六十三話 狂ったヤツら

 ついさっき、好透こうすけがクラスの男子に連れられ教室から出ていった。

 昨日、彼の友人である篠恵しのえ君が彼に "警戒した方がいい''と言ったらしい。

 もちろん好透は私にも気を付けるように言ってきた。


 でも私はそれをすっかり失念していた。



「長名、ちょっといいかな?」


 爽やかな雰囲気を装うクラスメイトの男の子にそう言われるが、 彼には特にこれといった印象は無い。

 でも別に邪険にすることもないかと、それを受け入れた。受け入れてしまったんだ。


「うーん?いいけど…」


「ありがとう」


 人の良さそうな笑顔を見せた彼の後ろをついて行くと、着いたのは屋上に出る扉の手前だった。

 この学校は屋上に出ることができないので、時たまこの場所で内緒話をする人達もいるのだとか。

 ここで好透は端田はなださんに突き落とされたんだよね…と、そんなことを考えていたら目の前の彼が振り向いた。


「いやぁ悪いね、わざわざ」


「別に良いけど、なんの用かな?」


 大体予想は付くかな…と思いつつとりあえず聞いてみる。

 その予想は外れ、それどころか昨日 好透が篠恵君に言われた言葉の意味を知ることになる。

 "やっちまう''というその言葉の意味を。


「いや、なんて事ないんだよ、君が天美あまみと別れてくれればそれでいいんだ」


「え、やだ」


 なにをバカなことを言っているんだろう?

 私が好透と別れるとか普通にありえない。


「なんで?だってアイツは誰にでも手を出すんだよ?」


「出してないよ?」


 確かに好透は私と衣織、つまり私たち姉妹と付き合ってる、所謂いわゆる二股をしているけど、ちゃんと小春こはるの告白は断っている。

 ただあの子はそれを気にせずアタックし続けているだけ。真幸まゆきちゃんも小春と同じようなもの。

 誰とでも手を出すならあの二人にも手を出してるだろうし、端田さんも手を出されているだろう。

 彼女も好透が好きだからね。


 つまり好透は誰とでも手を出したりしないってこと。私と衣織だけ。


「それはアイツに騙されてるんだよ、天美は最低なヤツだから騙すのが上手なのさ」


「ねぇ、やめてくれる?不愉快なんだけど」


 何も知らないクセに、彼を悪く言うことが許せなくてイライラしてくる。

 どうしてそんな要求を私が呑む思ったの?


「良い?俺はただ長名をたぶらかすヤツが許せないだけだよ、あんなクズなんかと付き合ったら傷付くのは君なんだ」


「うっさい!いい加減にして!」


 好き勝手に彼を腐す物言いに我慢ができなくなり、怒鳴ってしまうのは仕方のないことだと思う。

そもそも彼らのような人達は、ただ単に好透が人に好かれているのが気に入らないだけなんだ。

自分たちが好かれないからって、自分らの輪に入っていない人を付け狙う愚かな人たち。

そういうところが誰にも好かれない所以ゆえんであることは明白だ。


「そういう言い方がムカつくって言ってんの!好透よりアンタの方がずっとずっと最低!そんなことならもう二度と話しかけないで!」


 そう怒鳴った私は踵を返して教室に帰ろうとする。…がその道を塞がれる。


「おいおい、結局振られてんじゃん」


「うっせ」


 現れたのはいつも彼とつるんでいる人。

 彼らの他に後三人いたはずだけど…というかどうしてここに。

 まさかの想定が今更思い浮かぶ。あまりにも不用心だった。恐怖に体が硬くなる。


「という訳でさ、俺らで楽しもうぜ」


「……いや!」


 新しくきた人が私の肩を掴み、それが嫌で振り払う。


「うぉっと…あっぶねぇなテメェ…」


 私に振り払われた人はバランスを崩して階段から落ちそうになるものの、すんでのところで持ち直す。

 私を睨むその目は怪しくギラついている。

 どこが常軌を逸したその眼差しに体が震える。


「ははっ震えちゃってんじゃんかわいー」


 そんな私の様子を見て、呼び出した方の男がヘラヘラと笑う。前後を男性に挟まれて逃げ場がない。

 私の胸中は簡単に恐怖に支配されてしまった。


「まぁ楽しもうや」


 後から来た人が私を羽交い締めにした。


「やだ!やめて!好透ぇ!」


「うるせぇ!」


 動けない私は叫ぶことしか出来ないが、さっきの男が手で口を塞いだ。


「あっぶねぇぜ、へへっ。長名って割といい体してるよなぁ…笹山ほどじゃねぇけど」


 その口を塞いだ男が下卑た視線を私に向けてくる。

 そして私を見ながらおもむろに自分のズボンに手をかけた。気持ち悪くて顔を顰めてしまう。


「やっべ、もう待ちきれねぇよ」


「汚ねぇなおまえ」


「うっせーよ」


 あぁ、私…汚されちゃうんだ、好透じゃない男に。

 抵抗できない私の心を恐怖が支配する。

 ただ彼の名を思いながらただ願うことしかできなかった。

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