八十八話 二日ぶりの栞

「今日は本当に悪かった」


「あぁ、うん。まぁ飯も出してもらったし良い……とは言わないけど、一応これでケジメってことにしておくか」


 約束通り俺を殴ってきたクソ後輩を庇ったとして俺と同じ学年の女の子……酒匂さかわに昼食を奢ってもらうことでケジメってことにしておいた。

 彼女は今そのことで頭を下げたので、俺もこれでカタをつけようとそう言った。

 これ以上こちらがグダグダ言うのは筋が通らないからな。


「殴られた訳だしもし急に体調とか悪くなったりしたら、迷わずアタシに連絡してくれ」


「分かった……まぁ、ムチウチとかってわけじゃないしソレですることは無いと思うけど 」


 実は酒匂は先程の通り、何かあったらということで連絡先を交換した。できればもっと明るい内容で連絡したいんだけど?

 ちなみにそれは衣織いおりちゃんも同じであり、少しずつ打ち解けてきたような感じがある。いやただ慣れただけか。


「そういう訳で俺たちはもう帰るよ。行こうか、衣織ちゃん」


「うん」


 彼女の手を引いて酒匂に手を振るとそちらもじゃあなと言って帰っていった。

 


 時間が経ち、今はもう夕方とも言えるこの時間に俺がいるのは長名おさな家である。

 しおりが俺のことを見るなり怪我のことでめちゃめちゃ心配してきたので今日あったことを彼女に話すと、彼女は俺の頭を抱き締めながら ふむふむと頷いていた。


「そっか、酒匂ちゃんがねぇ」


「まぁそういう事があったってだけだ。もしアイツに会ったら改めてよろしく言っといて」


「うん」


 やはり栞も酒匂のことは存じていたようで、予想通り俺の話は彼女に少しだけしているらしい。

 そりゃあんなこと言うわけだよ。


 " 人に喧嘩を売るようなヤツじゃねぇ "


 まるで俺の事をある程度知っているような言い方だったから納得だ。


「ちゃんと好透こうすけのことは布教しとかないとね♪」


「あっす」


 パチリとウインクしながらそう言った栞にどう答えればいいか分からず、俺はとりあえず流しておいた。

 まぁ可愛かったのでソレで良しだ。



 それからは三人でイチャイチャしたりゲームしたりと楽しんでいたら長名家での時間は思いの外早く過ぎ、気が付けば夕食を食べ終えた俺はしばらくゆっくりした後に家に帰った。



 翌日、俺を起こしに来た栞が凄まじい勢いで脱がそうとしてきたのでソレを止める。なにしてんだ発情期。


「だって昨日はずっと我慢してたし、一昨日からエッチしてないし」


「なら今日学校終わったらヤるか」


「やった♪」


 そんな約束をして朝食を食べる。

 食べ終わったら着替えるわけだが、なぜか今日は栞が俺の部屋まで着いてきた。なんで?


「いやぁちょっとね……」


「ちょっとねじゃねぇよ」


 色々と暴走気味な彼女だが、さっさと着替えたいので放置することにした。

 制服を用意し寝巻きを脱ぐ。


「はぁ……はぁ……やっぱり、すごい……」


「落ち着け」


「無理」


「じゃあなんで来たんだよ」


 ダメだコイツ、付き合い始めてからずっと一緒だったからか離れていたことでタガが外れている。なんとかならんかマジで。


「っておいコラなに撮ってんだ」


「いいじゃーん私だけしか使わないからさぁ、ね?」


「ね?じゃねぇよ」


 今日の栞は随分とテンションが高い。今からそんなんで夕方まで我慢できるのだろうか?

 そんな心配をしていると彼女は後ろから思い切り抱きついて匂いを嗅ぎ始める。


「すん……すんすん……ふぅ」


「ちょまいやいやおいやめて」


 さすがに……ふぅ ってそれはマズい。賢者タイム入ってんじゃんやめてくれ。


 そんなこんなで着替えが終わり栞と一緒に家を出る。二日離れてただけなのになんか久しぶり。

 ここまでルンルンになっている彼女を見ていると凄く可愛く見えてくる。いやめちゃめちゃ可愛いわ、大好きだわ。


「よぉ、二人とも」


 そろそろ校門をくぐるかという頃に後ろから聞こえてきた声に二人で振り向く。

 そこにいたのは酒匂だった、昨日ぶりー。


「あっ酒匂ちゃんおはよ」


「おはよう」


「おう、おはよう」


 栞に続いて俺も挨拶すると酒匂も片手を上げて挨拶をしてくる。

 彼女は俺たちを見て目をぱちくりとさせている。


「……なんか甘ったるいなお前ら見てると」


 急にジトっとした目でそう言った、そんなこと言われてもと思ったが周りから見ればそういうことらしい。



 そんな彼女と別れ教室に入り自分の席に着くと、優親が話しかけてきた。


「おはよう好透……ってまたなんかあった?顔にアザついてるよ?」


「おはよ、まぁ色々あってな」


 俺の顔にあるアザを見て彼は心配そうに尋ねてきた。マジ面倒だったよ、絡まれのほもう勘弁。


「そっかぁ、もしなんかあったら言ってくれれば僕が守るからね!」


「そりゃどーも」


 とはいえピンピンしている俺に彼は安心し可愛らしい表情で言った。

 まぁ中身は割とイカついけどね。

 

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