四話 好透と優親


「ふぅん、佐藤さんって割とヤな感じなんだねぇ…」


 昨日あった出来事を優親ゆうしんに話すと、彼は顔をしかめ苦言をていす。


「でもあの人って長名さんとそんなに関わってないように見えるけど、なんでそんなことしたんだろう」


 確かにそこまで栞と関わっている姿を見ない。

 俺の知らないところで関係がある?でも昨日の栞の反応的にそんなことも無さそうだが…。

 とはいえ今まで佐藤のような連中は何人もいたので、単純に俺たちの関係が気に入らないのだろう。


「まぁ考えても仕方ないだろ?こっちはこっちで今まで通りやるだけだ…さて、そろそろ始まるぞ」


 今から体育館で体育の授業である。

 今日の内容はバスケだ、あまりできる訳では無いけど、頑張ります。

 幸いです優親と同じチームになれたので悪くない。


「頑張ろうね、好透!」


「おす、よろしくな」


 俺達はそう言って互いの拳をコツンとぶつけた、これは中学の時からよくやっている俺らなりの挨拶みたいなものだ。




 優親とは中学一年の時から同じクラスで、少しずつ関わりを持つようになった。

 同じ趣味を持ち、話も合うので友達になるのにそう時間はかからなかった。


 優親は男子にしては可愛らしい顔立ちをしており、女性人気も高い。

 またその顔に似合わず運動神経も抜群で、彼が活躍する度に黄色い声援が飛んでくる。


 今回のバスケの試合でも、優親が何度かシュートを決めており、相手チームのパスもカットしたりディフェンスを切り抜けたりとよく目立つ。


「流石だな、優親」


 今もさっき相手からボールを奪って、コートのほぼ真ん中からシュートを決めた優親とハイタッチする。


「いや、好透が上手くサポートしてくれるお陰だよ。さっき彼を止めててくれたでしょ」


 先程俺は相手チームのエースを、優親の元に行かせまいと必死に邪魔していた。


「あれが無かったら、流石にキツかったよ。彼ガードも上手いから」


「そりゃよかった」



 それからも試合を進め、そう危なげなく得点を重ねた。

 そして試合終盤、俺はサポートのためにちょこまかと動きフォローに回っていた。

 すると俺をみた優親がニヤリと笑う。


「好透!はい!」


 大きな声で俺を呼んだ優親がボールをこちらに投げてきた。

 今まで彼が活躍していたので、その流れでまた決めるだろうと皆が思っていたからか、突然の事で反応が遅れる。敵を欺くにはまず味方からとは言うが、些かやりすぎである…欺くってより無茶振りだけどね。


「決めちゃえ!3P!」


 俺はというと突然の事に驚いたが、遅れている周りを他所に、そのままゴールに向かってシュートした。


 そのまま飛んでいったボールが、ゴールの内枠の中に当たりネットをくぐる。


「お、入った」


 いつだったかバスケの練習は結構した事があり、体がその事を覚えていたようで無事3Pシュートが成功した。試合の時間が終わりブザーが鳴る。


「キャー!好透すごい!」


「天美君カッコイイよ!」


 向こうから大きな声で栞と、その友人の笹山が叫ぶ。喉が枯れるぞ落ち着け。

 彼女らのグループの反応はそこまで悪くなく、単純に驚いた表情をしていたがうっすら口角は上がっていた。

 しかし、その他の女子たちは唖然と落胆が混じった表情をしており、やっぱり優親の活躍が見たかったことが伺える。


「流石だね!好透!」


「無茶振りがすぎる」


 一方この状況を作った原因の片割れが嬉しそうに駆け寄りハイタッチしてくるので、それに応える。パシッと小気味の良い音が鳴る。認めたくないがもう片方は俺なのであまり文句は言えない、認めたくないけど。


「やっぱりやると思ったよ、僕は信じてた」


「そりゃ嬉しいが、この空気どうすんだ」


 まさか俺が決めると思っていなかったのか、俺たちの周りの連中も、微妙な表情を浮かべたり舌打ちしたり、睨みつけて来るやつもいて滑った感が否めない。


「なに?みんな好透が決めたのがそんなに悪い?……悪いけど君らよりずっと好透のが頑張ってたからね」


 それらに気付いた優親が、いつもより低い声で唸る。

 さすがに優親に対して強気に出れる奴はおらず、気まずそうに目を逸らした。

 その中で嫌そうな顔をしていなかった、こちらに近付いてくる人物がいた。


「確かに今回はしてやられたぜ。伴田ともだはもちろん、天美もいいプレイだった。」


 相手チームのエース、高畠たかばたが手を差し出してくる。

 驚いて反応が遅れたが、その手を握り返す。


「良かったらバスケ部に入らないか?伴田は陸上部だから無理だろうけど、天美は帰宅部だろ?」


 高畠がいい笑顔で入部を勧めてくるが、しかしそうなると栞と一緒に帰れなくなる。


「ありがとう、誘ってくれて嬉しいよ。でもやめとく」


「そうか…」


 そう言うと高畠が一瞬残念そうな顔を浮かべたが、すぐに思い出したかのように笑った。


「あぁ、そうだった。天美には愛しの彼女がいるんだったな。彼女からお前を奪うのは可哀想だ」


 俺たちのことを慮ってくれたようで、そう言って軽く背中を叩いてきた。


「あぁ、あいつとはそんなんじゃないぞ。もう何年もの付き合いだ、そういうんじゃない」


「え?」


 俺の言葉に驚く高畠だが、横から優親がちゃちゃを入れてきた。


「本当は?」


「最近より距離が近くなった、付き合うまでそう長くないだろうな」


 俺の掌返しに高畠が吹き出す。


「っプ…そうかそうか!まぁでも、もし気が変わったら言ってくれ。いつで歓迎するよ」



 試合が終わったので、小休憩のため栞の元に向かう。


「好透!ナイスシュート!」


「いやー、天美君いいアシストだったね」


 栞と笹山が元気に迎え入れてくれた。


「そりゃどうも」


「好透が高畠くん妨害してくれたからやりやすかったんだ、やっぱり僕らはいいコンビだね」


 優親が後ろから腕をまわして、反対の肩に手を置き彼女らに言った。


「むぅ、私との方がいいコンビだもん」


「いや、そういう意味じゃ無いような…」


 優親の反対から栞が俺の腰に抱きついて張り合っている。


「栞ってほんと天美君好きよねー」


「だって幼馴染なんだもん♪ほら離れて離れて」


 ごめんごめんと優親が離れる。

 その様子を見ていた高畠が苦笑している。


「楽しんでるとこ悪いけど、そろそろ女子の番だぜ」


 そろそろ女子の番なので、ぞろぞろと移動が始まっている。


「じゃあ行ってくるね!好透!」


 栞が抱き着いて胸に頭をぐりぐりと押し付けてくるので、そっと撫でてやると嬉しそうな声を上げて、手を振り走っていった。

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