八十七話 ケジメってほどじゃないが
いくら三人に殴られたとてあまりにも よわよわ過ぎて大したことは無い。
あまりにも余裕の表情を浮かべた俺を見た三人はだんだん余裕のなさそうな顔になっていく。
「終わりか?じゃあ俺から行ってもいいよな?」
「えっ、えっ?」
相手は年下とはいえたった一つ下だ、それに一発くらいなら正当防衛だよな?
そう思い近付いていくとソイツは後ずさる。
「やっやめろよ!俺に手を出したらどうなるか……」
「お前が先にやっただろ」
取り巻きには間に入る度胸もないようで本人は困ったような顔をしている。
せめて抵抗しろってのつまんねぇ。
「何やってんだ」
ソイツの胸ぐらを掴んで持ち上げると、そこで横から声が聞こえてくる。誰かと思いそちらに目を向けると見覚えのある女がいた。
たしかウチの学年の奴じゃん。
「何って喧嘩だよ、売られたから買っただけだ。見りゃ分かんだろ」
「あ、殴られてんのか……ソイツはウチのいとこだ、迷惑かけたなら悪かった」
彼女は近くに来ると俺の頬に気が付いたようで軽く頭を下げる。
衣織ちゃんは俺の隣に来て彼女を睨んでいる。
「こっコイツが最初にやってきたんだ!だから俺はやり返しただけで……」
「それをアタシの兄貴に言えんのか?コイツは学校で話を聞くし大体知ってるから言えっけど人に喧嘩売るようなヤツじゃねぇから、バレバレの嘘つくな」
どうやら彼女も俺の事を知っていたようでそう言った。えっ、誰から聞いたん?あっ栞か。
それを聞いた衣織ちゃんは俺に手を握りながら、相変わらず彼女をじっと睨んでいる。まぁまぁ落ち着いて。
「でっでも、アカリ姉ちゃん……」
「うっせぇ、とにかくさっさと帰れ。叔父さんにもこのこと言っとくから覚悟しとけよ」
なんとか味方につけようとしたみたいだが彼女にここまで言われてしまうと引き下がるしかないようだ。
項垂れたソイツを放り投げると、すごすごと向こうに逃げていった。取り巻き共もそれについて行く。
「ったく……ウチのいとこがほんとに悪かった」
彼女はそう言って頭を下げる。気にしなくていいとは言わないが、それでもアイツの家族ですらないのに律儀なヤツだ。
まぁ邪魔をしたのはいただけないがな。
「はぁ……まぁ頭上げてくれ」
「お、おう……」
ずっと頭を下げられたままでもしょうがないと思ったのでそう言うと、彼女は返事をしておもむろに頭を上げる。
その表情は暗く、普段の 目立っているほどに明るい雰囲気がなりを潜めている。
まぁ身内だから放っておけなかったんだろうな、さすがに殴られるところを黙って見てろってのも酷な話か。まぁ俺にゃ知ったことではないが。
「……お兄ちゃんは殴られたんだけど、どう責任取るの?」
「……それは、えっと」
アイツらとの問題に横入りし、ケジメをつけるタイミングを無くさせたのは彼女だ。
せめて殴り返していれば喧嘩両成敗で良かったのだがな。
その分の負債は彼女がどうするか……見ものだな。
とはいえ自分から何かを請求するのはダサいので彼女の出方を見る。もし逃げたり誤魔化すようならその程度の人間ってことだ。
彼女の性格上それは出来ないだろうし、たとえそうなればずっと錘として心を縛るだろうな。
「顔も腫れちまってるもんな……びっ病院とかは」
「いらん、そこまでの怪我じゃない」
そんなところで時間をくうのは馬鹿らしい。
別に診断書を貰って被害届とかやる気ないし口内に怪我もないし見てもらう必要はない。
何故か無駄に頑丈な身体だからな、そのおかげで助かってはいるが。
「ぅっ……それなら、飯奢らせてくれ!」
「ふむ……」
まぁこれからお昼ご飯にしようと思ってたところだしな……奴らに邪魔されたからあれだけど、丁度いいかもな。
俺らはあくまで学生なんだ、それくらいが落としどころだろう。
「……そう言って、人気のないところに連れてって集団リンチでもするつもりじゃ……」
「そんなことは絶対にしねぇ!」
警戒した衣織ちゃんの言葉を彼女はハッキリと否定した。まぁそんなみみっちぃことをするくらいなら敢えて殴らせているだろうな。
「いやまぁ……アタシがあそこで邪魔した訳だから信じられないかもしれないかもだが……」
「まぁな。けど、詫びがわりに飯奢ってくれるんだろ?」
「あぁ、そうだ」
彼女が見せた眼差しは、かなり真剣なものだった。だから信じてもいいと思った。
自分でもチョロいと思ってしまうが、なんとなく勘がそう働いたんだ。
「じゃあ、たのむ」
「っ……あぁ!」
せっかくだしと、衣織ちゃんの手を引いて彼女の後ろをついて行くことにした。
まぁ警戒は解かないけどな。
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