第19話 旅は道連れ世は情け容赦無し

「でも、僕の魔法なんて、アイリス様の魔法による一刀に比べたら威力はないはずです。鎧にダメージが蓄積していたのかもしれませんし、たまたま僕の時に壊れたのかもしれませんよ」


「あなた馬鹿なのね。そんな偶然あってたまるものですか」



 ナメクジ君にした時と同じ言い訳をしてみる。しかし、彼女はそうは信じちゃくれない。



「直前の私の一刀は、打ち付ける金属音を発したわ。的との距離は約10メートル。それでも大きく聞き取れたことから、相当な力が鎧に掛かったはず。だけど鎧はビクトもしていなかった。それなのに、今度はあなたの黒球よ。魔法の丸みを形どるようにえぐれた跡はどう説明するの? 明らかにあなたの放った魔法が原因なのは明白。これはどういうことかしら?」


「えっと……それは……」



 うわぁ~この子、やべぇ〜ぞ? 


 あの一瞬の出来事を、ここまで分析されているとは思わなんだ。やはり、この令嬢は他の生徒、貴族連中とは少し違うみたいだな。


 あの時の授業だが……

 

 僕が壊した鎧を撤去した後、残りの生徒も魔法の発動を体験していた。しかし、僕以降の生徒だが……特にコレと言って注目するような魔法を発動した者は存在しなかった。寧ろ発動できなかった者が大半だったのだよ。

 それも踏まえると、アイリスは飛び抜けて魔法の才覚は高い。あのナメクジ君ですら、魔法のエリートなんだ。そもそも、鎧を壊す事自体、あってはならないことだったのだよ。



「——あなた……一体何者?」



 ここで、一層アイリスの視線が鋭利化する。変な言い訳をすれば、火に油なのは誰にだって分かる。



「何者と言われても……ただの田舎者としか……」


「まだそんなことを言えるのね?」


「——ッ!?」



 え? 嘘!? マジ!! 彼女、腰の刀剣に手を……!! 

 

 抜いたりしないよね?


 抜いたりしないよね!?


 のらりくらりと、僕の素晴らしい話術で回避しようと考えていたそばだよ? 


 血気盛んかよ——!? 


 え……都会の貴族って、こんなにもアグレッシブなのか? 

 確かに僕は心の中でアレコレ言ったかもしれないよ。でも、実際声に出したわけじゃないし……これで不敬罪とか言われても困るぞ! 

 てか、鎧壊して、ちょっと悪目立ちしただけじゃ! だったらそこは、こんなしみったれた田舎のクソガキに劣ってるあなた達がいけないわけで……僕は全然悪いことしてなくない!! ねぇえ!! 


 ——え?! パンツ??


 ナ、ナンノコトカボクワカラナ〜イ……


 ……アレは……えっとぉ……


 あれは事故だって! それもアイリスがいけないと思うな!! あんなミニスカート履いて、これ見よがしに激しい抜刀術披露してるんだもん。見えない方がおかしいって! 


 てか、他の生徒も何人か見てたでしょう?? 


 僕1人を断罪するのは間違ってない? 

 

 間違ってるよね?? 


 ——違うの!! そもそも僕は——!!??



「今すぐ化けの皮を剥がしてあげるわ」


「——ッえ!?」



 って本当に、刀剣の柄に手かけてるし! どうしよう!? コレ!!


 と——


 ギルティ5秒前なそんな時だ。



「……お〜い? 何してるんだよ。お前ら?」


「「——ッ!?」」



 僕とアイリスは突然、声をかけられた。すかさず、声の出どころへと首を捻る。



「「——ッ!? あ、アイリス様!!」」



 進んできた方の通路を見ると、男女ペアの生徒……どうも、次の組が入って来てしまったようなのだ。

 2人は公爵令嬢様の姿に気づくと驚きの言葉を発した。

 そりゃ〜そうだよね。

 ビビるよね。

 こんな薄暗い通路で、鬼の形相のお貴族様を見てしまうとね。オマケに別の生徒を壁に押し付けてるんだもん。絶対ビビってチビっちゃうでしょうよ。



「……はぁ」

「——ッ! おっと……」



 生徒に気づいたアイリスは、ため息を1つ溢すと僕に掴みかかっていた手を離す。



「今日のところは不問にしてあげる。行くわよ」



 すると、この言葉を吐き捨てて1人通路の奥へとズンズン行ってしまった。

 いくらなんでも勝手が過ぎるんじゃないか?

 それに、最初の頃のビクビク感はどこへ……頭に血が昇ると思考が追いつかない感じなのだろうか?



「おい、大丈夫か?」

「……あぁ、平気だよ」

「平気って……本当かよ……」



 男子生徒が僕を心配して声をかけた。とりあえず平気だと返す。

 後ろの女生徒含め、顔を青くして僕の事を見つめているが、実害は寸前のところで回避されたので心配することはないのだよ。


 ありがとう——生徒よ。


 君たちが来てくれたことで、僕は事なきを得た。素っ気ない返事をしてしまったが、これでも大喜びな方なのだ。


 次からは、もっと上手くやろ〜う。気をつけよ〜う。


 ——ん? 同級生の名前を覚えていないのかって?


 あのね。僕はどうでもいいことはあまり記憶に留めておかない主義なの。記憶メモリをあまり汚染したくないからね。どうせなら頭の中は楽しいことだけを想像してたい。誰しも普通にそう思わないかね?

 今の2人は一般科の生徒だった気はしたけどね。あのおバカ丸出しが特徴的なナメクジ君ですら名前を覚えるのも億劫なのだから、モブ1号、モブ2号の名前なんてとても覚える気はしないよ。


 覚えて欲しいならまたの機会に期待だね。



「ねぇ! 何してるのよ! あなた達、早くしなさい! グズ!!」


「「「——ッ!?」」」



 おっと、そうこうしているうちに、お嬢様がお怒りだ。1人で勝手に突き進んでいったくせに、理不尽極まれり——だな。


 はいはい……ただいま行きますよぉ〜〜お嬢様〜〜!


 それと……


 モブ1号、モブ2号——君たちにも一緒に来てもらうぞ!

 あんなアグレッシブお化けなお嬢と2人っきりなんて嫌だからね。

 ギルティ抑止力として一緒に来い! 


 無言っで首をクイッとして呼んでみると嫌そうにしてたが、そんなの許さん。だって僕だって嫌なんだ。


 ここは道連れにさせてもらうぜ!


 ふっはっはっは〜〜!!


 だってね。こんな言葉があるだろう?


 『旅は道連れ世は情け』って——


 世の中は情けなんてかけてくれないから、使えるモノは道連れにしなさいって教え!


 死なば諸共だ!!

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