四十三話 俺達の邪魔すんなクソ先輩

「おい待てよクソ野郎!」


「あぁ?」


 こっちは欠片も用など無いというのに、いちいち絡みに来る池田に苛立ち、睨む。

 気安く肩掴んで来るんじゃねぇよクソが。


「テメェなんだそのツラは!」


「テメェなんだその手は」


 目には目を、歯には歯を…テメェなんだと来たらテメェなんだと返す。当然だな。


「年上に向かってとる態度じゃねぇだろクソ陰キャがよ…舐めやがって」


「年下陰キャ相手にイキってんなカス、だから舐められるんだよ」


 俺がここまで言うと池田が顔を真っ赤にして殴ってくる…が、俺はそれを左手で受け止めた。こんなへなちょこなら利き手じゃなくていい。

 いや食らっても良かったんだけどね、今回はサービスですよサービス。停学なんて嫌だろ?


「グッ…離せよ!」


「はいよ」


 掴まれた拳を引っ張りながら離せと言うので離した…そしたら勢い余って池田は転んだ…何してんの?


好透こうすけ、大丈夫?」


 騒ぎを聞いたのかしおりがこちらに来ていた。あっ、来ちゃったよ!

 池田が情けなく尻もちついてるところに栞が来ちゃったよ!


長名おさなさん!彼は危険だよ、僕の事を殴ろうとしてきて…」


「嘘つくのやめてもらっていいですか?」


 池田がいけしゃあしゃあと被害者ヅラしようとするので、栞はそれを真っ向から否定した。

 おぉ、めちゃんこ怒ってるわ。


「全部聞こえましたから、私の彼氏に向かってやめてもらえます?そういうの」


「えっ、えっ…」


 今まで女性にここまで怒られたことがないのだろう、情けない声と情けない顔で狼狽している。

 いや なっさけねぇ。


「私の彼氏は陰キャとかじゃないですから、それに私より頭良いですし、もっと言うと両思いなんで邪魔しないでください」


「……ひへぇ…」


 いつものイケムーブみたいなのは完全に鳴りを潜め、今となっては蛇に睨まれた蛙と言ったところだ。

 今にも逃げ出しそうだし、どことなく小さく見える。


「もういいですよね?行こ、好透」


 栞は俺の手を取り、池田の返事を待たずにさっさと離れた。さすがに不憫ふびんとも思えねぇよ。



 すたすたと奴を放置ししばらく歩く。


「はぁ…あーゆーの困るのになぁ…好透ほら!ギュッてしよ!」


「よし来た」


 俺たちは人目もはばからず抱き合う。まぁ人は見当たらないけど。


「もし今度同じような事があったらみせつけちやおっか。あっ!なんならキスしようよ!」


「よし!」


 続けてキスまでしてしまった。

 確かにこれを見せつければ相手も黙るだろう。


「ん〜♪好透大好き♪」


「俺も大好きだよ」


 大好きと来たなら大好きで返す、当たり前だよなぁ!



「しっかしなぁんでいちいち絡んで来るのかねぇ…そういうのが一番嫌われるの分かんねぇのかなぁ…」


 先程の池田の奇行が謎すぎて思わずそう言ってしまった。


「そもそも気になるのが、どうして私が好透の事を嫌いだって決めつけるんだろうね?こんなに素敵な男の子なのに…」


「今に始まった事じゃねぇや」


 どうせそう言えば俺が栞から離れるとでも思ってるんだろう。馬鹿だね。


「んー…?あっ!そっか!」


「どした?」


 ひとしきり考えていた栞がいきなり大きい声をだした。何閃いたんだ?


「好透の事が好きな女の子が流した噂!」


「逆だろい」


 どう考えても栞の事を好きなヤツとか、俺と栞が付き合うべきじゃない!と謎の理想を押し付けようとしてくるヤツらだろう。


「そーかなぁ…私と好透、それぞれ好きだと思ってる人たちの仕業じゃないの?」


「それはもう世紀末だろ」


 そんなことが頻繁されてはたまったものじゃない。


「んー?んー…そっかぁ…」


 アレコレ悩んでいる栞が可愛いんですがどうすればいいですか?


「まぁいっか!私たちが愛し合えば良いだけだし!」


「まさにその通りだな」


 やっぱりそれだよな、単純だが確実でもある。

 他者による俺たちの心を無視した言葉より、お互いが向き合って伝え合う言葉の方がよっぽど価値がある。


 俺たちは改めてお互いの言葉を信じ合おうと誓った。



 その次の日…。


「おい、クソ陰キャ」


 またあのクソ先輩である。懲りねぇ奴だなぁ…。

 というかそもそも俺は陰キャという名前でもないし、無視しとこ馬鹿らしい。


「おい」


 あっ、この飲み物売り切れてんじゃん!ショック…。


「おい!」


 んー、これ初めて飲んでみたけど割とイけるな。

 また今度買お。


「おい!無視してんじゃねぇよクソ陰キャがよ!」


 そう言って池田が肩を掴んでくる。だからさぁ…。


「テメェなンだよこの手はよぉ…気安く触れて来んなっての、クソ先輩」


 何の関係もねぇ癖して舐めた絡み方してくるだけでは飽き足らず、いちいち触れてくんなっての。

 そう思い思い切りガンを飛ばすと池田が怯んだ。

 小心者だな。


「な…んだよ陰キャのクセしてよ…テメェごときが長名と付き合えてんのは奇跡だってんだ!勘違いすんな!」

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