四十二話 それってあなたの…

 衣織いおりちゃんのお泊まりが終わる今日、ベッドの中で気持ち良さそうに眠る彼女を起こす。


「はぁ…お兄ちゃんの家に住みたい!」


「同じく」


 朝だというのに元気な衣織ちゃんと一緒に家を出る。やっぱりちょっと寂しいね。

 家から出ると丁度 しおりが来たところだった。


「あっ、おはよう二人とも」


「おはよう栞、今日も可愛いな」


「おはようお姉ちゃん」


 朝にこのメンツとは珍しいな。

 そんな当たり前のことを考えてしまう、衣織ちゃんとは学校違うからそりゃそうだ。


「んふふ♪好透こうすけったらいきなり口説くなんて良くないんだー♪」


「だって本当の事だしな」


 姉妹そろって可愛いのだ、そりゃあ思わず本音も漏れるって。


 あれからしばらく歩いて、衣織ちゃんは自分の通う学校へと向かった。

 まぁ今日は学校が終わったら荷物を取りに来るけどね。


 学校に付くと皆浮き足立っていた。


「そういえば今日から期末テストだねぇ…」


「さて、自信は如何ほどか?」


「大丈夫だよ!多分ね!」


 栞はそう言って胸を張る。自信満々で多分とか言うな。えっ俺?まぁなんとかなるっしょ。


「あっ、好透おはよ♪」


「おっす優親ゆうしん


 テストだと言うのに随分と元気だなコイツ。

 まぁ俺も平常運転だし、それは栞もだけどな。


「いやぁテストの日は早く帰れるから嬉しいね」


「やっぱりそれで機嫌がいいのか」


「もちろん好透に会えたからだよ♪」


「やめろ気持ちわりー」


 マジでどうしたんだ、お前男だろ。

 いくら可愛い顔をしてるとはいえなぁ…、そんなことを考えてしまう。いや当たり前だろ。


「好透君!おーはよ!」


「おはよう小春さん、もういいでしょ離れて」


 相変わらず俺に抱き着くのが日課となった小春である。重いわやめてくれ。


 こんな感じで朝から騒いでいるけど、繰り返すが今日は期末テストだ。

 HRが終わりテストの用意をする。

 さぁてどんな結果になる事やら。



 そうしてテストが終わりました、まぁこんなもんですよね。手応もなにもないですよ。

 いつも通りすぎてなんとも…。


「大丈夫か栞」


「疲れた…」


 ヘニャヘニャになった栞を撫でる。

 すると今にも崩れ落ちそうだったのがみるみる元気になっていく。


「んー♪好透の手、好き!」


「かわいいなぁおい」


 思わず本音が出ると、栞は顔を赤くして嬉しそうにしている。何だこの生き物早く保護しなきゃ。


 テストも終わり学校から出る…と誰かがこちらにやってきた。


「やぁ長名おさなさん」


 栞に話しかけたのはいつぞや名前が出た池田先輩とかいう人だ。

 相変わらず人あたりの良さそうな笑みを浮かべている。


「あ…池田先輩、お疲れ様です」


 栞は笑顔で彼に返す…が営業スマイルだ。

 しかし彼はそれに気付かず栞に話を続ける。


「お疲れ様、この後長名さんって空いてるかな?良かったら食事に行きたいんだけど」


 マジかコイツ、俺が目の前にいるのにそういうこと言う?


「ごめんなさい、私には彼氏がいるので」


 栞はそう言って俺の腕を抱いてきた。かわよ。


「そうか、それは残念だね…。ところで、ササキくんだっけ?話があるんだけどいいかな?」


 池田がいない人間の名前を呼んだので訳が分からずキョロキョロとしてしまうが、どう見ても俺を見ているのでどうやら名前を知らないようだ。


「はぁ、話があるのならまず相手の名前くらいは知っといて欲しいんですけど…」


 なので俺はそう返したのだが、彼は不服なようで一瞬だけ睨みつけてきたが、すぐに元の表情に戻る…がどこか貼り付けた感が否めない。


「それはごめんよ、えっと…」


「天美です」


「そうか。じゃあアマミくん、ちょっとこっちに…」


 そう言って彼は、栞から見て学校の塀を挟んだ向こう側に連れてきた。


「それで話なんだけど、長名さんから離れてくれないかな?」


「なんでです?」


 先程の人当たりの良さはなりを潜め、随分と敵意マシマシな視線を向けてくる。


「分からない?どう考えても君ごときが長名さんと釣り合うわけないだろう」


「分からないですね、釣り合うってなんですか?」


 あぁ…またこの類ね。

 釣り合うだなんてのはあくまで主観だろう、それを押し付けられても困る。

 むしろ何故それがわからない?


「そんなことも分からないんだ、君ってあまり頭が良くないんだね、まぁそんな顔してるから納得だ」


 彼は何故か勝ち誇ったようにニヤニヤとしているが、すごく頭が悪く見えることは分からないのだろうか?

 そもそもそういう手合いは何故か自分が恋愛熟練者みたいな感じで物申してくるから、見ててあまりにも恥ずかしい。


「言いたいことはそれだけですか?それならもう戻りますけど」


「そうだね、だから長名さんにはもう近付かないでね」


「いやです」


 どうして俺がそれを聞くと思ったのだろうか?

 どう考えてもそんな義理は欠片も無いだろう。


「なんで?」


 俺の答えが不満みたいだ、声を低くし思い切り睨みつけてくる。


「それに従う理由がないんで」


「はぁ…だから、君は長名さんと釣り合わないし、彼女からも嫌われてるから離れるべきだって言ってるんだよ。あと何回言えばいいのかな?それとも言葉の意味がわからない?」


「そう言うあなたは独り善がりでは?それとも嫉妬?」


 心底バカにしたような態度なので俺もそうさせてもらう。


「はぁ?やっぱり君はバカでクズだね。君みたいな頭も悪くて陰気なオタクって本当に面倒だ、そして可哀想。

 まさか本当に長名さんが君と本気で付き合ってると思う?絶対ありえないよ」


 うーん?何言ってるのかは分からないでもないが、何も知らん外野がごちゃごちゃと言ってくるのはただの迷惑だ。


「さも事実かのように語ってますけど、それって貴方の感想ですよね?」


 この返答が気に入らない池田は、少しだけ声を荒らげる。


「事実だ!確かに聞いたんだ、彼女が君を嫌がってるってね!」


 なわけねーだろ、どう考えても嘘である。


「いや嘘つくのやめて貰っていいですか?俺たちはちゃんと話し合ってますし、なんだかんだ付き合い長いんで外野がいちいちごちゃごちゃ言ってこないで下さいね。それじゃ」


 あまりにも話にならないので背を向けてさっさと離れる。馬鹿らしいんだよクソが。

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