二十一話 頼まれ事

 朝、目が覚めると目の前に眠ったままの美少女がいた。

 もうそろそろ朝食の用意をしなければと思い、彼女の頬にキスをすると、ぱちっと目が開いた。


「んふふ♪好透こうすけおはよ♪」


 あ、起きてたんすね。

 ニンマリとしたしおりがお返しとばかりに頬…ではなく唇にキスをしてきた。




「やぁ好透、おはよう」


「あぁおはよう」


 ここは学校、栞の荷物は学校が終わってから彼女の家に移動することにしたので、そのまま登校してきた。


「ちょーっと、好透に相談があるんだけどさぁ…いいかな?」


 どことなく暗い表情をした優親ゆうしんがそんなことを言ってきた。


「まぁ、俺でよければいいけど」


「ありがと、実はね…」


 優親は自身の悩みを語り始めた。

 彼は元々片親で、父親が昔に亡くなっている。

 そして母親が再婚するらしく、昨日新しい父親と会ったらしいのだが、どうやら娘がいたそうな。優親から見て年下の。

 つまり…義妹いもうとである。


「その子とどう接すればいいのかなぁってね」


「いや俺にも分かるかい」


 あまりにも過大評価が過ぎる、別に俺は人と関わるのが得意って訳ではないぞ。

 何故解決出来ると思ったのか。


「僕としては普通に仲良くできればそれでいいんだけど、向こうは警戒心が凄くてね」


「まぁ、そりゃーな」


 俺たちくらいの年頃なら多少警戒だってするだろう、ましてや赤の他人から親の事情で急に兄妹にさせられるのだ、望まない者かれすれがたまったものではない。


「だから、ちょっと僕と遊んでくれない?」


「どうしてそうなった」


 優親曰く「僕らは仲良しだから、その楽しそうな雰囲気に当てられたら少しは態度が軟化するかも」とのことだ。

 どうしてそうなったと思わなくもないが、楽しそうに遊んでる姿を見せた後に、ちょっとずつ距離を詰めていけば、少しくらいは家族としての距離感になれるかもしれん。知らんけど。


「分かってるだろうが一応言っとく、相手のことはちゃんと考えろよ。無理に接すれば余計に怖がられるからな」


「うん、それはもちろん」


 当然だが、あくまで向こうの反応次第だ。

 無理に仲良くしようとして近付けば、警戒されるのは必至。


「ちょっとまて、そもそもいつからその人たちと一緒に住むんだ?」


「今日から」


「まじか」


 いくらなんでも唐突すぎる。

 かくして俺は明日優親の家に遊びに行くことになった。




「ごめんね天美あまみ君、急に呼び出しちゃって」


「大丈夫だよ」


 時間が飛んでばかりだが、今度は笹山ささやまから呼び出された。

 授業の合間、つまり休み時間である今俺たちがいるのは、先日佐藤たちと話した人気の少ない場所である。

 二人きりで話がしたいと言われ、栞からも聞いてあげてほしいと言われたのもありそれに応えた。


「それでね?話っていうのは…そのね…」


 彼女は顔を赤くし、モジモジとしている。


「あっあはは…呼び出しといてごめんね、中々まとまらなくて」


 いつもよりも大分しおらしい。

 というか凄くオドオドとしている、普段の笹山からは全く想像もつかない。


「いいよ、ゆっくりでいいからな」


 別に時間はある、例え遅くなっても後で時間を取ればいい。


「ほんと…優しいね、天美君は…。ウチは助けられてばっかりだよ…」


「そうか?別にそんなつもりはないんだけど…」


 昔のことを言っているのだろう。

 謙遜けんそんに聞こえるかもしれないが、ただ助けたというより出来る範囲で声を掛けたりしただけだ。大したことじゃない。


「天美君にそのつもりはなくても、ウチにとってはね。ほら、ウチってこんな見た目でしょ?」


「あぁ、とても綺麗だな」


 笹山が自身の髪をつまんで見せる。

 素直な感想を言ったのだが、後になって、これ口説いてね?と気付いた。


「うぅ…やめてよもう、勘違いしちゃうじゃん!」


 笹山が顔を赤くしてちょっと怒ってきた。

 しかし全く覇気はきがない…少し心配になる。


「あぁいや、ごめん…つい」


 彼女だってこんな話をしに来た訳ではないだろう。

 ごめん!と手を合わせて話を続けてもらう。


「……それでね?目もこの色だから、昔はこれでからかわれて、それから守ってくれたのも天美君で…。中学のときだって、ウチがパパ活やってるって噂が出た時も、声掛けてくれたじゃん。気にするなってさ」


 それは栞からも聞いた通りだ、やはり笹山はそれに恩を感じている…だけではないらしい。


「そんなこともあったな」


「うん。…それで、その時からね…ずっと…」


 笹山は震えながら、そして瞳を潤ませながら、じっと俺の目を見てきた。

 彼女の綺麗な水色の瞳から目が逸らせない。


 いや、逸らしてはいけないと思った。

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