七十四話 停学終わり

 停学期間が終わり、今日から学校に向かう。

 週半ばであるため中途半端感は否めないが、それは仕方ないことだろう。

 しおりも俺に合わせての登校となる。


 すっかり元気になった彼女と二人でいつも通り学校に向かうと、すぐに優親ゆうしんが声を掛けてきた。


「おはよう好透こうすけ、寂しかったよー」


 そう言いながら抱きついてきたのでヤツの胸に手を当てて押しとどめた。暑苦しいんじゃい。


「あぁんいじわるぅ、ぐぬぬ」


 可愛らしくそう言った優親が更にグイグイとくっつこうと抵抗してきた。力強っ!

 こちらも負けじと腕に力を入れるが負けそうだ。

 可愛いツラをしているが思ったより胸筋が付いておりちゃんと硬い。柔らかかったらもしかしたらと思えたがこれではな。


「ちょっ、待て優親。落ち着け」


「力抜いてくれたら良いよ…ぬぬっ」


 言い終わると同時に優親が ぐっ と力を入れてきたので咄嗟にもう片方の腕を出して抵抗する。

 小柄で可憐な見た目ではあるがその本質はちゃんと男である。

 少なくとも今まで俺に因縁を付けてきた男たちより遥かに強い。一体 華奢な体のどこにこんな力を秘めているというのか。ぬおおっ!


 そんな攻防を繰り広げている俺たちの元にやってきたのは小春こはるである。


「おやおや?楽しそうだねぇ……」


「おっおはよう小春さん…」


 横から明るい声で話しかけてくる彼女に言葉だけで返す。そちらの方を見ていなかったので彼女が悪い笑みを浮かべていることに気が付かなかった。


「んふふ…えい!」


 なんと彼女は必死の抵抗をしている俺の頭を横から抱き締めてきたのだ。

 彼女の豊満なソレが顔の側面を刺激する。

 服の下にある少し硬めの感触がブラのものであると分かる。


「ちょ、まっ…やめろこら」


「やーだー♪久しぶりの好透くんだぁ…うへへぇ♪」


 彼女が俺に抱き着いた事で既に優親は離れたものの今度はよりヤバいことになった。

 これなら優親のほうがマシだ。

 必死の抵抗も虚しく(というか手遅れ)どうしようかとなっていた所に栞がやってきた。


「こーはーるぅー?」


「うぇ、しっ栞…おっ、おっはぁ……」


 彼女の圧に押された小春が顔を引き攣らせた笑顔で挨拶した。心なしか覇気がない。

 栞が ガシッ と彼女の肩を掴む。ギリギリということが聞こえてきそうだ。


「"私の'' 好透にベタベタしすぎじゃあ無いかな?ねぇ小春ぅ?」


「えっとね?ほらっしばらく二人とも学校来てなかったでしょ?だからウチもぉ、好透くんとイチャイチャしたいなぁってぇ…?」


「うん意味わかんない♪」


 何とか答えた小春であったが栞に笑顔でそう返されそのまま連れていかれた。

 引きずられたの方が正しいかも知れないが。

 優親と二人で笑っていると近付いてくるヤツがまた一人、高畠たかばただ。


「よっ、相変わらず賑やかだな」


「おはよう、なんか久しぶりだな」


 元々 高畠とは友人とはいえそこまで話すような事はなかった。その上の停学なので久しく感じるのだろう。

 そんなこんなで彼を交え三人で話した。



 別に停学終わりだからといってなにか特別な事もなく授業を終えた。

 帰ろうと思ったものの栞は友人らと話をしているのでしばらく待つことになった。


天美あまみ君」


 待っている俺に話しかけてきたのは端田はなだだった。珍しい。


長名おさなさん、やっぱり人気者だね」


「だな、恋人として鼻高々って感じだな」


 そこんところは割と優越感がある。栞は素敵な女の子なのだ。


「ふふっ、天美くんってあんまり感情出さないと思ってたけど長名さんが絡むと変わるね」


「そうか?」


 コロコロと笑う端田を見ていると、いつか八つ当たりされた時のことを忘れてしまう。

 本来はこんなにも優しげなのに、嫉妬や叶わぬ恋がああも人を変えてしまう。

 それはとても悲しいことなのだと思った。

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