八十一話 ちがうって

 無事にグラウンドに戻って来た俺たちだが、それに気付いて三宅みやけの元に駆け寄ってきたのは疾峰はやみねである。

 彼女は駆け寄ってくるなり三宅に頭を下げた。


「本当にごめんなさい!怪我させてしまって本当に…」


「ちょっ、大丈夫だよ。ちょっと鼻血が出ちゃっただけだから…だから頭を上げて……」


 深々と謝られアワアワオロオロとしている三宅であるが、そりゃ自分の蹴ったボールで誰かが血を流したのであればこうもなるだろう。

 疾峰の気持ちも三宅の気持ちも分かる。


「本当にごめんなさい、怪我は大丈夫?」


「だっ大丈夫だから、大丈夫だからホントにっ」


 目をグルグルとさせながらそう返している三宅を見ていると、さすがに可哀想に思えてきたので助け舟を出す。


「ちょ、疾峰さん?三宅さん困っちゃってるから、気持ちは分かるけど落ち着いて……」


「あ…うん」


 罪悪感があるのは分かるけどソレで相手を困らせたら本末転倒だ。

 それが伝わったのかは分からないが疾峰が少し落ち着いた。三宅はホッと胸を撫で下ろす。


 ちなみに三宅の胸はまぁまぁ大きい…関係ないけどね。……さっきも割と揺れてましたよ(ボソッ



 そんな一悶着はあったものの、無事に体育の授業も終わり今は昼時である。

 ちなみに栞や小春からも心配されて三宅がグルグルと目を回していた。

 三宅からすれば栞たちは眩しいらしい。(本人談)


「そういえば長名さん」


「どうしたの?」


 唐突に栞のことを呼んだのは三宅。いきなり名指しされた栞はポカンとしている。

 すると、三宅が栞の耳元に顔を近づけ なにやらコソコソと言い始めた。


「あぁー…まぁ好透こうすけだから」


「だよねっ!」


 なにやら俺の事で話をしているみたいだが、二人の様子を見るに悪い話ではないらしい。

 でもなに?どうしたの?不安になってしまう。

 とはいえ仲良くしているその姿は見ていて良いものだ。


「えっと……何の話…?」


「えへへっ、内緒!」


 そうイタズラっぽく笑った栞はとても可愛かった。やっぱりこの様子だと悪いことじゃないな、安心……あとで内容教えてくれるかな?



 そう思っていたのだが、ちゃんと話してくれたよ。それは放課後のことだった。


「いやぁね?ほら、好透ってスケコマシというか女たらし というかって話」


「なんちゅー話してくれてんの?」


 いざ聞いてみれば随分な話である。まるで俺が多数の女の子を食いもんにしようとしてるみたいな。心外ですよー!


 「だってさ?前にも言ったけど さりげなく褒めてきたら誰だって嬉しいよ、それも好きな人にさ」


「うーん、そう言われればそうか。俺も栞に褒められたら絶対舞い上がるしな」


「それならもっと喜んでいいんだよ?」


 話を聞いて確かにと納得したら栞にそう言われてしまった。どうやら俺はあまり喜んでいるように見えないらしい。

 もちろん俺は喜ぶよ?というかそんなにいつも素っ気ないかな……


「言っておくけど、好透が三宅さんを褒めるってことは勘違いさせるってことだからね?勘違いっていうと変だけど…付き合わないなら変に期待させないほうがいいよ」


「そう、だな。俺が当事者だっていうとあんまりイメージは湧かないけど、確かに半ば突き放すようにした方が却っていい場合ときもあるもんな」


 中途半端な優しさは毒にもなる、だから心を鬼にして多少の素っ気なさを持つのは大事なんだよな……それは、相手のためだから。

 相手を励ますときくらいにしておかないとな。


「そういえば、好透から見ても三宅さんってかわいいの?」


「もちろん」


 聞くまでもない話である。そもそもそれ以上に栞が可愛いだけで、三宅も大概可愛い。ただ周りの連中は気付いて無さそうだけどな。

 だからだろう、本人に自信が無いのは。だからこそ、魅力がないのなら魅力的だとちゃんと伝えたいと思ったのだ。

 自信がある人の方がずっと好かれるから、彼女にもそうであってほしかったんだよ。世の中いい人は沢山いるからな。


「時々喋ったりもするから面白い人なのは知ってるし、今日だって頑張ってたからそりゃ良く見えるさ。当然でしょ」


「ふーん?……そのこと三宅さんに言っとこ」


「やめて、それだけは!」


 話を聞いた栞がニヤニヤとしながらそんなことを言ってきたので困ってしまう。

 さっき話したばかりであろうに、またスケコマシとか言われんじゃん。別に俺は口説き落としたいわけじゃないんだっての。


「冗談だよ…ふふっ、好透ってば面白いなぁ」


 ニコニコとそう言った栞を見ているとこっちまで口元が緩んでしまう。


「……やっぱり栞の方が魅力的だよ、それだけは間違いない」


「んぐっ…ふっ不意打ちやめてよ!」


 楽しそうな栞にそう言うと彼女は顔を真っ赤にしたので笑って誤魔化す。

 そうこうしている家に彼女の家に着く。


「じゃ、また後でね!」


「おー、じゃなー」


 この後はバイトなので一旦お別れである。彼女に手を振りながら、俺は家に向かうのだった。

 

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