七十五話 される側

 停学が解けた翌日、学校に来ると俺の下駄箱に紙が入っていた。なにこれ?

 差出人は書いておらず内容だけがそこにあった。


『放課後、体育館裏に来て欲しい』


 今までの事を考えると無視してもいいが、なんとも言い難い。絡まれるのは面倒だが、そうじゃなかったら可哀想だ。

 楽観的に考えるのならラブレターと言った所だが…必ずしもそうとは限らない。

 しかしその逆もまた然り……つまり必ずしも因縁を付けられるわけではないということだ。


「んー、もしかしたら告白かも!」


「そりゃあ困る」


 まさかそんなことは無いだろうと、栞の言葉をそれとなく流した。しかし現実はというと……?



「好きです!付き合ってください!」


「ごめんなさい」


 放課後の体育館裏……つまり手紙に指定された場所に来た訳だが、そこには女の子がおりこうなったのだ。

 いや何でやねん。マジで告白とは思わなかった。

 彼女はウチのクラスの女の子だ、オドオドと言うほどでは無いが自信無さげな子。三宅みやけさんだね。

 黒髪のセミロングだが、前髪が少し長く目に掛かっていてムズムズしそう。


「うぅ、そうだよね……長名さんがいるもんね」


「そりゃーな」


 もしここでその告白を受け取ると人がいるというのならその人はあまり信用しない方がいいかもな。一定の関係値があればともかく。


「そこをなんとか!」


「なんでやねん」


 なにがどう なんとかなのか?それでいけると思ったのだろうか。

 ちなみに彼女とはゲームや漫画などの話題で話したことがある。趣味の話をする時はとても饒舌でイキイキとしていて素敵な子である印象。

 普段からそうしていればもっとモテるだろうくらいにはいい子だ。


「そんな…私ってそんなに魅力ないかな?」


「そりゃ自分の恋人の方が魅力的に見えるよ、比べる相手が違うって」


 変な勘違いをしている彼女にそう言っておく。

 決して彼女に魅力がない訳では無い。

 しかし今までそんな目で見ていなかった事もありそんな急に意識は出来ない。


「別に三宅さんに魅力が無いわけじゃないよ。むしろ凄く魅力的だと思う」


「……スケコマシ?」


「なんで?」


 ただ思った事を言っただけなのだがスケコマシ扱いされてしまった。やめて。


「そうやって頻繁に女の子を喜ばせるの、勘違いさせるからやめた方が良いって、天美くんカッコイイんだし!」


 三宅は鼻息を荒くしながらそう言って詰め寄ってくる。近い近い……

 褒めてくれるのは嬉しいのだが、前半は大分誤解している……と思う。

 別に喜ばせているわけじゃないし勘違いさせているなんてことはありえないはずなのだ。


「あぁもう…せめて抱き締めてくれる?」


「いやダメでしょ」


 それではただの浮気である。

 悪いがその願いには答えられないので即答させてもらった。ダメよ!


「そっかぁ……じゃあ撫でてよ、それか手を繋ぐとか!」


「なんでそれならいいと思った?」


 普段の自信なさげな雰囲気から一変、今はいつもより元気だ。

 普段からそれなら絶対モテるだろアンタ。


「えぇ……じゃあ、せめてエッチくらいは」


「ダメに決まってるでしょぉ!」


 なにを暴走しているのか完全に錯乱状態となった彼女がそう言った。もうやめてください。

 本当にそんな提案乗ってしまったらどうするんですか?美少女にそんなこと言われて正気でいられるほど俺は清廉潔白でも誠実でもないぞ。

 ましてやそういう欲はちゃんとあるのだ、襲っちゃうぞ。


「うーん…ダメばっかり……」


「内容を考えて、お願い」


 なんか振り回されっぱなしである。

 というかなんだかんだ言いつつ結構楽しそうだなこの子。

 いつまでもここで話し込んでいては栞を待たせてしまう。そう思い俺はそろそろ話を終わらせようと思った。


「三宅さんの気持ちは嬉しいよ、でもごめん。俺にその気は無いからさ」


「……うん」


 無理やり口角を上げ気にしていない風を装っているが、眉尻が下がっているところを見るにやはり落ち込んでいるのだろう。

 そんな彼女の頭をそっと撫でる。


「三宅さんと話してるのはすごく楽しいから、その感じで皆と喋れたらきっと良い人と出会えるよ、だから自信もって」


 どう言えばいいのか分からないが、少なくとも思った通りのことを言った。なでなで。

 さらさらと髪の感触が心地よい。


「ぇぅ……っと…ありがと、ぅ?」


 困惑したように首を傾げながらそう言った彼女に思わず苦笑してしまう。かわいいなおい。


「それじゃ、悪いけどそろそろ行くね」


 俺は三宅に手を振りながらそう言って栞の元に向かった。


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