六十二話 面倒は勘弁だというのに

好透こうすけ 大丈夫?なんか緊張してない?」


「ん?いや大丈夫だ」


 今は良月いづきとも疾峰はやみねとも別れた後だ。

 ただ良月が別れ際に言った事が頭から離れない。



『最近好透くんたちのクラスに転校生が来たのは知ってるんだけどね?ただその子を狙ってるヤツが気に入らないとかなんとかって言ってる奴らを見かけてね…それだけだったらキミなら大丈夫だと思うんだけどちょっと気になることを言っててさ』


 ただ俺が気に入らないとかならもうとっくに慣れているし気にする事じゃない。

 ただそれよりも面倒事が嫌なのだ、それも度を越えたものが。

 俺を警戒させたのはその後の言葉だ。


『いい加減分からせるとか、やっちまうとか言ってたよ。少なくとも何かを企んでる、警戒した方がいいよ』


 そう告げた彼の表情はいつになく硬かった。気を付けた方がいいのは間違いないだろう。


 最近ではしおり高畠たかばたのおかげで男女問わず仲の良い人間が増えてきた。

 一緒にゲームをしたり勉強をしたりと回数や時間は少ないものの関わる機会は増えた。

 女子に関してはそもそも栞と小春こはるが太鼓判を押していただけあり、彼女らのグループのみではあるもののそこまで悪い印象は無かったらしい。


 何が言いたいのかというと、俺に対しいじめなどを行ってもあまり効果がないかもということだ。

 もちろん、実は最近仲良くしているのは油断させる為でした〜、とか言われればアレだが、そんな下らない事のためにするには少々回りくどすぎる。

 それを前提にすると、いじめをしても数の利はこちらにあるということだ。

 いじめの基本は多勢で一人、または少数を攻撃すること。つまり同じくらい、または多い人数に対して行うのはセオリーとは言えない。

 まぁヤツらが正常な判断をできたらの話だが。




 どうやら正常な判断できないっぽいですはい。

 まぁさすがに表立っていじめはやらないものの複数人での呼び出しはやるらしい。バカやね。


「お前さ、マジでなんなん?長名おさなとか笹山ささやまだけじゃ飽き足らず疾峰はやみねにまで手ぇ出すなよ」


「知らねーよ」


 いきなり呼び出してきたかと思えばこれである。

 しおりに関してはアレだが、後者二人は完全に言いがかりだ。

 別に彼女らに関しては俺から関わってるわけじゃない、拒絶もしてないけどな。

 綺麗な女の子たちに囲まれて嫌な男はいないだろう、まぁ疾峰に関しては優親ゆうしんのおかげだけど。


「ぶっちゃけ長名も見る目ねぇよな、お前なんか選ぶんだしよ。マジでおかしいって陰キャのクセに」


「お前みてぇなヤツ生きる価値ねぇんだよ、そんなのの恋人とかマジで恥だろ、可哀想だと思わねぇのかよ彼氏さんは、なぁ?」


「だから知らねぇってんだよ、いちいち俺につっかかってくんなよバカが」


「バカはテメェだろ死ねよ」


 クソみてぇにごちゃごちゃカマしてくるバカどもだが、三対一でしかやれないのは臆病な証拠でもある。自信がないんだろう。

 しかしこれでは堂々巡りだ、どこかでキリよく終わって欲しいが…。


「もういいだろ、こんな下らねぇこと続けんなら俺は戻る」


 時間の無駄なのでコイツらをほっといて教室に向かう。


「なんだビビってんのか?」


「そーかもな」


 俺を挑発したつもりだろうが、別にこんなアホ共にどう思われようと知ったことではないので好きに思ってて欲しい。どーせ俺は臆病ですよーだ。


「スカしてんじゃねぇよ!待てコラ!」


 うち一人が俺の肩を後ろから掴む。汚ぇ手で気安く触れないで欲しい。


「おい離せよカスが」


「っ!…ンだとコノヤロウ!」


 苛立った俺の言葉に反応するアホだが、力も弱く大したことがない。

 少し体を捻るだけでその手を解ける。


「時間の無駄なんだよバカが」


 そう言ってさっさと教室に戻る…が、栞の姿はない。

 ちなみに昨日、良月から言われたことは彼女にも伝えてある。…とはいえ、嫌な予感がする。

 杞憂ならそれで良し、そうでなかったら大変だ。


「あれ、栞は?」


「うん?さっき誰かに呼ばれてったよ?あっちに歩いてった」


 小春がそう言って右方を指さした。


「ありがと小春さん」


「いいってことよー」


 ふりふりと手を振る彼女に手を振り返し教室を出る。

 こちらの方向で人気のないところ…いつか佐藤らと話したあの場所か?

 しかし今は、あの辺にある教室は授業で使われているはずだ。

 そこにいるのは不自然…それなら、もう少し行ったところにある階段へ急ごう。


 俺がいつだったか端田に呼び出された、屋上の扉 手前の場所だ。


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