九十二話 視線
朝日が昇り部屋に光が差した頃、つまり夜明けという時間というわけだが目が覚めてしまった。
昨日は栞と長い時間行為に及び、その後に眠った訳だが今はまだ目覚めるには少し早い時間だった。
すぅすぅと眠る可愛い栞を撫で、その唇にキスをした。
学校に向かう用意を終えて、俺たちはいつも通りに手を繋いで外に出た。
栞と繋がれた手は相変わらず程よい温もりがあって胸を暖かくしてくれる。
彼女と笑い合いながら学校に到着し、教室に入って自分の席に着く。
優親はいつも通り既におり、俺のところにやって来て挨拶をする。
「おはよう
相変わらずの可愛らしい笑顔をしている彼だが、やっぱり実は女の子とかない?ないか。
しばらくして後ろから胸に腕を回すように抱きつかれ、あぁまたかと思ったらその人は首筋にキスをしてきた。
思わず うひゃあ と声を上げてしまい、その犯人はクスクスと笑った。
「くふふっ、好透くんってば面白い♪」
「あのねぇ小春さん?それは反則じゃない?」
「じゃないよー♪」
抗議をするように小春に問いかけるが、彼女は悪びれることなくそう返した。ちくしょう、可愛いなおい……
彼女や優親とわちゃわちゃ話していると、またしばらくして疾峰もやってきた。
俺と目を合わせるなり ぱぁっと笑顔になってこちらにやってきた。なぁんか、なぁんかなんだよなぁ……気のせいか好感度が妙に高いような?
「天美くんおはよ!」
「おはよう」
どうしてか段々声が高くなっていく疾峰に不思議な思いをしつつ挨拶を返す。いやぁこんなに可愛いならモテるでしょー、俺なんかほっときなさいってば。
「どうしたの、好透くん?」
「いや……」
なんとなく視線を感じその方を見ていたのだが、その正体は分からなかった。
きっと気のせいだろう。気配とか視線とか殺気とか、そんなバトルモノの漫画じゃあるまいに。
そう考えている俺の様子に小春が首を傾げ、優親も疾峰もポカンとしているのだった。
そんなことはあったものの、特に何かがあるわけでもなく一日が終わる。
なぜか今日は不思議か不気味か、ちょくちょく視線を感じることがあった。とはいえ心当たりもなくモヤモヤが残る。
別クラスにいる
ちなみに彼女は困ったことがあればすぐに呼んでくれと……いやむしろ呼べと言っていた。良い奴すぎるがそもそも関わりが少なすぎるので彼女は巻き込みたくない。
そういう思いもあって、とりあえず様子見をすることにした。そもそもなにが何だか分からないしな。
「天美くん?」
「ん……?あぁ疾峰さん、どうしたの?」
「どうしたのっていうか、むしろ天美くんの様子が変だからどうしたのかなって……」
どうやら俺が変に周りを気にしていることに違和感を感じたようで、疾峰がそう問いかけてくる。
今は栞と少しだけ離れており……と言っても彼女は彼女で友人たちと話しているところだ。今は教室で荷物を片しているところ。
俺のところに疾峰が来て少しだけ話していたのだが、その時に先程のやり取りだ。
「いや、ちょっとね……こういうこと言うのもなんだけど、視線を感じるっていうかなんというか……」
「えっ、もしかして天美くんのことを気になる女の子がいるとかかな?」
「そんなわけ」
そんなことが何度もあってはたまらない。俺だって男なのだ、ちょっと靡いてしまいそうになるからやめてほしい。
あれなら優親でも差し出してやろうかしらと思うくらいだ、アイツにゃ悪いけど。
何も分からぬまま帰路につき、栞にもこの違和感について話をしてみた。
まぁ当然ながら彼女も分からないようで、やっぱり気にしすぎなのだとそう思うことにした。
とりあえず栞が大丈夫ならいいか、そっち気にしとこ。
「もしかして好透のことを気になる女の子が……」
「なんで栞まで同じこと言うんだよ」
「ほぇ?」
疾峰と同じようなことを言い出した栞にツッコミを入れてしまった。マジでなんなん?
二人で歩きなんとなく後ろを振り向く。そこには特に誰がいるわけでもなかったが、その一瞬だけ身を隠す誰かがいたような気がした。
杞憂ならそれで良し、もしそうじゃなければ……栞が危ない。
「栞、ちょっとごめん」
「え?……わっ!」
彼女を抱えて走り出す。俺狙いならいいが、もし栞が狙われていたら最悪だ。
すぐに彼女を家に送り届け、先ほどの何者かと接触を試みる。
「こっ好透、どうしたのいきなり……ちょっと恥ずかしいけど、嬉しい」
胸に抱かれた栞は頬を朱に染めて俺の頬にキスをしてくる。照れた姿は可愛らしいが、今はそれどころでは無い。
「悪いけど用事を思い出してね、先に栞には家に帰っててもらおうかと」
「そう?焦らなくてもいいのに」
彼女はよく分からないといった様子だったが、それでも恥ずかしくも嬉しそうにしてくれていた。
迂回と寄り道を繰り返した果てに栞を家に送ることができ、この事についてはまたあとで話をすることになった。
結局さっきの何者かは姿を表すことも無く、やはり俺の気のせいだったのかと思いつつ、明日から警戒を強めることにした。
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