第43話 技の応用
「……!?」
「んにゃ? あれって……」
「うん。冒険者だね」
しばらく狭い通路を進む。するとちょうど通路が折れ曲がった先——そこには鎧を着た男が佇んでいる。学園が雇った冒険者だ。
定期試験の最中——『夢想』内で、万が一のことがないように、生徒の監視役としての人員だ。
僕が進んだこの通路、本当は足を踏み入れるなと言い渡された通行禁止の通路なのだ。その理由は、この先には崩落した空間があって、ほとんどが崖。シンプル危険だから近づくなって話である。
おそらく……あの男は、それでも言うことの聞かない生徒がこの先に進まないようにと、あそこで見張っているのだ。これで金をもらってるんだから、あの男は恵まれている。だって、突っ立てりゃいいんだもん。僕もそんな職に就きたいよ。
「ねぇ。ウィル……無理だよ。引き返えそう? ここ、入っちゃダメって……言われたもん。やめとこう」
ヴェルテは後ろから当然の事を言って僕を説得する。ダメ——と言われたなら、ダメなんだから……ここで引き返すのは当たり前なことさ。
しか〜〜し!!
「僕はこの先に用があるからさ。ちょっとそれは聞いてあげれないかな?」
「……えぇ〜〜?!」
「さてと……ヴェルテ? ちょっと僕に近づいてくれる?」
「——え!? こう??」
「もっと、こう!!」
「——うひゃ!?」
近くに寄って来た彼女を僕は片腕で抱き寄せる。そして……
「——影移動!!」
「——ッッッ!!??」
影移動を発動させる。
狙いは、さっきチラッと男を確認した時に見た通路の奥——男の持った松明で先にある岩に翳りがあるのを見た。その袂へと移動したのだ。
ヴェルテを抱えたのは同時に移動するため。影移動は影に潜って移動する【魔技】だ。近くによれば、1人ぐらいは一緒に移動できるのである。これも、この技の小さな利点である。
「はい! 到着。ごめんねいきなり抱き寄せちゃって……」
「……私……オバケさんになっちゃった? 同じことしちゃった!?」
なんだろう。いきなり変な技を使っちゃったから放心状態なのかな? ヴェルテがキョドキョドしている。
だけど……
「さて、進むよ。試験時間は限られているし、僕たちが居ないと思われるのはマズイから、早く事を終わらせてこよう!」
「——ッ!? う、うん……ま、待ってよ……」
彼女の回復を待ってる暇はない。早いところ、目的の素材だけ漁って戻ろう。居ないことがバレると面倒なことになるし。
そして……
しばらくすると……
「おお……壮観だね!」
「やっぱり……崖じゃん」
突然、空間が広がったかと思えば足場がなくなった。目の前に奈落の姿が僕たちを出迎えた。
1つ補足だが……
ダンジョン内はとても薄暗い。だが、どうしてさっきから移動できているかと言うと、壁に発光する光の玉が張り付いているからだ。ダンジョン内は基本、謎光源で包まれている。誰が設置したかも分からない壁の篝火に、青白く輝く光源とか、普通なら暗闇だろうが!! とツッコミたくもなる場面の洞窟だろうが、意外と視界はクリアだったりする。
でだ——
僕たちの目の前には奈落が出現した。だがそれは一部であって……当然、暗闇の底がある部分が大部分だが、謎光源を貼り付けた遺跡の一部が所々迫り出して確認ができる。そんな広い空間が目の前にある。だが、普通の人間はとてもではないが前に進むことはできない。遺跡の一部があると言っても足場がないし、ここからでは遠い。結局行き止まりでしかない。
あくまで一般人にとっては……
「ヴェルテ……僕はちょっと先に行ってみてくるよ」
「……え? 先?? ここ崖……」
崖なんて僕には関係のないことさ。
「……神器、
「——ビクン!?」
僕は神器を取り出す。ヴェルテは驚いていたけど……いちいちリアクションが面白い。飽きない子だ。
「……来い。
続けて、もう一本の剣——影も顕現させる。【虚】から伸びる紫紺の糸を僕の影に伸ばせば、自ずと漆黒の剣は出現して見せた。
「黒い……剣? 紫の……糸?」
「それじゃ、ここで待っててね?」
「……え?」
僕は【影】を目の前の広大な空間に投げる。一本の黒い刺突剣は、真っ直ぐ飛んでいく。神器の効果によって、僕は【投擲】による能力が伸びていた。よって、剣の飛翔スピードはそれなりのものだ。
そして……
「——ッ“虚影”!」
「——ッ!? き、消えた!? やっぱりオバケさん!!??」
僕はすかさず神器に記憶される特殊な技——魔技【虚影】を使う。すると、僕の身体はヴェルテの隣から一瞬にして消え、たちまち空中に現れる。先ほど投げた【影】の隣にだ。
「——そして、もう一回!!」
すかさず、飛翔中の【影】を掴むと、僕は再びそれを投擲する。始めは闇雲に投げてみたが……今度は遺跡の残骸目掛けてだ。
「——ッ“虚影”!」
あとは同じ工程の繰り返しだ。魔技【虚影】を使うことで僕の身体は一瞬にして移動する。
【影】を投げる→魔技【虚影】を使う→【影】を掴み再び投げる→……
僕はこの動作を繰り返すことで、多少なら空間の移動が可能なのだ。魔技【虚影】を使った離れ業なのだが『できるかな?』で、実験してみると、意外や意外……これができてしまったのだ。単純作業すぎるのと、瞬間的な移動による視界の変化で脳が混乱してしまいそうだが……そこさえ気をつければ、半永久的に
そして……
「——あら、よっと!」
見事、僕は奈落を飛び越え、遠く離れた遺跡の残骸へと到達した。ビバ【虚影】!! である。
そして、僕の用事はこのもう少し行ったところ……
「……オバケさん。私置いて行っちゃう。うぅ〜〜……」
「——よ!? ただいま!」
「——ギニャァァァアアアアアア!!!!????」
しばらくして、影移動で戻る。ヴェルテの影が丁度いい移動先となってくれた。
だが、少し驚かせてしまったか? 激しく飛び跳ねて、危うく崖から落ちそうになってたが、間一髪。彼女の腕を掴むと引っ張って受け止めた。
危ない危ない……
せめて一言、言っておくべきだったな。
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