第3話 百条委員会の設立

鈴木誠は、高田健二の家を後にして光陽県議会へと向かった。車窓から見える光陽市の景色は、どこか冷たく感じられた。高田の遺書と音声データを握りしめながら、鈴木の心には高田の覚悟と信念が重くのしかかっていた。彼の死を無駄にしないためにも、斎藤知事の不正を暴かなければならない。その決意が鈴木を突き動かしていた。


議会の建物に到着すると、鈴木は深呼吸をして自分を落ち着かせた。廊下を歩く議員たちの視線が集まり、その中には同情と疑念の入り混じったものも感じられた。しかし、鈴木は毅然とした態度を崩さなかった。


議会の会議室に入ると、そこには同僚議員たちがすでに集まっていた。彼らの表情からは、事態の重大さを理解していることがうかがえた。鈴木は席に着き、議長の合図で会議が始まった。


「本日の緊急会議の議題は、高田健二県民局長の自殺と、それに伴う斎藤知事の不正疑惑についてです。」議長の厳しい声が室内に響いた。


鈴木は高田の遺書をテーブルの上に置き、静かに立ち上がった。「皆さん、これは高田健二が残した遺書です。彼は、斎藤知事の数々の不正行為を告発しようとしていました。公職選挙法違反、県内企業からの贈答品の受け取り、そして阪神・オリックスの優勝パレードでの不正行為。それに加え、知事による職員へのパワハラも含まれています。」


室内がざわめき立ち、議員たちの顔には驚きと不安が浮かんだ。鈴木は続けた。「高田は命をかけてこの事実を明らかにしようとしました。私たちが彼の意志を引き継ぎ、真実を追求するのは当然の責務です。」


議員たちの中から、一人の男性が立ち上がった。同僚議員の松本和也だった。「鈴木さん、我々はあなたの言葉を信じます。高田さんの死を無駄にしないためにも、百条委員会を設置し、徹底的に調査を行うべきです。」


松本の言葉に賛同する声が次々と上がり、議長も頷いた。「では、百条委員会の設置を議題にかけます。異議のある方は?」


室内は静まり返り、誰一人として異議を唱える者はいなかった。議長は重々しく頷き、「百条委員会の設置を正式に決定します」と宣言した。


鈴木は安堵の息をついたが、心の中ではこれが始まりに過ぎないことを理解していた。これからの道のりは険しく、多くの困難が待ち受けているだろう。しかし、高田のためにも、そして光陽県の未来のためにも、彼はこの戦いを続ける覚悟を決めた。

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