八十話 頑張るのはいいことだけど
「ふぅ…終わった終わった」
全力で動いたおかげで汗だくだがスッキリしたよ。今日の授業はサッカーです。
男子の試合が終わって次は女子の番だと汗を拭いながらコートの外に出る。
いつもであれば
「あっあの!」
「んぇ?」
適当な日陰に腰を下ろそうと思ったところで女の子に話しかけられた。
あれ、
「っ…今日、すごくかっこよかったよ!」
「えっ…そりゃどーも」
すこし頬を朱に染めた彼女がそう言って行ってしまった。困惑する俺である。
首を傾げている俺の元に来たのは優親と栞であった。
「人気者だね」
「だねー、やっぱり
「何言ってんだ?」
優親の言葉に同意している栞であるが、訳わかんなくてそう返してしまった。
いやいや、別に人気ってほどじゃ……ないだろ、うん!
きっと全力で走っていたから褒めてくれただけだよきっとそう。そういう事にしておこう。
それから女子が二つのチームに別れて試合が始まった。今回は栞と小春が別チームみたい。
栞チームには
まぁとはいえ男子でもそうだが、やる人やらない人の差が激しい。部活じゃなく あくまで授業だからな。
いつもだが三宅はやらない側だが、疾峰ともども頑張っているけど…栞が目立ちすぎているな。
とはいえチーム戦、どれだけ動ける人間がいるかが勝敗を分ける以上、栞一人では限界がある。
とはいえ思いの外 拮抗しているところを見るに皆頑張っている。お陰で見応えのある試合だ、すごい。
あまり積極的ではないものの何とか動こうとしている三宅だが、彼女はあまり運動ができる方じゃない。
だからだろう、無茶が祟り足を縺れさせて転んでしまった。
「っ!危ない」
それだけならまだ良かったのだが、不幸なことに誰かがパスをしたボールがソコに飛んでいき、彼女の顔に直撃してしまった。あれは痛いぞ。
それを見た俺はすぐに彼女の元に走り彼女の背中に手を当てた。
「大丈夫か三宅さん!」
「ごっごめんなさい三宅さん!」
どうやらパスをしたのは疾峰だったようで、顔を青くしながら三宅に頭を下げる。
しかし、彼女は鼻の中を怪我してしまったようで血が出てしまっている。
「とりあえず保険室に行こう」
少なくとも血が出るほどであれば、決して弱い衝撃ではないはずだ。さすがにそのままで歩かせる訳にはいかないと思い、彼女を抱きかかえた。
「うぇっ…大丈夫だから、
「ダメ、万が一とかあるし」
できるだけ揺らさないように彼女を保険室へと運ぶ。少々顔が赤いように見えるが怪我をしたことと関係しているのだろう。
程なくして保険室に到着し、担当の先生に処置を施してもらった。もちろん三宅がね。
「ごめんね天美くん」
「仕方ないって、気にしないで自愛してくれ」
彼女の背中をそっと撫でてそう伝える。怪我をした訳だからまずは自分をちゃんと癒してあげて欲しいからね。
「……ありがと」
三宅は目を逸らしながら顔を赤くしてそう言った。えっなにそれかわいっ!
用事も終わったのでグラウンドに戻る。チラっと彼女を見てみるが怪我が後を引くことは無さそうで安心した。
すると、彼女が視線に気付いたようでこちらを見た。
「えっと…」
「あぁごめん、傷とか大丈夫かなって」
傷付いたのは鼻の中だけのようで外傷は見当たらない。痣などもなさそうなので少し安心。
そう思って彼女にそう言った。
「…やっぱり天美くんって優しいね、そこまで気にしてくれるんだ」
「当たり前だろ、傷が跡になったりするかもって心配になるでしょ」
痛そうだったし心配になったもん。誰だって俺みたいになると思うよ?
心配だなんて無責任かもしれないけど、それでもね。
「……そうゆうの、ズルい」
「え?」
謎に責められてしまった俺であるが何が何だか分からず首を傾げた。んー?なにがズルいんだ?
困惑する俺をスルーして彼女は続けた。
「ホントはね、天美くんにちょっとだけ良いとこ見せれたらなって思ったんだ」
「え?」
その言葉の意味自体は分かるのだが、なんて言うか真意みたいなものが分からなかった。
だから俺は相変わらずポカンとしたままだ。間抜けなこと この上ないだろう。
「ほら、天美くん今日は凄かったでしょ?汗びっしょりになってさ」
「そうだな」
確かに今日は色々と考え事してて思い切り動いていた。大丈夫かな、汗臭くない?
そう心配になっていた俺と、肩が触れそうになるくらいに近い彼女を見ると意外と大丈夫なのかと安心する。
「だから私も頑張らないとなって。ほら、私 天美くんのこと好きだから、好きな人が頑張ってるなら私もって…ね?」
「っ!……三宅さん、俺以外にも絶対にいい人いるって。だってすごい魅力的なんだから」
はにかんでそう言った三宅が、普段の落ち着いた雰囲気からは想像もつかないほどの魅力を放ってきた。絶対俺よりいい人いるってマジ。
だから本当に、いつまでも一人の人間に固執しないで欲しい。それは小春にも言えるけど。
「〜〜っ!だから、そーゆーのだってば!いちいち口説かないでよもうっ!」
「えっごめん」
顔を真っ赤にした彼女に俺は咄嗟に謝ることしか出来なかった。事実とはいえ迂闊だったか。
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