第4話「仕事を辞めるべきか悩んでいます(男性)」

 「会社に行くのが苦痛なんです、どうすればいいですか?」


 「辞めればいいじゃん!」


 「そんな簡単にはいきませんよ」


 「じゃあ辞めなければいい」


 「それでは相談になりませんよ」


 「そんなくだらないこと、いちいち相談すんなよ。 

 嫌なら辞めればいいし、辞めたくないなら続ければいい。

 俺なんか履歴書に書ききれないくらい会社を変わったからな、あんたの気持ちがよくわかんねえよ。

 会社を辞められないのは自分に自信がないからだろう? ちがうか?」


 「そうかもしれません」


 「そうかもしれませんじゃねえんだよ、そうなの!

 俺が社長なら、そんなふにゃふにゃした社員に給料なんか払いたくねえな。

 あんたさあ、会社が好きなの? 仕事が好きなの? どっち?

 何の仕事してんのさ?」


 「外食チェーン店の店舗管理です」


 「何年やってるの?」


 「大学を出てから10年になります」


 「役職は?」


 「主任です」


 「10年やって主任! あんた向いてないよ、その仕事。

 辞めた方がいい」


 「そうですよね、だから悩んでいるんです、どんどん同期に追い抜かれていますし」


 「本当は、それよりも上司が嫌なんだろう?」


 「そうなんです、課長が大嫌いなんです、毎日、パワハの嵐で・・・」


 「結婚してるの?」


 「はい、幼稚園の子供がいます」


 「奥さんは働いているの?」


 「ハイ、団体職員をしています」


 「奥さんは何だって?」


 「妻は「いやならやめればいい」って言ってくれます」


 「いい奥さんだね、じゃあ辞めない方がいいな。

 人間はどうして働くと思う?」


 「生活するためです、家族を養うため」


 「仕事ってな、自分を成長させるためにあるんだよ。

 目的意識がない仕事は苦役でしかない。

 仕事は辛いのが当たり前なんだよ、だってそうだろう? 人の嫌な仕事、人の出来ない仕事を代わりにやるんだからさ。

 たとえばスカイツリーを作っている職人に「なんで働いてんの?」って聞いた時、「これだけやって、一日10,000円だぜ、やってらんねえよ」っていう奴と「日本一のタワーを作ってんですよ!」っていう奴の違いだ。

 何のために働くかだ。 カネのためか、夢や人を喜ばせるために働くか。

 仕事の悩みや苦労、疲労が自分を進化させてくれる。

 だから会社は学校なんだよ、学校って金を払って勉強するところだけど、会社はカネを貰いながら勉強できるんだから最高じゃねえの?

 会社ってさ、社長よりも凄い奴なんていないんだよ」


 「そうでしょうか?」


 「考えても見ろよ、社長よりも仕事ができる奴なら自分で会社やってるだろう?

 他人に使われているということは、自分が無能だということだ。

 だからサラリーマン、所詮は飼い犬なんだよ。

 だから無能なやつは会社に文句を言っちゃいけない、無能なんだから」


 「そうとは思いませんけど・・・」


 「極論だよ。

 そして人間関係っていうのはな、自分の思考の現れなんだ。

 自分の周りにいる人間が自分なの。

 嫌な奴ばっかりなら、それは自分が嫌な奴だということさ。

 あんた、その課長が嫌いなんだろう? 相手もお前が嫌いなんだよ、だから虐められる。

 好きになれっていうんじゃないよ、嫌われるなっていうこと。

 好きになれないなら、せめて嫌うな、それが相手に伝わるからだ」


 「どうしたら嫌いにならなくてすみますか?」


 「見方を変えることだな、どんな人間にもいいところはある、それを探せ。

 そしてその相手を避けないことだ。

 嫌いだから、苦手だからそいつを避けようとする、すると相手はそれが面白くない。

 だから自分からどんどん近づいていくんだ、そうすれば・・・。

 すると仲良くなれるか、あるいは目の前から消える」


 「そうかなあ」


 「とにかく、奥さんを大切にすることだな。

 普通の奥さんなら「辞めてどうするの?」とか「辞めたら私たちどうするのよ、家のローンもあるのよ」って言うのが殆どだ。

 あんたの奥さんはできた女だ。

 そのできた女が惚れるあんたなら、悪い奴じゃないはずだ。

 あんたならやれるよ、必ず。

 大切にしないとな、なかなかいないよ、そんな奥さん」


 「わかりました、がんばってみます」


 「あんたなら出来るよ、悩むということは「やりたい」ということでもあるからな。

 はい、それじゃ次の人!」

 


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