二話 自分の事はよく知った方がいい

「そうなったら私、負けヒロインじゃん!」


 顔を真っ赤にした栞がいきなりとんでもない事を言い出した。


「それは俺がラブコメ主人公だったらの話だろ?俺はそんなんじゃない」


「じゃあなんであんなこと言ったの!」


 なんで言ったと言われても…。


「ただ言っただけ」


「なにそれ!」


 可愛い幼馴染と下らないことで盛り上がりながら幸せな時間を過ごす。

 幸せすぎて思わずクスッと笑ってしまうと、栞がきょとんとした。


「何かあった?」


「いや、幸せだなって」


「ん?」


 きょとんと首を傾げる栞マジ天使!


「こんなに可愛い幼馴染と一緒にいられることを考えたら、幸せだと思ったんだよ」


「あぅっ…そんなこと言って…私の事大好きか!」


「ハハ!違いない!」


 その通りすぎて思わず笑ってしまったら栞が黙りこくってしまった。

 顔を俯けながら繋いだ手をニギニギとしているのが途轍もなく可愛い。

 きっと顔も赤いのだろう、耳が赤い。



 そんなこんなで学校に着き教室に入る。

 流石に校舎に入ったときに手は離している。


「おはよー好透」


 こいつは俺の友達の、伴田ともだ 優親ゆうしんだ。


「相変わらずラブラブだね、手なんか繋いじゃってさ」


「なんだ見てたのか」


「教室から見えたよ」


 確かに校門からグラウンドを通って玄関前へ向かう際、グラウンドは教室から見えるので、俺たちを見ていたのだろう。


「別にあいつとはそんなんじゃない」


 実際にはそんな関係になる気満々なのであるが、いつものような返答をする。

 様式美って大事だよね!


「またそれ?本当は?」


「両足突っ込んでるだろうな」


「両足どころか全身どっぷりでしょ、君たちの甘々具合自覚した方がいいよ」


 優親から当然の事を言われてしまった、勿論言われるまでもない事だ。



 時が進み、休み時間に飲み物を買うため校内にある自動販売機へと向かった。


「ちょっと、アンタ」


「…」


「ねぇちょっと」


「…」


「天美!」


「あん?俺?」


 さっきから誰かが呼ばれているなとか思っていたが、この女子が俺を呼んでいたのか。


「そうよ、ここにはあんたしかいないでしょ」


「それなら今みたいに名指しで呼んでくれ、自意識過剰かと思うからさ」


 自分かと思って返事をしたら、実は違ったとか恥ずかしいので、確信もなく返事をしたくない。


「はぁめんど…それでアンタ、いつまで栞の足引っ張ってんの?」


「ん?というと?」


 俺は栞の足を引っ張ったつもりはない、勉強だって教えてるし、飯だって作ってるくらいだ。まぁすっごく楽しいのでこのままがいいんですけどね!

 マジで分からないので聞き返すと、目の前にいる女子…佐藤は苛立ったように話を続けた。


「だから、アンタは栞の邪魔してんの、そんなことも分からない?」


「…何をもって邪魔してるって言うのさ?」


 少なくとも俺は栞に好意を持っているし、栞も俺に好意を持っていると確信している。

 今は付き合っていないが、お互いに心地よい関係を続けていて、きっかけ一つで恋人になるだろうという自信がある。

 だからこそ、佐藤の言っていることが理解できない。


「栞はね、三年の池田先輩が好きなの!アンタと違ってイケメンだし優しくて、サッカー部の部長から運動とできるんだから、栞とお似合いなの!」


イケメンで優しくて運動ができて、だから栞とお似合いであるという理屈は普通に理解できない。


「はぁ…それで?」


「栞は池田先輩が好きだし、池田先輩もそう!両想いなのに、アンタが邪魔してるって言ってんの!」

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