急ぎの依頼

「なかなかにのどかでいい町だな」


 そう言ってくれたのは護衛のハッツさん。見た感じだと30代中程の戦士って見た目だ。どうやら護衛の人達は1つのパーティで、そのリーダーがハッツさんらしい。


「まぁ割と田舎なんで、それなりに不便ですよ。王都に行くにも歩いたら3日はかかりますし」


「王都、と言うとグランザトールかな?ここはスタバス王国の領土だったな?」


「そうです、スタバス王国の田舎町、レリトです。田舎町とは言えグランザトールからゴトマジまで行こうと思ったら必ず通る交通の要なんでそれなりには賑わってますよ。近くにいくつかダンジョンもありますし。冒険者家業には事欠かないですね」


「なるほどな」


 そう言ってる間にギルドに到着した。


「あそこです、ギルド。他よりは立派な建物なんで分かりやすいでしょ?」


 オレが指さす先にはこんな田舎町には不釣合いな3階建ての建物。裏手には訓練場や簡単な宿泊施設も併設しているから中々に大きい。


「確かに、分かりやすいな。飯屋のご主人が言うのはもっともだったようだ」


 そう言ってハッツさんは仲間に馬車を停めさせ、先程の様に1人を見張りとして残るように指示を出しギルドのドアを開けた。


「すまない、依頼を出したいんだが受け付けはここでいいか?」


 ハッツさんが受け付けのカウンターにいたギルド職員の男性に声を掛ける。


「はい、こちらで大丈夫です。見たところ冒険者の様にお見受けしますが、あなたからの依頼と言う事でしょうか?」


「いや、依頼主はあそこにいらっしゃるセトさんだ。我々はセトさんの護衛として同行している」


「では依頼主の方、こちらへどうぞ」


 受け付けの男性が手で促す。ハッツさんに変わってセトさんがカウンターの前へ。


「私達はちょっと急ぎでゴトマジまで荷物を運ばなければならない。道中の道案内の依頼と、それとは別に護衛の依頼も出したいのです。とは言っても道案内の方はあそこにいる彼にお願いする事になっていますので、ギルドに仲介に入ってもらうだけの形になりますがよろしいですか?」


「もちろん構いませんよ。しかし護衛となると……今この町の銀級以上の冒険者は全て出払ってまして……。見たところそちらの護衛の方々と同等の冒険者となると……後数日は見つからないと思いますが」


「それは困る……。出来ればすぐにでも出発したいのだが……。明日の朝ではどうにもならないですか?」


「明日の朝……ですか。おそらくは無理かと思われます。少なくともこの町に常駐している冒険者はまず捕まりません。運良く流れの冒険者が来ればとは思いますが……そんな都合のいい事はあまり無いかと……」


「そうですか、それは困りましたね」


「どうします?セトさん。確かにここへ来る道中で仲間が3人離脱したのは痛手ですが、この先は森さえ抜けてしまえば後は比較的安全な街道です。このメンバーでも問題無いのでは?差し出がましいかも知れませんが、少々過敏になられてるのではありませんか?」


「そうだろうか……。とは言えどうにもならないものは仕方ないのか……。運んでいる物が物だけに少々神経質になり過ぎているのかも知れないな」


「何にせよ無い袖は振れませんよ。おそらくは受け付けの方が言うように護衛の補充は出来ないのでしょう。案内役のフル君が見つかっただけでも幸運だと思わなくては」


 セトさんは言われて頭をポリポリとかく。

 

「確かにそうですね。土地勘の無い場所で右往左往する事が無くなっただけでも僥倖と言うものです。では依頼については彼への案内役の依頼だけをお願いしたいのですが、よろしいですか?」


「かしこまりました。ではすぐに依頼書を作成しますので少しお待ちください。とは言っても依頼書さえ出来上がればもう依頼主も依頼を受ける人も揃っているので、後はサインをいただくだけで終わりますので」


「了解した。ではセトさん、あそこのテーブルで待たせていただきましょう。なあに、飲み物を飲む時間すら無いぐらいすぐに終わりますよ」


 促されて全員がそれぞれテーブルにつく。オレも近くのテーブルに座り見慣れたギルドを意味も無く見回した。


「ここのギルドはこの時間になるとほとんど依頼が貼られていないのだな。あるのは常駐の依頼ぐらいなものか?」


 退屈しのぎにハッツさんがオレに話しかける。


「まぁーそうですね。時期が春先だと魔物の繁殖期なんかで討伐依頼なんかもそれなりに出るんですが、もうそろそろ夏も本番って今の時期だとそこまででは無いですね。後はダンジョン絡みぐらいでかね。なんでか知らないですけど、この辺りはちょいちょい新しいダンジョンが生成されるんですよ。あ、もちろんそんなに危険度が高いダンジョンでは無いですけどね」


「ほぉ……ダンジョンが生成されるのか。それは中々に珍しいな」


「えぇ?そうなんですか?って言っても危険度はいいとこ鉄級ぐらいのダンジョンですよ?後は原初のダンジョンも1つありますけど」


「なんと、原初のダンジョンまであるのか。それは驚きだ。新しいダンジョンが生成されるのもその辺に何か理由があるのかも知れんな。そもそもダンジョンが生成されると言う事自体珍しい事なんだぞ?」


「そ、そうなんですね。オレは生まれてからあまりこの町を出た事が無いもので……。グランザトールにもゴトマジにも何度も行った事はありますけど、親の商売の手伝いに行っただけで長くは滞在しなかったんで。そもそも両親が死んで冒険者になってからはこの町から出た事は無いですからね」


「そうか、ご両親を……。それで君は冒険者になったと言う訳か。ご両親と同じ商人を目指すつもりは無かったのかね?」


「いやまぁ……それがそうも行かなくて。両親が死ぬ前に色々ありまして、とんでもない額の借金を残して行ったんですよ。で、それを返済するには普通に働いていたんじゃいつになる事やら……。で、少しでも金になればと思って冒険者になったんです。まぁそもそもオレに商売の才能なんて無かったですからね」


 ハハハと力無く笑って見せた。そりゃ冒険者やってたって銅級じゃ稼ぐ額なんてたかが知れてるからな。


「冒険者の高収入、つまりそれは自らの命を危険にさらす見返りと言う事ですよ。私なら安全な方を選んでしまいますけどねぇ」


 セトさんがまるで独り言の様に言う。


「まぁオレは借金返せるなら何でもいいんですけどね」


「皆さんお待たせしました。依頼書が出来上がりましたのでこちらへどうぞ」


 話の途中で受け付けに呼ばれた。


「さて、さっさと済ませて早く向かいましょう」


 ハッツさんが立ち上がる。あれ?もしかして今すぐ出発するのか?


「そうですね、この人員で行くと決めた以上、ここでいたずらに時間を浪費する必要はありません。途中で野営になったとしてもすぐに出る事にしましょう」


「と言う事だがフル君、すぐに出たとしてどれぐらいでゴトマジまで着けそうかな?」


「今すぐなんですね。んー……、さすがに夜までに森を抜けるのは無理ですね……。間違いなく森の中で1泊する事になります」


「やはりそうなりますか……。いたし方ないでしょう。フル君、野営する場所は出来るだけ安全な所でお願いします」


「わかりました。それならいくつか心当たりがあるので大丈夫です。森で1泊すれば、明後日の夜にはゴトマジまで着けると思います。森を抜けた先の街道には途中でちょっとした小屋もあるので2泊目の心配は無いと思いますよ」


「それなら安心だ。では依頼書を片付けよう」


 そう言ってオレとセトさんは受け付けへ行き、それぞれ依頼書にサインをする。そしてセトさんは報酬の金額5枚を受け付けに渡す。その後オレは首から下げていた冒険者カードを受け付けに備え付けてある端末にかざす。端末、オレの冒険者カードの順で緑色の光が幾何学模様で走り、それぞれを行ったり来たりした。


「これで完了です。ゴトマジまで、道中お気を付けください」


「ありがとう。では早速行くとしましょう。行くと決めたなら早い方がいい」


 言われてハッツさんは手で仲間を促し全員でギルドを後にした。

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