六十四話 無事で良かった
目的の階段を前にしたとき、上から誰かが話す声が聞こえる。
その前にも俺の聞き間違いじゃなければ…あの声は栞のもの。
それもかなり
「
「えっ、でも」
「何かあったら先生を読んできて欲しいんだ」
「っ…わかった!」
こちらに向かって来る途中、俺の様子を見た良月が付いてきた。のっぴきならない状況であることを察したらしい。
彼には階段の
「やだ!やめてよ!」
「へへっ…いやいやって可愛いやつだな…え?」
俺が来た時、一人の男子生徒が栞を羽交い締めにし、もう一人が下半身を露出させて彼女のスカートを脱がしたところだった。
三人が俺に気付きこちらを向く。
「…好透、助けて…」
口を塞がれかけた栞が涙を浮かべてそう言った。
それを見た俺は頭に血を登らせ、即座に殴りかかった。
二人を殴っていた途中で良月が呼んでくれたであろう教員がやってきて事態を把握した。
別の教室に移動し事情聴取となったのだが、本来は別々に話を聞くところ栞が俺から離れようとしなかっので、俺たちは二人で事情聴取をすることになった。
最終的にあの二人は退学、俺は暴力沙汰で一週間の停学、栞は精神的な傷を癒すためにしばらく休んでも良いことになった。
本来ならば俺にも厳しい罰があるそうなのだが、事情が事情なだけに情状酌量の余地ありとできる限りの軽い処分となった。
まぁ夏休み前の''あの出来事''も関係しているのだろう。
あの二人は退学になったのは知っているが、その後アイツらの親とかも呼び出しになったハズでたぶん相当面倒なことになってるだろうな。自業自得だけど。
栞の要望で俺の停学中はずっと俺の傍にいたいらしい。離れたくないんだってさ、別にいいけど。
俺が停学になったと聞いた いつメンが心配していたが、事情を話して俺より栞を気にしてあげてほしいと伝えた。
まぁ俺も俺でよく絡まれてたから今回もそうなのかと心配してくれているのだろう。
いいヤツらだよ。
停学となって二日目、昼間はやることもないのでボチボチ勉強をしつつトレーニングやらゲームやらやって時間を潰した。
ちなみにその間、基本的に栞はベッタリである。
まるで親に抱きついたままの子供のようだが、そうしている理由が理由だけに微笑ましいとも言えないのが困るところだ
その日の夕方、俺と栞はバイトに来た。
栞は休んでいればいいのに、彼女曰く 俺と離れるくらいなら一緒にバイトをして気を紛らわせたい……とのこと。
それならまぁ良いかと思ったので連れてきた。
店に着いて裏口の扉を開けると、丁度良月が着替え終わったところらしく、慎ましやかな胸…ちいうか胸板を張りながら髪を結んでいた。
ってかたまに思うけどコイツ下手な女子より可愛いよな、優親もだけど。
男だっての忘れそうになる。
「あっ、
その姿のまま彼はそう問いかけてくる。
「俺は全然良いんだけど、栞がな…」
「えっ全然大丈夫…じゃないよ」
今一瞬素の声だったよな。ってか大丈夫って言おうとしてなかった?
じっと彼女を見つめているとダラダラと汗を流しつつ目を逸らしている。
「……あはは、実はもう立ち直ってたりして」
彼女は頭に手を当てて困り笑顔でそう言った。空元気というわけでもなさそうな様子にすごく安心し思い切り抱きしめた。
「うぇっ、びっくりした…」
「よかった、本当に……」
実はもし栞が立ち直れなくなったら、心に深い傷を負っていたらどうしようかと凄く心配だった。
だから、今の彼女を見て凄く安堵してしまい少しだけそのままだった。
どうやら昨日はずっと落ち着かないままだったものの、朝起きた時にはだいぶ落ち着いていたらしい。
ただそんなに急に立ち直るのかと彼女自身も困惑したらしくどうすればいいのか分からなかったらしい。
まぁすんでのところで俺が間に合ったからでもあるんだろうし、栞自身の強さもあると思う。
殆ど奇跡に近いと思うけどな。
「心配かけちゃったね、ごめんね」
「別にいいよ、俺も不用心だったしな」
「それは私の方だけどね」
二人でそう言いながら笑いあった。
とはいえそろそろ着替えないと時間になってしまう。
着替えてタイムカードを押し、今から仕事の時間である。
とはいえ俺はドリンクを用意したり料理を作るくらいだ、これといって特別なこともなく仕事は滞りなく進んだ。
「どもー」
「あ、
しばらくしていると先輩がやってきた。
彼女は
ウェーブがかった茶髪でピアスを開けておりギャルっぽい風貌だが かなり優しい人である。
「
彼女はそう言って俺と栞に手を振っている。
栞とは気が合うらしく特に仲が良い。
「あっ、藍香さんおはようございます!」
「おー良月君おはよっ」
ちなみに良月は彼女のことが好きらしいが、残念ながら相手がいるようなので諦めているらしい。
まぁ良月ならいい相手に会えるだろう。
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