第58話 囚われの少女
「オイ! 起きろよ! お嬢様!!」
(——痛い! なに? これ……)
「やっと起きたかよ。ボスが話があるってよ」
「……え? 何……ここどこ……」
突然の痛みで目が覚める。私の右頬がジンジンとした鈍い痛みがある。まるで叩かれたみたい。
「ちょっと、何よこれ!? あなたは誰!! これは……縛られて!?」
「オイ。うるセェ〜ぞ?」
知らない石畳の小部屋で、私は手足を縛られて座らされていた。背中にある木箱に背もたれるように……
「これは私がストライド家の令嬢であると分かっての狼藉なの!?」
目の前には品の悪そうな男。服装は冒険者のようにも見えるけど……状況からして私はコイツに捕まった? もしくはコイツらと言った方がいいのかしら? 男は『ボス』と言葉にしてるから、組織的な犯行——つまり、私は攫われたんだって、必然的に気づいた。
「あなた、タダじゃ済まないわよ!! 今すぐ解放なさ……」
「うるセェえ——っつってんだろう!!」
「——グゥ!?」
声を荒げてみれば、男は苛立って私の髪の毛を引っ張り、黙らされる。
その時……
「おいおい……女の子にはもっと優しくしなきゃダメだろ〜〜? まったく……」
「……ッボス! すいやせん。あまりにも煩かったもので……」
もう1人の男が姿を現した。
「ごめんね〜〜。ウチの部下が粗暴で……」
「あ、あなたは……」
「お! 威勢いいね? 怖い思いしたあとだっていうのに〜〜。君の熱視線は鋭利〜〜鋭利〜〜で鋭いね〜〜♪」
「あなたは誰だって聞いてるのよ!!」
「この状況で啖呵を切るの? 果敢だね。実に俺好み——だ〜〜っよっと!」
「——ヒグ!?」
その男にいきなり頭を掴まれて木箱に打ち付けられた。後頭部に鈍い痛みが走る。
「思わず壊したくなっちゃうじゃんかよ〜〜お嬢様?」
「だから……あなたは誰なのよ……」
「あらら〜〜? まだ言う?? あ〜〜と〜〜レディに名前を聞かれたら答えてあげるのが礼儀だろうけどさ。俺ってアウトローな訳。だからさ……言うわけないじゃ〜〜ん。馬鹿なの?」
少しでも情報を引き出そうとしたのだけれど……ボスだとか言うこの男——ニヤニヤ笑うだけで何も喋ろうとはしない。
唯一わかるのは、この男は只者ではないということ……
剣の腕を磨く上で偶然の産物で身についた能力なのだけど、私は一目見れば相手の大体の力は把握できる。なんとなくな話だけど、立ち居振る舞いや雰囲気で私より実力が上かどうかって感覚。さっきの男はそこまで大したことはなかったけど……この男は別格。シルバーの短髪に黒い冒険者の装い。腰には二本のロングソードを帯刀している。たぶんだけど、万全の状態で勝てるかどうか微妙なところね。
間違いなくレベルは高いはず……
「でも、説明なしは流石に可哀想か? 簡単にいえば、君は攫われた。俺らは君がストライド家の令嬢だって分かっている。目的は活動資金が欲しい。以上——質問は受け付けませ〜〜ん」
男は簡潔に言葉を口にして、私の頭から手を離す。私は質問が沢山あるのだけれど……釘を刺すところをみると、聞いても答えてくれなさそう。
特に気になるのは……
私の格好とか?
「…………」
「あ〜〜と、ごめんよ。勝手に脱がせちゃって〜〜」
「……ッ……変態……!」
「けど安心して。俺は子供にゃ〜〜興味ないからさ!」
いきなりの状況と頭に血が上って気づかなかったけど……私、制服のブレザーとシャツを脱がされてるの。流石に下着とスカートまでは取られてないけど……
当然、剣は無し。
「少しでも逃げにくい状況を作り出しとくのは常套手段だからさ。マッパにされるよりはいいでしょう?」
「うっさい! 外道!!」
「外道? あはは〜〜褒め言葉をありがとうお嬢ちゃん。でもね——この手法は正解なの。だから、ごめんね〜〜恥ずかしいと思うけど我慢してね? 王道の人攫いなんて阿呆のすることだからさ。これでいいんだよ」
「——ック!」
この男は気持ち悪い。もう、あのアルフレッドが掠れるほどよ。
屈託なく人の痴態を笑って、彼からはまったく悪意を感じない。これが当然かのような振る舞いなのよ。それでいて、強者特有のオーラを発している。
コイツからは、気味が悪い印象しか感じない。
「じゃあ〜〜俺は行くよ。おい、オマエ——ちゃ〜〜んと、このお嬢ちゃんを見張ってろよ。くれぐれも丁重にな?」
「……はい」
そして、男はこの場から立ち去ろうとする。横に控えた私の髪を引っ張った男に目配せと指示を出すと、部下である彼は返事をして頷いた。
「——ッ!? 待ちなさい! こんなことしてタダで済むと思ってるの!! 私はストライド家の……ストライド……家の……ワタ、シは……」
そんなボスだとかいう男に、手足を縛られた状態でも精一杯前のめりになって声を荒げる私——だけど、『ストライド家』の名前を出した途端に気づいてしまった。
私はもう……交渉材料にはならないということに……
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