九十五話 勘違いを極めた男

 あのクソ野郎の顔を、浮気男だという文言とととちSNSで公開したら本人が俺に突撃してきた。

 それでも毅然とした態度で立ち向かった俺はヤツを言い負かし教室に戻った。


 しかし、その翌日から問題が起こる。


「なぁ、ちょっといいか」


 話しかけてきたのはあの男に遊ばれていた酒匂さかわさんだ。きっと真実に気付いて俺に助けを求めてきたに違いない。


「お前さ、天美あまみのこと晒したろ?」


「晒したって言うか、浮気性の最低男だってことを皆に教えただけだよ」


 俺はハッキリ事実を伝えた。だって二人三人の女の子と遊んでたからね。恋人がいるのにさ。

 誰も彼もを騙して遊んでいた男を暴露して何が悪い。


「やっぱりお前か……ストーカーに盗撮、挙句ネットに晒すなんて、お前のやった事はかなり酷いぞ。人としてどうかしてるぜ」


 何を言うかと思えば、酒匂さんはどうしてか俺を罵倒してきた。おかしいだろ、俺は悪人に罰を与えただけなのに!


「なっ……人としておかしいのはあの男だろ!あぁやって人の気持ちを弄んで!」


「お前の言い分にあるその浮気とか弄ぶってのはどこ情報なんだ?別にアイツは浮気なんてしてないし弄んでもねぇよ。アタシも天美とは仲良いけどよ、ただ友達ってだけだし変な情もねぇよ。長名一筋だし、どっちかってぇと絡まれてんのは天美の方だ」


 じゃあどうしてアイツは笹山さんと手を繋いでいたんだよ!どうして楽しそうに喋ってたんだ!

 俺なんて女子に相手にもされないっていうのに!


「まぁそういうことだ。とりあえず晒したアレは消しとけよ、じゃないとお前が痛い目に遭うぞ」


 彼女は俺に言いたいこと言って立ち去ってしまった。アイツに向けた表情は誰が見たって気があるモノのはずだ。

 どうしてアイツばっかり、、どうして俺ばっかり……



 そんな会話をして数日、俺の学校での立場は最悪だった。誰も彼もが俺を避ける。

 向けられる視線は侮蔑そのもので、逆にアイツは言い寄られたり言い寄ったりしていた。


 しかもクラスの連中は俺の事を危ないヤツだとかバカだとか言ってやがった。クソッ、人数が多いからってイキりやがって……


 何もできないものの、俺はあのクソ野郎の悪行を更にSNSで公開した。ざまぁみろ。

 とにかくヤツを見張っては証拠を揃えてネットに公開するの繰り返しだ。いずれヤツの周りから人が消えていくはずだ。


 しかし現実は理不尽ばかりだった。


「いつまで人をネットに晒してんだお前。アタシ言ったよな?やめろってよ。それなのになんで追加してやがる、いい加減にしろよおい」


「ぃっ……えっ、と……」


 そう詰め寄ってきたのは酒匂さん。どうしてそうも奴を贔屓して……意味が分からない。

 どれだけ説明しても理解してくれないし、どれだけ正しくても間違ってると言われる、そんなクソみたいな感情論や自分勝手な言い分でねじ曲げられても困るんだ。


「そうやって安全なところから嫌がせってか?陰湿だし性格ワリィし、そりゃお前みたいなヤツみんな嫌がるよな。自業自得だよ」


 最近の俺の様子を見てか彼女はそう言って鼻で笑った。

 人が気にしていることをバカにするなんて、それはやっちゃいけないんじゃないか?おかしいのはそっちだろ、最低だ……


 しかしそれは皆も同じで、誰も俺とは喋りたがらないどころかまるで危険なものを見るかのように離れていく。


 そのせいなのかは知らないが、俺の小説も全然伸びず、あのSNSの投稿でもアンチのコメントで埋め尽くされた。ネットでもリアルでも上手くいかないのはなんなんだ?


 どいつもこいつも俺の事を邪魔しやがって、それもこれもあのアマミとかいう男が俺と長名さんの恋愛を邪魔したからだ。

 俺たちが結ばれるのが嫌だから、それを防ぐために裏で糸を引いて俺の輝かしい未来への道を塞いでいるのか。


 それなら簡単だ。ゲームでも漫画でも小説でもそうだが、悪は倒せばいい。いや、倒さなきゃいけないんだ。同じ被害者を産まないために、人知れず蔓延るアイツの悪意を、俺が……

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