六十八話 栞は怖がり

「次は何乗ろっか」


 ジェットコースターを降りた俺たちは次にどのアトラクションに乗るか選んでいた。

 色々とあるが…逆に迷うな。


「あっ、バイキングあるね。あれ乗ろ!」


「素晴らしい」


 激しいアトラクションは好きだ、さっきので分かった。

 ワクワク気分で乗ってみたがやっぱり楽しい…が思ったより酔いそうになってしまった。

 栞はケロっとしている…すげぇなコイツ。


「あはは♪好透ってば意外と弱い?」


「かもしんねぇ」


 酔いそうな俺を見ながらケラケラと笑っている。

 あれこれ見ながら何にしようかと選ぶ、そんな折に彼女はとあるアトラクションを見つけて足を止めた。


「ラブコメの定番…どう?」


「おー」


 そう言った栞が指差したのはお化け屋敷だった。



「ガクガクブルブル」


「思ったより怖がってんな」


 栞とお化け屋敷に来たはいいものの、どうやらホラーが苦手なことを忘れていたらしい。

 顔を青くして震えている。まぁ青いかどうかは暗い場所のため分からないけど、多分青いんじゃない?


「ぜっ、絶対離さないでね!」


「もちろん」


 完全にビビり散らしてる栞が俺の手をいつもより遥かに強く握っている。ギリギリ

 潰れそうなほど握りしめてくるその手を強く握り返すと彼女が ホッと息を吐いた。かわいい。

 ゆっくりと足を進めていると、やはりお化け屋敷ということで驚かす演出が出てきた。どーん!


「ぴゃぁぁぁっ!」


「ヴェァァァ!」


 驚いた栞が耳元で叫んだことで、俺は自分の耳から伝わる衝撃に叫んでしまう。耳がキーンとするぞ…。

 というか彼女は俺の腕を思い切り抱き締めているからか、彼女の胸の感触が伝わってきてそれどころじゃない。…いや、むしろ堪能しないと!


「まっまだ続くの?」


「どうだろうな、結構歩いたけど…」


 全貌を知らないから今が中間なのか終盤なのかが分からない。序盤では無いと思うけど…。

 迷路タイプではないので進めば進むほど終わりは近付くはずではあるんだが…。


「ひぃぃ!」


「よしよし」


 一人ならちょっとは驚くと思うんだけど、如何せん栞がとてもリアクションに富んでいるためこっちはかえって冷静になってしまう。

 怖がる彼女が可愛すぎるのもあるのか、新鮮な光景だもんね。



 しばらく進むと果たして出口にたどり着いた。

 おぉ、すごい大きなため息だな。


「あ''ぁ''ー、怖かった!」


「そうだな」


 本当のことを言うとあまり怖くなかったが、取り敢えず話を合わせて彼女の顔を立てておこう。


「えぇ?好透ってば全然平気そうだったよね?」


「……コワカッタヨ?」


「バカ」


 どうやらバレていたようだが、それでも敢えてとぼけてみると彼女がコツンと頭を突いてきた。

 プクーと頬を膨らませているのがとても眼福です、やっぱかわいいなコイツ。


「……だって栞がいいリアクションばっかするから逆に落ち着いちゃって…」


「いいもん、好透に沢山抱き着けたし」


 そう言って栞はまたぎゅっと腕に力を込めた。

 とてもいい感触があり幸せな気持ちになる。


「…やっぱり嬉しい?」


「いえ全然、だって栞とは幼馴染だからな」


 久しぶりにそんなことを言ってみると栞が吹き出すように笑った。

 楽しそうな表情が心を浄化してくれるようだ…いやどっちかと言うと桃色になるかも。


「ふーん、へぇーそーなんだ?じゃあもうしてあげない」


「いや逃がさないから」


 そう言って離れようとする彼女が離れる前に、手を掴んでやるとニンマリと笑った。


「やっぱり嬉しいんだ?」


「すごく嬉しい」


「あははっ正直さんだね♪」


 本音を聞かれたら素直に答えるのがおもむきというものだろう。

 そう思い答えると彼女は花を咲かせたような笑顔を見せてきた。


「じゃあそろそろ観覧車乗るか?」


「早くない!?まだこれからだよ!?」


 ちょっとふざけてみるといいツッコミをくれた。

 とても楽しい。

 歩いていると面白そうなアトラクションを見つけたのでそれを指差して彼女に提案する。


「まぁそれは冗談としてあれ乗るか」


「あっ!いいね、楽しそう」


 とてもワクワクしているような表情で彼女は俺の手を引いてソレに歩き始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る