第42話 大変なことになるよぉ〜〜!
「それでは、皆さん。ダンジョンアタック——開始してください!!」
さて、ダンジョンアタックの開始だ。
フェル先生の号令の元——皆が我先にと、ゲートを潜って行く。
言い忘れてが、ここ『夢想』は『夢境』と同じく石のアーチにゲート部分に別空間が形成された不思議な見た目だ。奥の方には石造りの遺跡でできたダンジョンが見えている。出てくるモンスターはスライム君とレベルは一緒。余計なことさえしなければ、雑魚しか出てこない。チュートリアルダンジョンの劣化版ダンジョンなのだ。
「さて、僕たちも行こうか……えっと……」
「——ッ!? あの……“ヴェルテ”……です。オバケさん……」
「オーバルケさん?? 誰だそれ……僕の名前はウィリア。ウィルって呼んで」
初めて薮に生きるモフっ子の名前を知った。
【ヴェルテ】と互いに簡単な自己紹介をして、僕はゲートに向き直る。この時、僕が名前を伝えれば、彼女はコクッとだけ頷いてたけど、やっぱり距離感があるな。ところで【オーバルケ】って誰だ。聞かない名前だけど誰と勘違いしたんだろうか?
「ねぇ」
「……ん?」
「みんな行っちゃうけど……行かないの?」
そして、背後からヴェルテが僕に話しかけてきた。
別に嫌われては……いないのか?
彼女の言う通り、僕たち2人だけはゲートの前に突っ立って、置いてけぼりをくらっている。ヴェルテは僕にパーティーの主導権を譲ってくれるみたいで、背後で僕の動向を伺ってるみたいだ。
それにしても、プルプル震えてるんだが……解せぬ!! この無害そうな僕のどこに怯える要素があると言うのか?!
まぁ……今はそのことは置いておこう。こうして居るうちに生徒は素材を刈り尽くしてしまうだろうから、彼女が心配を口にするのはムリないのだ。
だが、安心しなされ、ヴェルテちゃんや……この僕に主導権を握らせてくれるんだったら、間違いなくいい思いをさせてあげよう。ちょっと、秘密を共有して黙っててもらう必要があるけど、それさえ守ってくれたら一攫千金の片棒を担がせてあげようじゃないか!
さてさて……
こうして、僕と、ヴェルテは夢想に足を踏み入れる。中は遺跡のようになっていて、オープンに石畳の世界が広がっている。が、入り口部分はそう複雑じゃなく一本道だ。
だが……
僕はここで……
「じゃあ、こっちだ!」
「——ッ!? え!!」
横道に逸れる。ダンジョンの奥には進まない。
「そっちって!?」
ヴェルテが驚いている。それも無理はない。だって……
「そっちは崖しかないよ??」
そう……
僕が入った道は、石の壁が崩れてできた。なんとか人1人か2人通れるか——ってほどの横道。この先には崖しかないはずだ。
だけど……これでいいんだ。
「大丈夫。僕には秘策があるからね」
「……秘策??」
「そう。秘策! だけど……これはどうか秘密にしてくれるかな?」
「……え!?」
「今日、このあと目にするものは2人だけの秘密。これが知られてしまうと大変なことになってしまうからね」
「……た、大変な事!!」
「そう、大変な事♪」
僕はニヤニヤして、これを言う。ヴェルテの表情に怪訝が現れる。
「……それって、どんな……まさか、お肉が食べられなくなるとか!?」
「……? ん? お肉??」
なんだろう『肉』って……? 食べられなくなると、獣人にとっては死活問題なのだろうか? まぁ、いいや。適当に嘘ついちゃおう。
「いや……もっとやばいことになるかも……」
「——え!? もっと……」
「学食のメニューが、オールベジタリアンに変貌するかも?」
「——なんだって!!?? そんなの、いやァァアアアア!! 耐えられない!!」
「でしょう? そんな呪いがかかってしまうかも……」
「——嫌だよ……そんなの……グスン……」
あらら……泣いちゃった。そんなにショック?? ちょっとかわいそうだけど、その見返りは大きいからさ。我慢してくれ。
「だからね。ここから先は僕と君だけの秘密。分かった?」
「——ッコクコクコク……!!!!」
ヴェルテは、目に涙を溜めて、激しく首を縦に振った。
うん……素直な良い子でよかったよ。僕たちは共犯……じゃなくて、秘密を共有する友達だよ。これで、僕がこれからすることは黙っててくれることだろう。
【学園アルクス】『七不思議』
——第2の噂——
『冒険科の生徒の中には幽霊がいる。ダンジョン内で秘密を語り、これを喋ってしまうと、惨たらしい呪いを掛けられてしまう。決して秘密をバラしてはいけない』
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