五十七話 転校生だってさ

長名おさなさん好きです、付き合ってください!」


「ごめんなさい」


 今日もまた告白された。

 だから私は好透こうすけ一筋なの、君らに興味無いんだってば。

 どうしてかそのことを理解できない人達が多くいて困ってしまう。


 もう何度目か分からないくらい告白されているが、彼と付き合う前はもっと多かった。


「はぁ、嫌になっちゃうな…」


「モテる人は大変だねぇ」


 他人事のように小春こはるは言うけれど、彼女だって大概だろう。

 好透に告白してからというもの、雰囲気がガラッと変わった。まさに恋する乙女って感じ。


「小春だって昨日告白されてなかった?」


「まぁね」


 ちなみに今の時間は朝だ、さきほども小春は好透にあしらわれていた。


「はーい皆、ちょっと早いけどHR始めるよー」


 先生がそう言って教室に入ってきた。


「今日はウチのクラスに転校生が来たからその子の紹介をするよ…と、入ってきて」


 先生の合図に合わせ、扉が開く。

 皆が一斉におおっ!と声を上げた、それくらい美人な女の子が入ってきた。私もちょっと声が出た。


「今日からうちのクラスに来た、疾峰はやみね錫羽すずはさんだ」


「はじめまして、疾峰 錫羽です。よろしくお願いします」


 彼女はそう言ってお辞儀をした。


「仲良くしてあげてね、疾峰さんの席はあの席ね」


「はい」


 疾峰さんが、先生に指さされた席に向かう。

 その席はよりにもよって好透の後ろの席だった…。



「もーやだなにあの空間」


「お疲れ様、よしよし」


 予想通り疾峰さんの席は人だかりができており、それほど皆が彼女に興味津々である事がわかる。


転校生てんこーせーが気になるのは分かるけど、あれにもみくちゃにされるのは苦しいな」


「だろうねぇ、好透って実は人混みあんまり好きじゃないもんね」


「いや誰でも好きじゃないだろ、俺はむしろ嫌いな方だ」


 ため息混じりにそう言う好透はちょっと疲れた顔をしてる。

 ちなみに今は好透を抱き締めてるところ。

 抱き心地は最高、持ち帰って抱き枕にしたいね。


 それから休み時間の度に好透がこちらに逃げてくる。彼には悪いけどちょっと可愛い。


「すげぇな皆よくやるよ」


「皆可愛い女の子が好きなんだよ」


「それは分かる、俺も栞が大好きだからな」


 もーどうして好透はそういうこと言うの?

 嬉しすぎて家に乗り込むよ?同じ布団入る?


「好透君ってナチュラルに口説くよね」


「口説くのにナチュラルとかあんの?」


 私たちのやり取りを見ていた小春がそんなことを言った。


「なんだろうね、好透君のソレってすごい…自然体なの、狙ってる感じがないっていうか」


「そりゃ狙ってねーもん」


 好透はそりゃそうだろと言うけど、私は小春の言わんとしていることが何となく分かる。


「あー確かに、可愛いとか言ってくる人って大体下心見え見えで気持ち悪いもん」


「今ので大体分かったそういうことか、というかストレート過ぎるだろ」


「だってホントの事だし」


 好きでもない人にいちいち口説かれても鬱陶しいだけだよ。



「さて昼を食べようね」


「いらっしゃ好透」


 彼の席の方をチラッと見てみると疾峰さんがクラスメイトの男女四人組からお昼を誘われていたところだった。そりゃ逃げるね、彼の席も取られちゃってる。


「昼休みも安らげないのは軽く絶望したぞやってられん」


 かわいそうな好透、私が慰めてあげようね。


「今日の夜はそっちに行くね」


「やったぜ」


 私がそう言うと好透がすごい元気になった。

 ……つまりあっちは…?


「どこ見てんだバカ」


「アタっ」


 何ともなしに好透のソレに視線を向けると彼に引っぱたかれた。ちょっと痛い。


「えっ、好透君もしかして…」


「ほらみろ誤解された」


 私の動きで小春が変なこと言った。やめてよもー気になるのは一緒のくせにぃ。

 こっちで喋ってる好透はだいぶ気が楽なようで、あんまり自分の席に戻りたくなさそうにしてる。楽しそうにしてて可愛いね。


 そんなこんなで今日の分の授業を終えて帰るとこなのだけれど…


「好透ぇ助けてぇ」


「勘弁」


 どうしたんだろう?

 彼が伴田ともだ君から助けを求められてる、といっても即 断ってるけど。


「後生だからそんなこと言わないで助けてよぉ」


「手に負えん悪いけど諦めてくれ」


「確かに顔色悪いもんね」


 どうやら疾峰さんが伴田君のことを気になっているらしく一緒に帰りたいと言われたらしい。

 でも彼はあまりそういうのは慣れていないから好透が傍にいて欲しかったんだろうけど、好透なんて関係ないのにあの人混みでダメージ負ってるものだから顔色が悪い。

 当の伴田君がそれを指摘した。


「そっそんなに私と帰るの嫌かな…」


「違うんだよ、嫌とかじゃなくてただ僕そういうのってあまり慣れてなくて緊張するんだ…だから好透に」


「俺だって慣れてねー」


 好透がちょっと虚ろな目をし始めているけど伴田君は切羽詰まってる。

 そしてそれを見ている疾峰さんはちょっと気まずそうにしてる。



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