十五話 お外でデート

 ピロートークをした俺たちは産まれたままの姿で抱き合って、睡魔すいまに身を任せるままに微睡まどろみの中に沈んでいった。


 翌朝目を覚ました俺は、しおりの穏やかな寝顔を眺め、その頬にそっとキスをした。

 それを受けた栞は身をよじらせゆっくりと目を開く。


「こーすけ…おぁよぉ…」


「おはよう、栞」


 すこし呂律ろれつが回っていない栞がら嬉しそうに抱き着いてキスをしてきた。

 そのまま彼女の頭をそっと撫でてやると舌を入れてきた。

 暫くの間じっくりと味わうようにディープキスをすると、栞はすっかり出来上がってしまった。


「えへへ、シたくなってきちゃった♪」


「朝から元気がすぎる」


 俺も人のことは言えないくらいには、臨戦りんせん態勢たいせいである。


 朝だというのに俺たちは激しく求めあった。





「ふぅ…シャワー空いたぞ、栞」


「はーい!行くね!」


 ツヤツヤとしている栞が元気よく浴室に向かう。

 すれ違いざまにキスをしてくるくらいには元気だ。かわいい。

 彼女がシャワーを浴びてる間に朝食の準備をしておく。

 目が覚めたのが少し早かったのもあって今の時間は八時半過ぎ、朝食を食べたら昼まで勉強して午後から出かける予定だ。


 朝食が出来たと同時に、綺麗になった栞が風呂場からやってきた。


「シャワーいただいたよ」


「あぁ、ちょうど朝ごはんも出来たし食べよう。ほら座って」


 栞が座りやすいように椅子いすを引くと、彼女はありがと!と言って席に着く。

 その向かいに座って一緒に朝食を食べた。




「ご馳走ちそうさま、こーすけ!」


 栞がニッコリとそう言ったので、俺もコクリとうなずき、皿を流しに持っていった。


「あ、良いよやらせて」


「いいよ、ゆっくりしてな」


 そう言って栞の頭を撫でてやると栞が嬉しそうに目を細める。


「ありがと、でもダメ。あんまり好透こうすけの後ろ姿見てるとまたキちゃうから」


「そりゃ大変だ」


 結局栞の高すぎるフィジカル対策も兼ねて一緒に片付けることにした。



 朝食の片付けが終わり、それからしばらくは勉強した。だいたい一時間毎に、休憩と称していちゃつきながら。

 そもそも栞はちゃんと勉強すれば覚えるタイプなのでそこまでやる必要もない。



 そんなこんなで時刻は十一時半、昼食は街で食べる事にした。


「準備できたよ、好透」


「おっけ」


 今日の栞は水色のシャツに黒のスキニーといった格好だ。かわいい。


 いつものように彼女は腕に抱き着いている。

 歩くこと十数分、街に着いてどの店に入ろうかと歩いていると、どこからか言い争う声が聞こえた。しかもその中には聞き覚えのある女性の声も混じってる。


「栞、ちょっとまって」


「うん、聞こえるよ」


 彼女も気付いていたようで、声がする方向に行くと見知った顔が見えた。


小春こはる…!」


 そこにいたのは強引なナンパに引っかかる笹山ささやま、彼女は栞の大切な友人だ。もちろん俺にとっても。


「ごめん、ちょっと行ってくるよ」


 彼女が絡まれているとあっては放っておけない、俺は栞に腕を離してもらい、そこに向かって駆け出した。


「あん、何だ?お前」


 チャラチャラとした男が俺を見てにらみつけてくるが、引く訳にはいかない。


「失礼、俺の彼女になんか用ですかね」


「ぇ、天美あまみ君?」


 笹山は驚いているが、ここでやめる訳にはいかない。彼女を背にかばい二人の男と対峙する。


「いや、嘘こけよ。彼女困ってんじゃん」


 あまりに即興そっきょうが過ぎたのか、あまり通用していない。

 こいつらはヘラヘラとしながら、しっしと手を振っている。


「付き合いたてなんでこんなもんだよ。だから、アンタらには引っ込んでていただきたい」


 そう言って笹山の手をにぎると、彼女はそのまま腕を抱くようにしてきた。


「悪いけどそーゆー事だから!アンタらウチの好みじゃないしどっか行って!ウチらはイチャイチャするのに忙しいの!」


 笹山はそういうと俺にキスをしてきた。

 それを見た栞が愕然がくぜんとしている、もちろん俺の内心も同様なのだが、今はそれっぽい態度を崩せない。

 素の態度を出してここでこいつらにバレてはいけない。


「行こ、好透!」


 彼女はそう言って俺の腕を引いて歩き出した。

 そのまま栞の元へ行き、彼女と合流して三人でそこから離れた。




「ありがとう、好透…じゃなくて天美君」


「ありがとうじゃないよ小春!キスはダメでしょもー!」


「ごめんごめん」


 笹山は頭に手を当てて舌を出す。

 栞や衣織いおりちゃんに見慣れている俺ですら、その仕草にかわいいと思った。


「もう、せめてほっぺにしてよね!寝取られは趣味じゃないんだから!」


「こんなとこでなんつーこといってんだ」


 俺たちはあれから少し離れたファミレスに入り、席に着いた。


 それまでは後ろを警戒していた事もありあまり口を開かなかったので、ようやくちゃん喋り始めたといった感じだ。

 栞は先程の笹山のキスに怒っているようだ、まぁ逆の立場なら分からんでもない。

 もしも優親ゆうしんが栞に同じことやったらブチギレるもの。


「でも本当にありがとね、あいつらほんとにしつこかったし、もしあのまま変なことされたらって考えたら怖くて…」


 笹山は少し顔色を悪くしながら、うつむき加減でそう言った、やはり怖かったのだろう、少し思い出したのか少し震えている。たった一人で二人の男たちに絡まれていたからね。


「もう…次からはせめてほっぺにしてよね」


「そういう問題か?そもそもあんなことがそう何度もあっちゃダメだろ」


 とはいえさすがにこれ以上あれこれ言うのは、傷心しょうしんの彼女にとって酷だろう。

 笹山の様子からそう考えたらしい栞はそれ以上責めるのをやめる。


「ほんとごめんね。それとぉ…ごめんついでと言ったらなんだけどさ…その…」


「なぁに?小春」


 モジモジと笹山がなにかを言おうとしているが、暫くして口を開く。


「その…うちも天美君に撫でてほしいなって…あとギュッてして欲しいなーって…」


「いや、ちょっ…それは」


 笹山がとんでもないことを言い出したため、思わず立ち上がってしまった。ハッとしてすぐに席に着く。

 いくら大変な目にいそうになったからと言っても、ここまで突飛とっぴなことを言うとなると『何かしら特殊な理由』があるということになるが、俺はどうすればいいか分からないのでえて気付かない振りをする。鈍感に徹するなど情けないが、とりあえず栞の反応を見ようかと、そう思い彼女に視線を向ける。


「小春、それはダメだよ」


 栞はきっぱりと断った、それも逆なら当然である。優親が栞に同じことしたいと言ったらそれこそ絶交ものだ。


「せめて、なでなでくらいはダメかな?」


「うーん…一回だけね?一回って約束出来るならいいよ、でも後でね」


 意外にも栞は許可を出した。

 いくら親友の頼みとはいえ、それを許すということは恐らく『何かしらの特殊な理由』を彼女は知っている可能性がある。というか俺も別に気付いていない訳じゃないが、情けないことに気の利いたことが出来ないり


「ほんと?やった!ありがと栞!」


 まぁ笹山がそれで喜ぶなら、何より栞がいいと言うのならそれでもいいかと自分に言い聞かせた。


 本当は良くないのかもしれないと気付いていながら、目を逸らすことしか出来なかった。

 もっとちゃんと、自分の身の振り方を考えるべきだとそう思った。

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