五十八話 優親は意外とモテる

「お願いだよ好透こうすけ、今日だけでいいからさ」


「はぁ…仕方ない。分かったよ」


 まぁ本人を目の前にしてこんな話をするのも失礼だしな、しおりがいるなら別にいいか。


「ありがとう好透!」


 渋々承諾してやると優親ゆうしんが喜んだ。



 今は俺と栞、優親と疾峰はやみねが隣合うような組み合わせで歩いている。

 優親は俺の隣に来ようとしたのだが、そもそも道でそんなに広がって歩けるわけないし、疾峰は優親と帰りたかったから一緒に帰っているわけなので彼が俺の隣にいては意味が無い。


「ごめんね伴田ともだ君、なんか困らせちゃったみたいで…」


「いやいや、こっちこそごめんね?疾峰さんの目の前であんな話しちゃって、嫌な気持ちにさせたよね」


「ううん、私がいきなりこんなことお願いしちゃったから」


 互いに気を遣いあった会話をしている二人だが、そもそもなんで疾峰は優親と帰りたがったんだろな?まさかアイツが可愛いから?



 しばらくの間、俺は栞と喋りながら歩いているが、後ろの二人があんまり喋っていない。

 マジでなんで誘ったんだ…。


 それからもずっと二人は喋ることは無く、そのまま優親がいつも別れる場所に来てしまった。


「じゃぁ、僕はこっちだから…」


「えっ…そっそうなんだ、じゃあ…」


 優親の言葉に疾峰が少し驚いたようにしつつも、気を取り直して手を振った。

 俺達も彼に手を振る。


 それからは三人になった、相変わらず緊張してるようだしこういう時は栞の出番!


「そういえば、二人は付き合ってるの?」


 そんな俺の考えを裏切り、疾峰の方が口を開いた。


「そうだな、俺たちはなんて言うか…仲良しだな」


「ラブラブだよね♪」


 恥ずかしくてどう答えればいいか迷っているうちに栞がストレートに言った。だから恥ずいってばぁ…まぁ答えてくれて助かったけどね。


「そうなんだ…なんて言うか釣りあ…じゃなくてその、不思議というか…幸せそうだね!」


 絶対 釣り合わないとか言おうとしただろ、色々と取り繕うとしても結局バレバレだぞ。

 結局言うに事欠いて幸せそうってなんやねん、その通りだけどさ。


「今 釣り合ってないって言おうとしたろ、もう耳にタコが出来るくらいには言われてきてるから分かるぞ」


 何をムキになっているのかと言う話だが、やっぱり不愉快なのだ。お前が気にするなって話。


「ごっごめんね」


「ホント困るんだよねーああいうの、あれかな?皆 好透が取られたのが悔しいのかな?」


「なわけねーだろって」


 まぁ恐らく疾峰もなんの気なしに言っただけだと思うしあんまり言ってもかわいそうか。


「どっちかって言うと長名さんの方が人気だと思うよ…だってすごい可愛いし名前覚えちゃったし」


 まぁそりゃそうだろうな、同感だよ。


「じゃあもちろん好透の名前も…」


「ごめんね、分からないかな」


 栞よ、そりゃそうだろうさ。

 ロクに関わっていないうえ目立たないヤツの名前なんてそもそも聞く機会すらないだろう。


「というかやっぱり優親は疾峰さんから見ても可愛いのか?」


 俺の事より彼女がどうして優親と帰ろうと思ったのか気になるな。

 そう思ってまずはアイツへの印象を疾峰に聞いてみる。


「うん、可愛い!」


 あ、ハマってるわこの子。

 優親の可愛さにあてられてすっかり魅了されている。罪な男め。


「あー…やっぱり''気になる''んだね、伴田君のこと」


 栞がニヤニヤとしながらそう疾峰に言うと、彼女は照れたように頷いた。


「だから今日、伴田君と一緒に帰ってみたんだけど…やっぱり緊張するなぁ…」


「それで喋ってなかったんだな」


 まぁ納得ではある、好きという思いに縛られて動けない人は決して少なくないからな。


「まぁ何度も関わって慣れるしかないだろう、好きならとにかく諦めないことだ」


「そうだね、あとは周りの言葉なんてほとんどは無視していいからね。特にやっかみ」


 俺と栞はそういうのは経験者だ、少しはアドバイスが出来ると思ってそう言ってみた。


「やっかみあるかぁ?優親も疾峰さんもルックスのレベルは高いし、あとは疾峰さんがどれだけ周りと馴染めるかだろ」


 まぁもちろん気にしないのは当然として、言われないのならその方がずっと楽だ。

 いちいち呼び出されて''別れろ''とか言われるのも結構ダルい。


「まぁ、伴田君は人気だから嫉妬は間違いなくあるよ。好透だってさ…ね?」


 恐らく端田の一件を言っているのだろう。

 あれはだいぶ行き過ぎな例とは思うが、そういうこともあると覚えておいたほうがいい。


「まぁやっかみや嫉妬はどうあれ、気になるならもっと仲良くなることだな。いきなり告白したって優親は振り向かないってことは覚えといて」


「えっ…うん」



 そんなつもりは無いのならそれでもいいのだが、多分 疾峰もそういう気持ち抱えてそうだからな。

 余計なお世話かもしれないが、もう八つ当たりはごめんだからな。

 少しは上手くいってくれればそれで良しだ。

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