七十二話 胸糞の悪い過去の話
「そういえば、優さんたちはどうして俺たちの関係について口を出さないの?」
それは前々から気になっていた話であった。
いくら付き合っているとはいえ二股は問題だと思われるだろうし、なにより身体の付き合いまであるのだ……恥ずかしい話、節操がない事は自覚している。
とはいえ自分の心に嘘をつきたくはないし '' そういうこと '' をするのはお互いの気持ちによるものだ。
しかし大人として、そういう事をさせないという動きは多い。
つまるところ、俺の両親もそうだが優さん多熊さんもそういうことは止めるべき立場であるというのが社会通念としては当たり前なのである。
もちろん無理矢理 行為に及ぶのはダメとして、ちゃんと '' やるべきことをやる '' のならお咎めなしなのは甚だ疑問なのだ。
アレコレ言われないのはありがたいけど、やっぱり……ね。
「んー?それはね……」
優さんはその理由について語り始めた。
ウチの両親と優さん多熊さんは高校で知り合い、大学も同じでその頃から付き合いがあるらしいが、その時に周りに起きた恋愛絡みの事件が関係しているらしい。それは共通認識だった、こうあるべきという決めつけが人を不幸にした。
一人の男性を巡って取り合った二人の女性。その片方は男性の方と幼馴染なのだとか。
しかしもう一人の女性が自分の恋心を果たすために幼馴染の方を蹴落としたらしい。
知り合いに恋愛相談という名目で色々と教えてもらったらしいのだが、その知り合いが良くなかった。
蹴落とされた幼馴染を密かに手篭めにし、挙句相談した女性まで籠絡されたのだとか。
なんとも胸糞の悪い話である。
自分の恋心のために相手の女性を他の男性を使い蹴落とした挙句自分は快楽に溺れた。
自分が好きだなどと宣っていた男から幼馴染を退かし、その隣を自分のモノとするのでなく空虚なものにしたのだ。
その後現実を知った男性はその事実に絶望し自ら命を絶った。
現実では創作物と違いネトラセのようなもので興奮しない人もいる。彼はそちら側だった。
信じていた二人が自分を捨てて離れていった、しかもその原因の半分は恋人だったのだから……
その人はその人なりに彼女らと向き合おうとしていたらしいが、長らく一方的に距離を置かれていた果てにその事実だ。
その虚無感は察するに余りある。
「もちろんそれは珍しい話なのは分かってるわよ?でも取り合うことが必ずしも幸せになるとは限らないの」
そう語る優さんはその事を思い出しながら深刻な表情でいた。それだけ酷いものだったのだろう。話を聞いている俺たちの表情でさえ不愉快で顔を歪ませている。
「酷い、話だね……」
「その蹴落とした方の人はどうなったの?」
感想を語る栞に対し疑問をぶつける衣織ちゃん、それはただの興味本意なのか、当事者と自分を置き換えたが故の言葉か。
「あの子は……そうね、彼が亡くなったって聞いて気をおかしくしちゃってね、しばらくして後を追ったわ。自分のした事の重大さに耐えれなかったのね」
その結末はなんとも虚しいものだ、恋敵を蹴落としてまで得たものは後悔と自決。
でもそれは……
「結局悪いのは女性を食い物にした奴らじゃないか?」
本当に素朴な疑問だった、どう考えてもソイツらが悪いだろう。
まあその本性に気が付かなかったのも問題だけど、それでもやってはならない事をした奴らが悪いと思う。
「そうね、でも彼らに隙を与えたのも問題よ。好きな人ではなく軽薄な人達に自ら身体を捧げたもの」
優さんの語気は少しばかり強い、まるでその人を軽蔑しているような……
「お母さんは、それが許せないんだね」
「当然よ、周りの制止を振り切って彼らの提案に乗ったもの」
その言葉に三人で驚いた、どうやらそのクソ共の本性は意外と知れていたらしい。
つまり引き返すことはいくらでも出来たにも関わらず自分が信じたいモノだけ信じた結果周りを不幸にしただけになってしまった。
それは人の愚かさが招いた、極めてやるせないものだった。
もう少し賢明であったなら避けられた事であり優さんが怒るのも無理はない。
「そういえば、幼馴染の人はどうなったんだ?」
残された彼女は何を思うのか、どうしているのか気になるところだ。
「あの子はもうとっくに離れているわよ、彼らからね」
どうやらクソ共の興味は事態の元凶に移ったらしく、その段階で徐々に離れることが出来たらしい。
男性の方が亡くなったのはショックだったようでしばらく立ち直れなかったようだが周りの協力により自分を取り戻したらしい。
今では結婚し人並みに幸せにやっているとか、それを聞いて安心したよ。
なんせただの被害者だからな。……亡くなった男性もだが。
ちなみにその人は蹴落とした女性に対しては憤慨したらしい、亡くなったと聞いて自業自得だと言い放ったとか。そりゃそうか。
自分の幼馴染との関係を引き裂かれた挙句その人の信頼と愛情を裏切り自殺に追い込んだのは間違いないからな。
その
取り合いを良しとしなかったのもそういう事だったということか。
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