第53話 馬鹿な大人を絶望の淵に立たせるゲ〜ム
僕は、そうと決めると瓦礫を回り込んで男の背後に立つ。男は焚き火に薪をくべ、炎の弾ける音で、僕の存在にはきずいてない。しめしめ♪
そして、スゥ〜っと神器を取り出した僕は……
「——ッ動くな!」
「——ッ!?」
男の首に刃をかざして静止を訴えた。
「だ、だ、誰だ!?」
「おっ〜〜と。動くなって言っただろ? 手が滑って君の顔が上半身とバイバ〜イ——しなくちゃいけなくなるぞぉ〜〜♪ ふっへっへっへ……」
「——ッ!? ック!!」
男は当然、驚いて立ち上がろうとしたが、僕は脅し文句を口にして男の動きを封じる。ちょ〜〜と、ヒステリックを織り交ぜ、いっちゃってる人間を演じてみる。まぁ〜これにも訳があってさ。
「き、貴様は誰だ! 一体……」
「ほう? 果敢だな。この状況で質問をするとは評価してやる」
「あぁん?!」
「僕の……う〜〜ん? ゴホン——あぁ……私は君たちのボスに雇われた殺し屋だよ」
「はぁあ? 殺し屋?!」
「おっと、声を張り上げる奴は嫌いだな。思わず殺したくなっちゃうぜ?」
「——ッ!?」
と、嘯くためだ。殺し屋……ヒステリックなイメージがあるでしょう? 一応、一人称を『私』に変えて、声もハスキーボイスをイメージしてボイチェンしてみてるんだ! 喉を窄めて、腹から声を出すのがポイント!
「私はな。ボスに、こう言われてるんだ。最近、『部下が
「つまり、ど、どういうことだよ?」
「ボスからな、お前達を抜き打ちでテストをしろと言われている。少しでも私の気配に気づけるかっ……てな?」
「……は? じゃあ?!」
「ふふふ……オ・マ・エ・は——不〜合〜格〜だ!」
「——ヒィイ!?」
アッハッハ〜〜これ、すっごく面白〜〜い! 新手の悪戯しているみたい! 盗賊相手に殺し屋のフリして脅し、ヒィ〜ヒィ〜言わせる。すっごく笑えるんだけど! もう、内心笑いを堪えるのが大変だよ……ふはは!!
「さて、今すぐ殺して……」
「ま、ま、待ってくれ! ちゃ、チャンスを——! 俺に一度チャンスをくれ!!」
だって、しみったれたクソガキにこの怯えようだよ? これクセになるかも!?
『馬鹿な大人を絶望の淵に立たせるゲ〜ム《盗賊限定》』!!
でも、僕は優しいからね。この辺で救いを与えてやろう。そう、チャンスってやつを。
「まぁ〜待て、最後まで話を聞け」
「……へぇあ?!」
「今すぐお前を殺してしまいたいところだが……ボスは残虐的でも人情に熱く仲間を大切にするお方だ。なぁあ? オマエも知ってるだろう?」
「えっとぉ……」
「あん?! 違うって言いたいのかぁあ?? あぁ〜〜なら今すぐ……」
「そうです! ボスは優しいです!!」
「うんうん。そうだろう? だから、今日のところは見逃してやる。これを教訓に精進しろ——ってことだ」
「ほ、本当か!?」
「あぁ……だが、次はないぞ?」
「あぁ、わかった!」
こうして、この盗賊は、ダメ盗賊から心を入れ替え、アグレッシブ盗賊へと生まれ変わる。ボスが誰かは知らんが、代わりに弛んだ部下を躾けてやったよ。ありがたく思えよ!
「おっと、まだ後ろを振り向くなよ? 私の顔を見た奴は例え仲間であっても殺さなくてはいけないからな」
「え?! わ、わかった」
「コレが、殺し屋ってもんだからな気をつけろよ?」
「な、なるほど……」
う〜〜ん。正直、殺し屋のセオリーなんて知らんし、適当言ってるだけだからな? あくまで僕のイメージ。
……ん? 酷すぎる?! そんな馬鹿な!!
「それと、このことは誰にも言うなよ? 知られてしまったら抜き打ちでは無くなってしまうからな」
「あぁ、黙ってるよ」
うん。これで、僕がこのアグレッシブ盗賊さんを脅した事実は広まらない。流石は僕、完璧な口実だぜ。
「あ、あと定期報告と他に近くに誰かいるか教えてくれるか?」
「え? 知らないのか? あんた……」
「馬鹿かお前……殺し屋ってのはターゲットを襲って情報を得るんだよ。今みたいにな……それに、ボスから直接聞くわけにもいかないだろう?」
「確かに……」
さてさて、このまま盗賊さんと遊びに興じるわけにもいかない。ここでなにしてるのか? とか、どれぐらいだけ仲間がいるのか? とか聞き出さないとね。
まぁ、聞いたからなんだって話だけど……僕はたぶんよっぽどのことがない限りコイツらを放置する。見てみぬフリだ。僕は英雄譚に登場する主人公、英雄ではない。ただの好奇心旺盛なクソガキだからな。ガキはガキらしく試験に戻っていくさ。
どうか、街の衛兵さん頑張ってください。
「俺からの報告としては、隠し宝物は無事だ。ちゃんと見張ってる」
「……ほう? 宝物?」
「あぁ……」
なぬ!? この盗賊……隠し宝物と言ったか?
——ジュルリ!
あれ? なんでだろう。急によだれが……
言っておくけど、盗賊が隠し持った宝物をちょろまかしたりしないからね? だって、どうせそれは盗品だろうし……本来の持ち主がいるだろうからさ。
ただ……
見てみたい衝動はあるなぁ〜〜。
「ああ……ここから左の遺跡の中さ」
「分かった。後で私も確認しておくよ」
「そうか……あと、女も無事だ。問題なく縛った状態で今は眠ってる」
——ん? 女??
盗賊さんに捕まった。哀れな娘がいるのか? 可哀想に……
え? 助けないのかって??
いやいや、無理でしょう? だって、僕……出口は崖の先しか知らないし、いきなり知らない女を連れてダンジョンから出てきたら、僕は経緯を諸々説明しなくちゃいけなくなる。そんなことしたら、僕の力が知れ渡るし、問題だらけだ。
その『女』には気の毒だが、僕がしてあげられることは何もない。
さっきも言っただろう?
僕は英雄譚に登場するような主人公や英雄じゃないんだって……ね。
最悪なのはミイラ取りがミイラになること……目の前の男はたいした脅威には感じられないが、仲間の数や、コイツの言う『ボス』がどれほどの実力か分からない今——考えなしの正義感を
これに関して言えば、無事に助かることを祈ることしか僕にできることはないかな?
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