてはあるので、何かあれば警察を呼ぶハズだ。
あそこまで自分を盲信しているタイプの人間はまともに会話ができず、反省や後悔もしないので繰り返すままだ。
いつぞやか小説がどうとか言ってたので、そちらで充実して俺たちのことは忘れてくれればいいのだが、事はそう上手くいかないことも多いし、そちらも上手くいかないとなれば栞の方に行く可能性も十分にある。
一緒に行動することを徹底しよう……って今まで通りか。
あれから一週間経ち文化祭の準備などもぼちぼちと始まっている中、俺たちは家に帰る。
まだ準備も始まったばかりだからね、やれることもそうないのさ。
スマホを出すフリをして手鏡で後ろを見ると、例のヤツがしっかりつけて来ていた。今までは見えなかったのに……
適当なところで曲がり、そこから栞と共に思い切り駆けた。彼女の方が若干速いが、それでも追いつけないワケじゃない。
七回ほど交差点を曲がりもう一度手鏡で後ろを確認するが、ヤツはいなかった。今日はすぐにでも栞を家に帰そうと思ったが、彼女の家に先回りされている可能性もある。
悟られないようには気を付けていたが、万が一ということもある。
それまではまた栞には家にいてもらった方がいい。
決して油断せず、定期的に後ろを確認しながら帰路につき、家が視界に入ったところで今度は全体を警戒した。
もしはぐれてここに来ていたら最悪だったが、ヤツはここには現れなかったので問題ない。
鍵を開けてすぐに家に入る。自室からカーテンの隙間から家の前を見てみるがヤツはおらず、とりあえずは大丈夫かとひとまず安心した。
時間が経ち、今日もそろそろ帰る時間だ。ヘトヘトになった身体をシャワーで清めた俺たちは暗くなった外に出る。
栞の家に向けて歩いていると、向こうから誰かがやってきた。まぁすれ違うこともあるだろう。
しかしその予想は外れていた。
「ックソ、俺が苦労してるってのに……」
その正体は例の男であり、ソイツはブツブツとなにかを言いながらゆっくりとこちらにやってくる。しかし、その様子は異常だった。
ふとヤツの手を見ると、そこに握られていたのはカッターナイフだった。
「栞、警察呼んで」
「うっうん!」
「ふざけるなああぁぁ!!」
栞がポケットからスマホを取り出したところでヤツは叫びながらカッターをこちらに向けて突っ込んでくる。栞を庇うように前に出たが、どうやら元々俺を狙っていたようだ。
刃に気を付けてその手首を掴み、ソレを捻りあげる。右手でカッター本体を握るようにし、左手で上から押さえていたのでこの場合掴んだのは右手である。
「っぐ……はなせよクソ……っ!」
「危ねぇな」
絶対に離さないつもりでその手を握っていると、ヤツはカッターから手を離しそれが落ちる。
しかしその瞬間を左手で掴んだヤツはすぐにそれで刺してきた。かなりの速さで対応が遅れ、カッターそのものを刃と共に握ることでなんとか胴体への傷は免れた。
「好透!」
「いってぇ……」
「っクソ!離せ、はなせぇ!」
なんとか離れようともがくが、幸いそこまで力はないみたいでヤツの方が転んでしまう。どうやら握力が無さすぎてカッターから手が滑ってしまったようだ。
俺の手に残ったソレを地面に捨て後方に蹴り、逃げようとしたヤツの頭を引っ掴む。
「ぎっ……っ!いてぇだろ離せよぉ!」
「黙れ」
そのままヤツの頭をこちらに寄せ、首を左腕と胴体で絞めるようにガッチリと固定した。痛いせいで腹が立ってくる。
ギリギリ絞めきらないほどの力で喉元を押さえて、意識を失わせないようにして警察を待つ。
すぐに警察がやってきて、頭が血まみれになったヤツとソレを押さえる俺に彼らは混乱したようで俺が取り押さえられてしまった。
その時に離れたヤツが上手く警察から逃げたようで逃がしてしまったが、俺もガッチリ捕縛されてしまい追いかけられなかった。どうやら俺が加害者となってしまったらしいが、栞が状況を話し俺の手の傷を見せたことで解放された。
危険な人間を逃がしたことと誤って俺を捕まえてしまったことで彼らは謝罪したが、ぶっちゃけめちゃくちゃムカつくけど冷静に考えれば仕方ないことだ。
頭血まみれの男が首を絞められ捕まっていたら誰だってそっちを助けようとするだろう。
彼らに事情を話し、ヤツの名前と学校も伝えておいた。すぐに対応するとのことで、今日は帰ってしまった。
ちなみに手の怪我についてはすっかり忘れて帰ったようで何も言われなかった。まぁ警察なんてそんなもんか。
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