十四話 衣織の恋心

私のお姉ちゃんは、幼馴染の好透こうすけお兄ちゃんが大好きだ。

私は元々かなり引っ込み思案で、初めてお兄ちゃんと会った時、お姉ちゃんの後ろに隠れていたらしい。

今となっては思い出せないほど昔のこと。

私が覚えているのは優しく頭を撫でたり、抱き締めてくれる素敵なお兄ちゃんだ。


同い年の子たちと比べてずっと大人びていて、他の男の子たちと違って一緒にいると落ち着く。


だから他の男の子たちを見ても全然ときめかない。


それなのに、何年も一緒にいるお兄ちゃんはずっと素敵になっていって、この気持ちもずっと大きくなるばかりだ。


ずっと昔、お姉ちゃんと出かけて迷子になった事があって、お兄ちゃんが必死になって探してくれた。

私はお兄ちゃんを見るなり、走ってその胸に飛び込んで行ったことをよく覚えてる。


それ以外でも困った時は手を貸してくれたり…一緒に遊んだりもしているし、相談相手にもなってくれる。


ずっとずっと…大好きな頼れるお兄ちゃん。

でも昔の私は恋なんて知らなくて、一緒にいると楽しくてとても落ち着く人…それがお兄ちゃだった。


でもそんな人とずっと一緒にいれば、その気持ちが恋心に昇華していくのは何らおかしいことではなかった。

お姉ちゃんと仲が良くて、たまに家に遊びに来てくれるお兄ちゃん。


いつの日だったか、私は自分の恋心を自覚して、その事をお姉ちゃんに話したことがある。

最初は私もお姉ちゃんも絶対渡さないって言ってたけど、今では二人でお兄ちゃんを好きでいようって決めている。



お母さんはその事に対して全く否定しなかった。それどころか背中を押してくれたくらいだ。


「取り合うだけじゃ不幸になることだってあるのよ。もしできるなら一緒に愛してもらえるようにしたほうがずっといいわ」


「片方だけなんて悲しいじゃない。想いの強さは変わらないのだし、好透君がならよっぽど安心できるわ」


その言葉を胸に、私たちは二人でお兄ちゃんを愛することにした。

姉妹だから、もう一人の私みたいなものだよね。お姉ちゃんみたいになりたいと思ったこともある、つまりお姉ちゃんは理想の私なんだと。そう思うようになった。



中学の時は、お兄ちゃんとお姉ちゃんと、三人で登下校していた。

お姉ちゃんと二人でお兄ちゃんを挟んで手を繋ぐ日々が幸せだったけど、お兄ちゃんたちは卒業しちゃったから今はおあずけ。

私も、きっとお兄ちゃんと同じ学校に行けるように、勉強にも力を入れている。




私がお兄ちゃんを恋心を自覚したのは、お姉ちゃんの影響で恋愛ものの小説を読んでからだ。

その物語の主人公には幼馴染がいて、でも二人はお互い両片思いだった。

すれ違い続けて、相手の好意に気付けない主人公と、心に影を落とす幼馴染。

どうして二人とも正直に言えないんだろう?ほんの少し想いを伝えればいいだけなのに。

いつも私を可愛がってくれるお兄ちゃんを思い出すと、彼らの行動が理解できない。


ゆっくりとお兄ちゃんの事を考えてみる。

思い出していくのは、優しいお兄ちゃんの姿。

胸がドキドキして、ちょっぴり苦しい。

でもお兄ちゃんにくっついていると、すごくポカポカする。


お兄ちゃんにだけ抱くこの感情は、恋なのだと思った。


もちろんそれは自分の想いを知るきっかけだっただけ。

私はとっくにお兄ちゃんにメロメロだった。

引っ込み思案だった私を成長させてくれたのはお兄ちゃんだ。

お姉ちゃんと私が喧嘩した時に仲裁してくれた事だってある。その時は私たちを優しく抱き締めてくれたっけ。

それだけで私たちは笑顔になって、すぐ仲直りできた。


姉妹そろってすっかりお兄ちゃんの虜だなぁ…。




今、お姉ちゃんはお兄ちゃんの家に泊まりにいっている。そろそろお付き合いしたいんだとか。今更だよね、あんなにラブラブなのに。

でも、私だって負けられない。その為に私もお泊まりの約束をしたんだ。

お兄ちゃんたちははどこまで進んだんだろう…そんなことを考える。

互いに想い合う男女が、一つ屋根の下ですることなど一つしかない…それくらいは私にだって分かる。

二人の情事を想像し、身体が火照る。




お姉ちゃんがするなら、私もしたい。

お兄ちゃんに想いを伝えて、私もいっぱい愛してもらって…そんなことを考えながら、私は自身を慰めた。


落ち着いた私は布団の中で、ゆっくりと目を閉じる。

私も、お兄ちゃんの彼女になれるよね?

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