第54話 どうか盗賊さん 達者でな!

「あと、ここに残ってる仲間だが……今はほとんど物資の調達に出払ってる。宝物を監視する俺と、ボスの近くに数人。それと、入り口を見張る奴が2人居るぐらいだな」



 おっと、ここで重要情報だ。今は、盗賊の仲間は出払ってるみたいだ。それは好都合。見つかる可能性が少ないってことだからね。ナイスタイミング。



「ちなみに、その入り口はどっちだ?」

「……え?」

「あぁ、変な勘違いをするなよ? 私はここへ来て日が浅い。ここはどこも似たような光景だからな。方向感覚が狂う。大体の方角でいい。教えてくれ」

「あぁ、なんだ。一瞬、怪しんじまったよ」

「フハハ——私がか? 部外者とでも思ったか? そ、そんなわけないだろう? 部外者なら、ここまで大胆不敵に聞いたりしないさ?」

「はは、それもそうか」

「あぁ、君が気の回る奴でよかったよ。で、どっちなんだ?」

「なら、あっちだ」



 うん。一瞬、ヒヤッとしたぜ。咄嗟に口からでまかせを吐いたが、全部が逆だよな。僕は大胆不敵なクソガキだし。こいつは部外者を仲間だと勘違いする馬鹿な盗賊だ。


 でも、僕にとっては心底好都合なんだけどな。

 

 で——男は、遠くを指差す。ちょうど洞窟の壁……天井へと伸びる大きな亀裂の入った場所が見える。あのヒビ割れの根元に地上に繋がる道でもあるのだろうか?



「ありがとう。助かるよ」



 僕はそれを確認すると男に、礼を残した。あまり執拗に質問を返すとあやしまれそうだ。あくまで僕は、ボスとその周辺の情報をいくつか持っている人物を演じなくてはならない。この辺で引くのが賢い選択だろう。



「あの〜〜よぉ……」

「ん?」

「俺はこのあとどうしたらいい? いつまでこうして固まっていればいいんだ?」

「あ? あぁ〜そうだなぁ〜〜。なら、私はもう行くよ。君は、しばらくそのまま薪を焚べて炎でも見ているといいよ。その間に私も宝物が問題ないかだけチェックをして次のターゲットを探すさ。これでどうだい?」

「分かった。そうさせてもらうよ。俺はしばらく——そうだな……10分ぐらいはこの火を飽きずに見てられるだろうからさ。その間に、仲間が宝物の確認をしていようが気づけないかもしれないな〜〜?」

「……っふ。そうかもな」



 ではでは、盗賊さんはこう言ってくれてることだし、宝物とやらがどんなモノか見せてもらおうか! きっと、僕がみたことのないような煌びやかなお宝があるに違いない! ワクワクするぜ!


 それではさらばだ! アグレッシブ盗賊さん!!


 と、その前に……



「ところで君は……本当に仲間に恵まれているのだな」

「……え?」

「さっき、上に行った奴が言ってただろう? 忠告はしたってさ」

「忠告? ——ッ!? まさかあれは……抜き打ちのテストを知らせるために!?」

「はてさて……どうなんだろうな?」

「あいつ……俺の為に……」

「君が、これで思うことがあるんだったら……仲間に向けた態度を悔い改め、せめて謝罪ぐらいは口にするべきか? まぁ、どうするかは君次第だがな」

「……ッ」



 たまたま状況がいい具合にマッチしてたから……さらなる成長を促す。


 このお馬鹿な盗賊さんは、この短時間で2度成長を遂げた。


 “お馬鹿”から“アグレッシブ”に……


 そして“アグレッシブ”から“ピュア”な盗賊さんに……


 僕のお節介はここまで——どうか、仲間と仲むずまじく、達者に盗賊活動を頑張ってくれたまえよ!



 ——オディオス!!



 さて……おっ宝〜おっ宝〜♪ ふふふ〜〜♪









 そして……



 僕は盗賊さんが示した宝の在処へとやってきた。そこは宝物庫……というほどには立派なモノは存在していなかったが、それでも石のブロックに囲われた部屋の様な作りの場所だ。


 

 ——ジャラジャラ!


「……む? 南京錠……」



 そこは鉄格子の扉に鎖と南京錠で固く閉ざされていた。風貌的には牢屋って感じで、部屋への入室は許されなかった。まったくもって面白くない。


 だがな……


 その程度の拒絶はな〜〜僕にとってはなんの問題もないのだよ!



「——刮目せよ! 影移動!」



 ふっはっはっは〜〜♪ 甘かったな盗賊さん!! 僕の手にかかれば……こんな施錠は無いも同然なのさ。まず鉄格子の扉は僕には通用しないんだよ。だって奥の状況が見えてしまうんだから、僕は短距離移動のできる【影移動】を使って、宝物庫の中の影に飛ぶだけで侵入できてしまうんだからな! 爪が甘すぎるのだよ!



「さてさて、昨今の盗賊さんはどんなお宝を隠し持っているのかな? 拝見〜〜♪」

「……う、うぅん……」

「…………ん?」



 周囲は箱が積まれた物置のような場所だった。

 いざ盗賊の宝物を物色……ゲフンゲフン……拝見させてもらおうと、僕が置かれた木箱に手を伸ばそうとした時——何やら人の気配を感じた。



「——ッ!? ……おいおい。この人……こんなところで何してるの?」

「すぅ〜すぅ〜……」



 そこに居たのはまさかの人物。寝息を立て、可愛らしい寝顔を見せる1人の少女。

 

 行方不明である【アイリス】の姿がそこにあったのだ。


 マジでこのアグレッシブさん。こんなところで何してるんだ?!

 










 





 




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