四十八話 行動力を発揮する長名家

 今日は衣織いおりちゃんも一緒に家に来た。


「お兄ちゃんおはよ!」


「おはよう衣織ちゃん、しおり


「おはよ」


 彼女らを出迎え、リビングで宿題の続きだ。

 栞もマジで早く終わらせたいらしい。

 せっかくの長期休みなのだから遊びまくりたいのだとか。

 衣織ちゃんも自分の宿題をやるけど、全然余裕そうだ。妹を見習えお姉ちゃん。


「わ''ぁー!終わっだぁー!」


「お姉ちゃんうるさい」


 無事に宿題の問題集が終わって嬉しそうな栞に辛辣な衣織ちゃん。


「衣織ちゃんはどこまでやる?」


「このページで終わりだよ」


 そう言うので見てみるとその見開きの三分の二は埋まっているのでそう掛からないだろう。


「分からないところは…なさそうだな」


「うん!」


 元気に返事をする衣織ちゃんが可愛すぎるのでそっと頭を撫でると、衣織ちゃんが気持ちよさそうに目を細めた。


「えへへ♪お兄ちゃん大好き!」


 めちゃめちゃ眩しい笑顔、俺じゃなきゃ目が溶かされちゃうね。


「俺も大好きだよ…と邪魔したね、ごめん」


「大丈夫、やる気出たから!」


 衣織ちゃんはそう言ってペンを進める。

 俺たちはその邪魔をしないように静かに待っていた…栞はそっと手を握ってきたけど。


 そこから間もなく衣織ちゃんの宿題は一区切り。

 頭が良いからかスラスラと解いていた、やっぱりすごいね。


「よし、今日はここまで…お兄ちゃーん♪」


 そう言いながら飛び込んでくる衣織ちゃんを抱き締める。



 しばらくイチャイチャしていた俺たちはこれからの予定について話し合った。

 と言ってもどこへ遊びに行こうとかそんな話だけど。


「やっぱり夏と言えば海とかプールかな?」


「暑い時は泳ぎたいよねー、好透はどうかな?」


 みんなで海で泳ぐのもいいけど、俺はちょっと行ってみたい場所があった。


「キャンプ行きてぇ」





 そんな俺の何気ない一言でまさか本当にキャンプに来るとは思わなかった。ちなみにすぐるさんもいるよ。

 というか一泊二日なので保護者がいるから来てもらったのだ。

 ここはキャンプの道具やらも貸し出してくれるので思いの外気軽に来れる。多少のものは買ってきたけどね。


「やー、私もキャンプやってみたかったのよねぇ、だからすごく楽しみだったの」


 優さんもノリノリだ、いいね。

 ちなみに旦那さんは虫とかめちゃめちゃ苦手らしい、対する優さんは割と平気な方なのだとか。


「好透が行きたいって言わなかったら私達も考えなかったなー、こういうのもいいね。思ったよりもジメジメしてないから過ごしやすいし」


「テントなんて触ったことないからワクワクするね、お兄ちゃん♪」


 三人ともノリノリだ。えっ、俺?超楽しいよ!


「よっしゃまずテント組み立てるか」


「やろやろ!」


 いつもの場所から離れ、非日常を体験するとはよく言うが、これはまた楽しいものでテンション上がりまくりである。

 慣れないテント張りに手間取りながらも無事テントを張ることができた。


 それからはちょっと周りを散策してみたり、色々雑談したりと、思い思いに時間を過ごした。

 スマホは鞄に入れており、今ここにいる俺たちだけの時間を形成していた。

 デジタルデトックスってやつだね。


「あら、三人とも本当に仲良しねぇ…ふふっ」


 今の状況は、栞と衣織ちゃんがお母さんの前だというのに俺に抱きついてきているところで、優さんはそれを見て楽しそうにしている。


「あの、こう言っちゃあれなんですが…娘二人とこう、付き合ってるとかってなんとも思わないんです?」


 割と思っていたのだが、優さんそこら辺結構おおらかというか、寛容なんだよな。


「そうねぇ、二人が本気で好透君を想っていることも、好透君が二人を想っていることを知っているもの、それを引き裂きたいとは思わないわ」


 優さんが何かを思い出すように、優しい目をしながらそう告げた。


「そう、ですか…」


「そうよ、そんなことより好透君!そんなに畏まらないで私にももっと気軽にして?」


「え?」


 気軽とは?そう思い首を傾げてしまう。


「私のことをお母さんだと思ってもいいのよ?どうせそうなるんだし」


「それは母というより義母ぎぼじゃないですか」


 さすがにそんなに失礼にはできんぞ、相手は大人なのだ。


「そうねぇ…でも私にとって、あなたは息子みたいなものなのよ。敬語なんてつまらないし、せめて今くらいは…ね?」


 あざとくお願いしてくる優さん。なんでそうも絵になるんだよ。

 さすがにここまで言われると、ねぇ?


「うー…分かったよ、お母さん?」


「はぁーい!お母さんよ!」


 俺が敢えてお母さんと呼んでみると優さんはめちゃめちゃ嬉しそうに抱き締めてきた。やわらけ!


「ちょっとお母さん?好透を誘惑するのやめてくれる?」


「お兄ちゃんは私たちの恋人なんだよ?お母さんはあんまりベタベタしないで欲しいんだけど」


 俺を抱き締める優さんに辛辣な姉妹の言葉が襲いかかる。…が優さんは意に介さない、これが母か。


「あらぁ?ちょっとくらい良いじゃない、好透君が素敵なんだから、それに息子を抱き締めたっておかしくないでしょ?」


 だからなるとしても義理だっつーの。

 そんな優さんの言葉に二人は呆れていた。


「可愛い娘二人にカッコイイ息子!なんて素敵なのかしら!」


 優さんはそう言って栞と衣織ちゃんも抱き締めた。


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