五十九話 変な噂流すなよ

「おい、天美あまみが来たぞ」


「あいつ早速手を出したらしいぜ」


 教室に入るなりあちこちからそんな声が聞こえる。え、なんのこと?

 " 早速 '' とか '' 手を出す '' というワードから予想するに、もしかして昨日のことが関連している可能性が高い。

 確かに昨日は転校生である疾峰はやみねと共に下校したが、俺は名前さえ覚えられてないモブキャラだ。

 彼女が優親ゆうしんと下校したいと彼を誘い、誘われた優親が俺にも着いてきて欲しいと言ったので渋々ついてっただけで、疾峰からすれば完全にオマケである。


 困惑するままに自分の席につくと高畠たかばたがやってきた。あれ優親がいねぇ珍しい。


「おはよう天美、昨日は疾峰と一緒に帰ったんだって?」


「まぁな、その通りだけど別に何も起きなかったぞ」


 取り敢えず本当のことを言っておく。


「だよな、お前に限ってなんもねぇだろうな」


「まさかさっきからうっせぇのは…そういう事かよ」


 つまりヤツらは、俺が疾峰に手を出したって決めつけてガヤガヤ言ってんだな。

 と言っても男子五人と女子二人の合計七人グループの連中だ。コイツらちょくちょく目の敵にしてくんだよな、なんだろ?


 まぁバカは無視して…と思っていたら優親がやってきた。あれ、疾峰いんじゃん。

 あー、優親がちょっと暗い顔してるわ。


「おはよう好透こうすけ…」


「おっおはよう…」


 大丈夫かコイツ?近くで見ると分かるがすげぇ疲れた顔してるぞ。


「いや、やっぱり慣れないね…」


「悪化してんな」


 コイツと最初に会った時(中学の時)はここまで酷くなかったが、色々面倒事に見舞われたんだろう、すっかり女性が苦手になってしまったようだ。


「どうして僕なのさ、好透の方がよっぽど良いと思うんだけど…」


「俺には栞がいるっつーの」



 そんなこんなで休み時間、ちょいちょい世話になる自販機にやってきた。


「あの、天美君…」


 カフェオレを選んで手に取ると、疾峰が傍にいたので場所を開ける。


「あっ、そうじゃなくてね…その、ごめんなさい」


 そう言って疾峰が頭を下げてくるが何のことか分からず困惑してしまう。

 え、まさか振られた?なにそれショックぅー…じゃねえんだよンなわけねぇだろ。


「えっと、ごめんなんのことだ?」


「私のせいで変な噂が流れてたでしょ?」


 あーあれね、朝に聞いたやつね。


「なんだそんなことか、別に気にしてねぇよ。あんなバカらしい噂してるヤツらが悪い」


 そんな下らない事でいちいち頭を下げるのはあまりにも無駄だ。


「だから気にしないでよ、こっちが困っちゃうからさ」


 少しでも肩の力を抜いて欲しくて、そう言って笑いかける。


「っ…あっありがとう」


 え、何その反応…そんなに変だったかな…まいっか。

 そのまま教室に戻ると、すぐ後ろに疾峰がいたようでまたコソコソと噂されたが気にするだけ無駄だな。無視無視。



 という訳でお昼です。


「私も一緒にしていいかな?」


 栞、優親と昼を共にしようとしていると疾峰が混ざろうとしてきた。

 優親がチラチラとこちらを見てくる。俺が決めろっての?


「まぁいいんじゃないか?」


「ありがと」


 まぁ別に良いんだけどさ、話題なくね?




「じゃあ天美君とはずっと一緒なんだね」


「そーなんだぁ♪昔からずっと大好き♪」


 そう思ってたんだけどさ、栞と仲良く喋ってるわ。俺は優親と喋ってるよ。

 ただ内容がね…栞のノロケ話だから聞いてる俺は恥ずかしくて辛い。


「疾峰さんも好透の良さを知ったら惚れちゃうかもね」


「んなことあるかいね」


 人がそんなにぽんぽん惚れるものか。惚れ疲れてしまうよ。

 そう思い栞にツッコミを入れるのだが、何故か彼女はヤレヤレといった様子でため息を吐いた。

 なにこいつ。


「好透ったら相変わらず自分の魅力わかってないね、天然?」


「は?」


 栞の言葉の意図が掴めず混乱してしまう。

 なんだよ俺の魅力って、俺が本当に魅力的だってんなら、いちいち''栞と釣り合わない''みたいな文句言われたりしねぇよ。


「まぁ好透だもんねぇ…そこが良いところでもあるんだけど」


「なぁに言ってんだオメェらは」


 優親まで訳分からんこと言ってるよー。


 そんな俺たちを見ている疾峰はクスクスと笑うのだった。

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