九十四話 勘違いストーカー盗撮晒し魔

 まさかのクソビッチだった長名さんが俺を蔑むような目で睨んでくる。コイツもあの男と同類だったなんて……


「用はそれだけ?もういいかな、はやく戻りたいんだけど」


「あっ、えっ……と……」


 目の前の出来事が受け入れられず言葉が紡げない、そんな俺を無視して彼女は行ってしまった。

 どうして俺が悪者にならなきゃいけない、長名さんは俺に声を掛けてくれたのに、笑ってくれたのに!

 俺だけが彼女と通じ合えていたというのに、どうしてあんなぽっと出の男なんかが邪魔してくるんだ!


 彼女がダメなら仕方ない、笹山さんに話を聞いてもらうしかない。絶対にあの男を後悔させてやる。



「あー、ウチを呼んだのはキミだよね。なんの用?」


 長名さんを呼び出した日の夕方、俺はどこか気怠げな笹山さんに話を聞いてもらうことにした。

 スマホにあるクソ野郎の浮気の証拠を彼女に見せて、アイツは最低な男だと伝える。しかし彼女はギャルっぽい見た目通りのビッチだった。


「はぁ?別にあの二人が付き合ってるのは周知の事実だし、他の写真だって好透くんが女の子とただ喋ってるだけじゃん。それで付き合ってるとか浮気とか言ってるのってヤバくない?人と関わったことない感じ?しかもコレって勝手に撮ってるワケで、それってストーカーして盗撮してる訳じゃん。いやキモすぎだし、ありえない」


 笹山さんも同じく蔑むような目を俺に向けて暴言を吐く。あんまりじゃないか こんな

 普通に考えてこんなに楽しそうに喋っているだなんて好きじゃなかったらありえない。俺だって漫画や小説を見たりして勉強してるんだ。

 無知でビッチな奴らめ、そんな簡単なことも分からないのか……


 話にならず、彼女は ふんっと鼻を鳴らして言ってしまった。ただ立ち尽くすことしかできないおれは、失意のまま とぼとぼと家に帰るのだった。



 俺は次の日、同じクラスの酒匂さんも呼び出して話をしてみた。彼女も被害者のはずだから、きっとヤツに対して怒るはずだ。


「見て欲しいものがあってさ、コレなんだけど」


「ん?天美じゃねぇか」


 いくつかの写真を見せると、彼女が男の名前を呼んだ。他のクラスだというのにわざわざ名前を覚えているということはやっぱり酒匂さんもコイツに弄ばれてたんだ!

 だから俺はアマ……とかなんとかって男の正体を教えてあげた。きっと傷付いてしまうだろうけど、俺がいるから大丈夫だ。


「あぁ?何言ってんだお前。別にアイツが他の女と付き合ってようと関係ないしどうでもいい。ただのダチだからこっちがどうこう言うことじゃない。っていうかテメェ勝手に写真撮ったのか?盗撮とか気持ち悪いからやめといた方がいいぜ」


 結局のところ彼女もあの男の味方だった。どうしてみんなしてあんな最低男を庇うんだよ!おかしいだろ、俺の方がずっと頑張ってるし好かれる努力もしてるのに……


 おかげで俺は女を信じられなくなった。どうしてあんなクソ野郎なんかを好きになって俺を嫌いになるんだ……

 苛立った俺はSNSで、撮影した写真をトリミングしてあの男の顔をばらまいてやった。コイツは最低な浮気男だという文言も付けたから、ある程度の返信もあって俺と同じ意見が飛んできた。


 やっぱり俺が正しかったんだ、他の連中が間違ってたんだよ!だってネットなら皆俺と同じことを言っているし間違いないんだ!


 中には盗撮だと言ってくるやつもいたけど、そんなのはクソだ。俺が正しいからってわざと変なことを言って俺を敵視しているに違いない。

 どうしようもない悲しいヤツらだな。


 しかし、いきなり呼び出されたんだ。あの男に。


「お前さ、俺が気に入らないのは好きにすればいいけど勝手に写真撮ってネットに晒すなよ。やっていい事と悪いことの区別もつかねぇのか?」


「うっうるさい!お前のせいで長名さんがおかしくなったんだ!」


「はぁ?」


 俺はアホ面を晒しているクソ野郎にあった事を全て言ってやった。お前の本来の姿は分かっているんだぞと。


「えーとだな、まず俺とおさなは元から付き合っているし、そのことは小春ささやまさんも知ってるしそれを承知でデートした。それに酒匂だって色々あって知り合いになっただけだしクラスメイトと喋っているのも普通だろ。なんでそれだけで浮気なんだ?意味がわからんぞ」


 ヤツはそうやってのらりくらりと嘘や誤魔化しをして煙に巻いた。悪いとわかっている証拠だ。


「そうやって嘘をついて自分が間違っていないと言うのか?ハッキリ言っとくが俺はお前と違ってファンがいるんだ、いつか成功して金だっていくらも稼げる!お前みたいな最低な浮気野郎じゃ女の子を不幸にするだけだ!俺こそ長名さんと付き合うべきでお前じゃ……」


「随分と勝手だな、夢ばっか見てないで現実を見ろ盗撮魔にストーカー。普通に犯罪だぞ」


 俺の才能を僻んでコイツは負け惜しみを言っている。口ばっかなコイツはきっと堕落していくはずだ。もう既にしてるかも……


「ふんっ!そうやってバカみたいなこと言ってろ!」


 あまりに話にならなくてイライラするのでヤツを無視して帰ってやった。自分の行動のせいで注意しろと言われただけなんだから、反省するべきだな。


 俺はなにも、間違っていない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る