九十三話 勘違いストーカー男の接触

 危なかった。もう少しであの アマイだかコンスケだかよく分からないクソ野郎にバレるところだった。

 アイツは俺と両想いであるはずの長名さんを弄んだだけでなく、彼女の友人の笹山さんやまた別の女の子にも手を出しているようだ。

 しかも俺と同じクラスの酒匂さんにまで……あんなヤツがいるから不幸になる女の子が増えるんだ。どうしてあんな不誠実なヤツを好きになる女の子がいるんだ、俺なら絶対幸せにしてあげるのに……


 俺はずっとヤツの悪事についての証拠を集めていた。

 恐らくヤツが一番としているのはあの長名さんだが、その次は笹山さんとみた。

 手を繋いで仲良くデートか……もし長名さんや他の女の子と遊んでいることを知ればきっと失望するだろう。

 いや、もしかしたらショックを受けるだろうし俺が慰めてあげないと……


 そう、俺のやっていることは正義の行いだ。ああいう性欲だけで女性を弄ぶ男を断罪し、行動を改めさせねばならない。

 そして長名さんたちには正しい恋愛をさせてあげるんだ。俺にはきっとそれができる。


 前々から俺は小説をネットに投稿している。リアルじゃ運動も勉強も振るわないがコレならきっと成果を出せる。

 俺のことを眼中に入れない連中に一泡吹かせ、そしてあのアマイとかいう奴に天誅を下し、ヤツから解放した女の子たちは俺の元に来る。


 そして小説がヒットすればソレの印税もうけでお金だって自由に使えるようになる。

 全ては時間の問題だ……今に見てろよ、アマイ。


 どいつもこいつも必ず後悔させて、そして俺の良さに気付かないヤツらはみんな痛い目を見るんだ。



 こうしてあのクソ野郎があちこちで女の子に手を出そうとしている場面を写真に収めた。証拠は十分か。

 あんなヤツには長名さんや笹山さんなんてもったいない。せいぜいヤツのクラスにいるオタク女子くらいだろう。

 あの女も何考えているか分からないし俺と違って根暗だしで、クソ野郎とお似合いだ。


 だから俺は、まず長名さんを呼び出した。

 自分が弄ばれていることを気付いていない可哀想な彼女を解放して、傷付いた心を癒してあげるんだ。これは俺にしか出来ないこと。

 いつだったかあの男と彼女がイチャイチャしていた空き教室で待っていると、彼女はやってきた。


「ごめんね、待たせちゃって」


「いや……だっ大丈夫……」


 これから話すことにドキドキしてしまい言葉に少し詰まってしまう。彼女は優しそうな微笑みを浮かべており、やっぱり俺のことが好きなんだなと確信した。


 だからこそ俺は、彼女を解放してあげなきゃいけないんだ!


「それで、なんの用かな?」


「俺は……長名さんが好きです!付き合ってください!」


 言った!これが長名さんの求めていた言葉だったんだ、やっと結ばれるんだね。待たせてごめんね、長名さ……


「ごめんなさい」


「っ!こっこれからよろ……え?」


 今俺は、とんでもない聞き間違いをしてしまったようで有り得ないことが聞こえてしまった。

 まさか、長名さんが断るはずがない!だって俺のことが好きなんだから!


「えっとごめん、もう一度……」


「キミとは付き合えないから、ごめんね」


 彼女から淡々と告げられた言葉の意味が分からなかった。付き合えないって、どうして……

 もしかして……ヤツに脅されているんだ、そうに違いない!


「そっか、アイツのせいなんだね」


「え?」


「ほら、長名さんが一緒にいたあの男だよ……アイツに変なことされたんだろ?」


 きっと、この言葉が欲しかったはずだ。好きな人のことなら分かる。

 助けを求めたくてもソレができない……なんて酷い男なんだ、アイツは。


「分かってるよ、怖いよな……俺が助けてあげるから」


「ちょっ、ちょっと待ってよ!」


 可哀想な長名さんを優しく包み込んであげようと傍に寄り添おうと近付くと、彼女は一歩距離を置いて離れた。

 どういうことだ?


「私は別に変なとこなんてされてないし何も怖い事なんてない!勝手なこと言わないでよ!」


「え?」


 なんで彼女は怒っているんだ?まさか言っちゃマズかったのか?何が何だか理解ができない。


「ちっちょっと、ままっ待って……だって長名さんってあの男に浮気までされてるし、色々と酷いこととか脅されたりとか……」


「だから違うってば!酷いことも脅されたりもない!それに浮気って何?デタラメ言わないで!」


 一体なにを間違えたというのか、彼女は怒り心頭といった感じでそう声を張り上げた。

 まさか、やはりヤツが近くで潜んでいて都合が悪くなると彼女に暴力を……許せない!

 まずは浮気の証拠を見せよう、俺が味方だと知ってもらうべきだ。


「ほら、これが浮気の証拠だよ!笹山さんとか酒匂さんとか、他にも色んな女の子に手を出してる!笹山さんなんて手を繋いだりして、こんなの許せないだろ!」


 俺はあの名前の無いクズ野郎が狼藉を働いている証拠である写真を見せて彼女に言った。

 さすがにこれを見てしまえば目を覚ますはずなんだ!


「はぁ?別に女の子とちょっと喋ってるだけじゃん。しかも手を繋いでるのとかとっくに知ってるし、それにこのデートは私が許したのであって勝手にやった訳じゃないから、知らないのに知った振りとかやめて」


「えっ……」


 喋ってるだけ?しかもデートを許して手を繋いでも良いって?

 おかしいだろ、何でこんな最低な男がなんでも許されて俺が彼女に怒られなきゃいけないんだ……どうしてこんな理不尽なことが……


「っていうかコレって盗撮じゃん。しかも学校の外の写真まであって、まさかストーカーしてたの?気持ち悪い……」


 彼女は蔑むような目で俺を睨んでくる。そんなのあまりにおかしいじゃないか……だって俺は悪いことをしているクソ野郎に罰を与えようとしただけなのに、なんで怒られてるんだ?

 もしかして、こんな誰にでも手を出すような最低な男がいいのかよ……とんだビッチじゃないか。

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