第44話 え?! 全部食べたの?
そして、今度はヴェルテを連れて【影移動】。
僕が魔技【虚影】で先行したのは、この先の影の位置を確認したかったから……【影移動】は影の位置を把握しておかないと上手く飛ぶことができない。よって一度下見をする必要があったのである。移動距離にも制約があるんだけど、所々に見える遺跡の残骸を飛び石のように伝っていけば、これに関しても問題はなかった。
これで、2人して奈落を飛び越えて前に進める。
そして……
「——到着!!」
「……ゼェーゼェー。高い所……嫌い」
目的地に到着だ。
とは言っても、本当の目的地は、もう少し先だけどね。今、僕の目の前には横穴が空いている。そして、奥には狭い通路が続いていた。
この通路を進んだ先には……アレが、あるんだ。
「さて進むよ!」
「ふぇぇ……もう少し休ませて……」
「——ッチ! 仕方ないな。ホラ! 干し肉!」
「——ッ!!?? 干し肉ぅう!! わぁ〜い! 私、まだ頑張れる!!」
非常食袋をヴェルテへと投げる。すると、彼女は一瞬にして笑顔を取り戻した。どれだけ好きなんだよ……肉……?
勢いよく袋を開けると、口一杯に干し肉ぶちこんで、頬がハムスターのようだ。まさか全部食う気か? 僕の非常食なんだけどな。
とにかく……
ヴェルテのご機嫌をとって、横穴へと足を踏み入れる。彼女はモグモグ言いながら、僕の後を追ってくる。こんなところで時間を無駄にはしてられない。チャチャっと採取して、急いで戻ってくるぞ。
そして……しばらく歩く。
石や土の壁だった洞の壁は、次第に石のブロックが混在し始める。やがて気づいた時には、綺麗に舗装された石畳のダンジョンの通路に変貌した。所々、壁の石ブロックが崩れていたが、人が通れるほどに大きく崩れた部分を横切った時——その先を見ると眼下に遺跡のようなモノが広がっている。この事からも、今歩いている通路は高い所にあるようだ。
と、そんな風に通路の状況を確認しつつ10分ぐらい歩いた時だろうか。
とある部屋に出た。
「うん。ついた」
「——ん!? ふぉれっへ、へ〜ホ?!(これって、ゲート!?)」
ヴェルテも気づいたようだ。この部屋の特徴に……と言っても、それしかないからな。気づかない方が無理がある。
てか、ヴェルテちゃん? 君、口にモノ入れて喋らないの。行儀が悪いよ。
それと……君が裏返して振ってる袋は、まさか僕の非常食袋じゃないよな?
全部食べたの? 干し肉以外も??
僕『干し肉』って言ったよな。別のものまで食ったんか?!
そして、パン屑しか出てこない事を確認したら、シュンとケモ耳折り曲げて、空の袋を僕に『ハイ!』って感じで返してきた……図々しくないかね? せめて『ありがとう!』とか、『ご馳走様!』はないのか? 無言だったんだけど……“慈愛のウィリア”と自称している僕でも、つい“イラッ”としてしまったぞ。
「はぁぁ……まぁ、いいや」
「——へぇえ? 何が?? ふぅ……うん! お腹一杯!!」
君、質問と近況を同時に喋るなや。ヴェルテの腹の虫状況なんてどうでもいいんだよ。
はぁぁ……この子に構ってると時間の無駄だな。
さて……僕たちが踏み込んだ部屋だが……縦、横、高さと、均一の立方体のような部屋であまり広くはない。部屋の中心には、『夢境』『夢想』のダンジョン入り口にもあったゲートがある。
実は、あるかどうかは眉唾物だったけど……これを見れて僕は一安心である。
「よし……じゃあ、入るよ」
「ねぇ〜ちょっと……これ一体どこ向かってるの?」
さてゲートを潜ろうかというときに、ヴェルテはキョトンと首を傾げて疑問を口にする。
ここまで目的地も言わないで、黙ってついてきてくれたんだ。こんな本能のままに生きてるような獣人っ子でも、ここまで来ると流石に不安に思うか……?
「…………」
「……?」
不安なんだよな?
ちょっと振り返って顔色を見てはみたけど……人差し指咥えてケロッとしてるぞ。
この子、可愛らしくて、愛でたい衝動には駆られるけど……なんか調子狂うな。
まぁ、いいや。
「えっと、このゲートの先だけど……」
とりあえず疑問には答えてあげるか。
「……チュート、り……じゃなくて、こう言った方がいいか?」
「……?」
うん。たぶん、コッチの方が適切だな。
「——光の迷宮アルフヘイムだよ」
「……え?」
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