三話 他人がとやかく言う事じゃない

「アンタが邪魔してるって言ってんの!」


佐藤が訳の分からないことを言い出した。

確かに池田先輩と栞はちょくちょく話をしているが、それは池田先輩が近付いてきてるからなのであって、栞がそれを望んでいるとは限らない。


「…それは栞の言葉?」


「え?」


「それは本当に栞から直接聞いた言葉なのかと言ってんだ」


「…ぇっ、っそうだけど?」


佐藤は目を泳がせながら答える。

呆れたものだ、それがもし''本当''にそう言っていたとしても間違いなく話を合わせているだけだし、それが本心なら俺から距離を取るはずだ。

栞だってもう高校生、自分で物事を考えられる年齢なのだから周りがあれこれ言うのはおかしな話だ。

ましてや余計な主観や自分の望みを振りかざすものではない。


「下らねぇ、そんなことで一々俺たちの関係に口出すな」


「な…」


佐藤がなにか言おうとしているが、こんな勝手なヤツの言葉なぞ聞きたくない。

あまりの怒りに普段より、些かキツい口調がでてしまう。


「あいつ自身が俺と距離を開けるまで、俺は今の関係を辞めるつもりはねぇ、外野は黙ってろ」


「ぅ…」


俺の態度に気圧された佐藤は何も言えず黙りこくってしまった。

そもそも幼馴染なだけあって、お互い言いたい事を言い合える仲だ、もし俺が邪魔だというならそういう態度になる事など自明の理。

栞の気持ちを捨て置いて、周りの勝手な望みでとやかく言ってくるのは腹が立つので、思ったより強い言い方になってしまったが、間違ったとは思わない。

コイツの顔も見たくないし飲み物を買ったのでさっさと教室に戻る。


周りの人間がなんと言おうが関係ない。俺は栞と過ごす日々が好きなんだ。

それを手放したくはない。




その日の授業が終わり栞と二人で仲良く帰路に着く。


いつもは手を繋いでいただけだったのだが、何故か今は栞が俺の右腕を抱き締めてきた。

なにか思うところがあったのか、それともそういう気分なのかは分からないが、彼女はどこか上機嫌なのもあって理由なんてどうでも良くなってくる。


佐藤との事もあり、今日は栞と一緒にいたいと思ったので、夕飯を一緒に食べたくなった。


「今日は家で晩飯食べてかないか?」


「え?急だね、別にいいけど」


いつもなら前の日に示し合わせる事にしているので、こうして急に誘うのは割と初めてである。

無事OKを貰えたので心も弾む。


「少し、話したいことがあってさ」


「そうなんだ…その、実は私も」


今日あった事、思った事を話そうと思ったのだが、どうやら栞も言いたい事があるようだ。




二人でそのまま買い物に向かい、栞は着替える為に一旦帰宅し、俺は家で今日の晩飯の用意をした。

そうこうしていると栞がやってきた。


「やほ、好透ー」


「あぁ、おかえり。栞」


「あ、ただいま」


栞が、料理をする俺を後ろから抱き締めてきた。やっぱ絶対俺の事好きやろこれ。

その格好のまま、栞は俺の背中に頭をぐりぐりとしてきた、可愛い。


「どした?」


「んーん、今はこうさせて」


え、何これやばめちゃんこ可愛いんですけど。

それでも平常心を装いつつ、今日の夕飯であるオムライスを作った。


栞にはスプーンやお茶などを用意してもらい、俺は皿に盛り付けして二人で向かい合いテーブルに着いた。


「「いただきます」」





「ふー、ご馳走様」


「あぁ、お粗末様」


満足そうな表情を浮かべる栞に安心しつつ、数分開けてから今日あった事を話した。


「そっか、佐藤さんがねぇ…」


「そ、だから栞からの言葉を聞きたかったんだ」


数秒の時間を空けて、栞がそっと告げた。


「…実はね、私それ見てたんだよねぇ…」


彼女は少し間を置いて、頬を掻きながら気まずそうに答える。え、見てたの?全然気付かなかった。


「………マジ、かぁ…」


思わず面食らってしまった。

栞にあれ聞かれてたのなんか恥ずかしい。


「うん、マジ。でもね、凄く嬉しかったんだよ?私だって好透との時間は凄い好きだし、一緒にいたいんだもん、他の人なんて正直どうでもいいよ」


ほんのりと頬を朱に染めた栞が、凄く嬉しいことを言ってくれる。


「あぁ、それは俺も。栞との時間は凄い好きだと思ってるよ」


気持ちの一致に思わず安堵する。

信じていなかった訳じゃないが、でも言葉に出してきちんと伝える事はとても大事だ。

言葉に出してお互いの気持ちを改めて知ることで、より絆が深まるものだと思う。


「それに、池田先輩ってなんかね…視線が嫌い」


「まぁ栞は可愛いしな。スタイルだっていいから、そういうものなのかもしれん。まぁ気に入らんが」


実際栞はかなり可愛いし、コミュニケーション能力も高い。だからなのかよく告白されている。

言わばラノベで言う美少女キャラって奴だ、よくメインヒロインになるやつ。


「でも、好透以外の人にそんな目で見られてもね…不愉快なだけだよ」


頬杖を付きながら不機嫌そうにしている。


「俺は全然そんな目で見ないけどな、家族みたいなもんだし」


そう言うと栞はジトっとした目を向けてきた。


「…本当は?」


「めっちゃ好き、ガッツリそういう目で見てる」


そんな事を聞かれたら即答に決まってる。正直は大事。

栞は呆れたふうを装っているが顔は真っ赤だ。可愛い。


「即答って……まぁ好透なら好きなだけ見ていいけど」


「マジ感謝」


よし言質とった、これからは好きなだけマジマジと見させてもらおう。じー。

俺の家に来る時はいつも白地のシャツにスカートである。今日は薄いグレーのミニスカートだ。目の保養である。


「言ったそばから胸ばっか見て…バカ」


じっと栞の胸を見続けていると、その視線を受けてモジモジとしつつ顔を赤くして目を背けた。


「でも、好きなだけ見ていいんでしょ?」


言ったもん勝ち見たいな言い分だが、間違ってはいないと思うぞ!


「それなら…」


そう言うと栞はおもむろに立ち上がり、俺の傍にやってきた。


「こうする!」


そう言うと俺の顔を正面に抱き締めて、その程々にある胸を押し付けてきた。…あれ?もしかして、いやしなくても着けてない。

凄まじく気持ちの良い感触に思わず意識が飛びそうになる。


「なにこれ、超大サービスじゃん」


そのまま彼女の背中に両腕を回し抱きしめ返す。


「好きなんでしょ?たくさんどーぞ」


ぐいぐいと頭を胸に押し付け、積極的に需要を満たす様はまるで女神である。


「あぁ、気持ちいい」


あまりの気持ち良さに眠くなりそうだ。


「ふふ、子供みたいだね」


栞に頭を撫でられながら至福の時をすごした。

その後はちょっと喋ってから栞を家に送った。家に入る前に少しだけハグをした。


こんなことをしていれば、俺が邪魔になっているだなんて夢にも思わない。

そんなすれ違いだなんて俺達には必要ないんだ。

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