七十三話 三人でお泊まり

 優さんの話を聞いた俺たちはギュッと手を握りあう。絶対に離さないように、その轍を踏まぬようにと。


「どちらか一人を選ぶって、それは美徳かもしれないけど……たとえ二人でも愛せるというのなら、それも甲斐性だから…きっと好透こうすけくんならできると信じてるからね」


 そう微笑みながら頭を撫でる優さんの瞳は、いつもより強い力を持っていた。

 周りの常識に合わせて不幸になるくらいなら、自分たちなりの幸せを掴んで欲しい。

 そんな意志おもいが感じられる。


「それなら、尚更一緒にいないとな」


 ソレに応える為にと、そんなことを呟いた。

 確かに先程の話はそうよくある話ではない。むしろ珍しい話だ。しかし栞も衣織ちゃんも可愛い、狙う男だって数知れない。

 それこそ もしかしたら話に出てきたようなクソ共が寄ってこないとも限らない。

 なればこそ、二人ともが下手な奴らに手を出されぬよう俺が傍にいるべきなのだ。


「まぁ、私たちは好透から離れないけどね」


「取り合ったりもしないし!」


 二人とも心強いことを言ってくれる。

 お互いに腹を割って話してモヤモヤは放置しない。どちらかが我慢する関係であってはいけない。長く続いた関係だからこそ信頼ができる。


「今日はお兄ちゃんの家に泊まっていい?」


「いいよ」


 三人で……か。

 激しい夜になりそうだ。でも、それがいい。それでいいんだ。



 その日、夕食を食べ終わった俺たちは長名家を後にし俺の家に戻ってきた。

 もちろん衣織ちゃんもいる。


「うぇへへ♪お兄ちゃんと一緒にぃ…ぐふふ♪」


「大丈夫?」


 彼女は色々と想像しているのかヤバい顔になっている。あぁ、涎が……

 それを見た栞がジトっとした目で見ているが衣織ちゃん、そんなことはお構いなしだ。


「お兄ちゃん、今日は一緒にお風呂入ろ♪」


「え、いいけど」


 まぁ栞とは昨日入ったし、衣織ちゃんだけダメなのも可哀想だろう。もちろんオーケーだ!


「しょうがない、ここはお姉ちゃんとして譲ってあげますか」


 栞が腰に手を当てふんぞり返ってそう言った。可愛すぎんか?



 という訳で衣織ちゃんと二人でお風呂に入った訳だが、やっぱり姉妹ということか。

 すっごくエッッ…だった……

 色々と持たなくなってしまいお風呂で少しだけ致したわけでありますが、一通り終わってホクホクとした衣織ちゃんがお風呂から出て、その後すぐに栞が入ってきた。


「もぅ!二人とも激しすぎ!」


「いやぁ……」


 栞が頬を膨らませそう言って抱きついてきた。

 もちろん今は何も身につけていないため色々と柔らかい。

 そんなのを感じればもちろんまた '' 元気 '' になってしまうわけで……

 それを知った栞は更に身体を押し付けてアピールしてきた……



「あぁ、スッキリした!」


「疲れるわ」


 さすがに別々とはいえ二人相手は大変だ、全くいつからこんなに節操無しになってしまったというのか。幸せだからいいんだけどさ。

 今は二人で湯船に浸かっているところだ。

 あ''ぁ''〜生き返るゥ〜…


「好透って意外と……強いよね」


「そこはボカすのか…」


 栞が頬を朱に染めながらそんなことを言った。

 ナニがとは言わないが強いのはあなたの方なのでは?とも思わなくもない。

 しばらくゆっくりし風呂から上がった後は三人でおしゃべりしたりゲームをしたりと好きなように時間を過ごした。


「えへへ♪三人だとちょっと狭いね♪」


「その分もっとくっつけばいいさ」


 布団に入るなりニコニコしながらそう言った衣織ちゃんにそう返して抱く腕に力を入れる。

 二人が俺を挟むようにして足を絡ませているのでとても……良いですね。

 すべすべとした感触、それが二人分感じられる。


「そういえば今まで三人で一緒に寝たことってなかったね」


「言われてみればそうだな」


 二人のうちどちらかとなら同じベッドで寝たことはあるが、二人一緒は今回初めてのことだ。

 これからも沢山やりたいね。


「どうして、あの人たち……じゃなくてあの人の恋人は、自分の好きな人と付き合うために相手を蹴落としたのに、裏切っちゃったんだろう」


 仰向けになったままの俺の右隣で寝ている衣織ちゃんがそう言った。

 あの人とは優さんが言っていた 男性の事だろう。

 衣織ちゃんの言う通り、好きだから相手を蹴落としてまで恋人という立場を手に入れたはず。

 それでも裏切ってしまった人間のことなど分からない。それが分かるのは本人だけだ。


「それだけ軽薄な人間だった……って訳じゃないとは思うんだけどなぁ」


「どうして?」


 俺の答えに栞が問いかける。

 そりゃ裏切ってる訳だから軽薄なのだろうが、本当にそうであればわざわざ相手を蹴落としてまで付き合ったりしないだろう。だが……


「本当に軽薄なら蹴落としてまで恋人になろうなんてしないだろ、それなら浮気でも十分だしな。 ……軽薄ってより、単純に世間知らずだったんだろ。性善説を信じてたっていうのかな?」


「うん?」


 イマイチ言葉がまとまらない俺だが、それでも二人は相槌を打ちながら続きを待ってくれている。


「人…特にその人を寝取った男たちがどれだけ危ない人間かってのを想像できなくて、無駄に人を信じてたらそうなったんだと思う。自衛が凄く下手っていうのかな。周りの制止を振り切ったのも、それだけ色々と甘く見てたんだと思う」


 何もかもが甘く、ただその連中の甘い言葉に軽々と乗ってしまった。

 そうして得た結果がアレでは世話無いがな。


「なんとも嫌な話だね、胸糞悪いって感じ」


 全くの同意見だ、だがこんな話ばかりでは気分が落ち込むばかりである。

 俺たちが出来るのは、誰彼構わず信じていいものじゃないってだけだ。

 ……当事者でない人間じゃ、偉そうなことは言えない。


「俺たちは俺たちで、できることをやろう」


「そうだね」


 といってもただ気を付けるくらいだが、それでもしないよりは違うだろう。

 両隣にいる二人をギュッと抱き締めて幸せな温もりを感じながら今日も眠りについた。

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