第18話 公爵令嬢と2人でダンジョンに入れと? 意義を唱えても? え、ダメ?

 仕方なくアイリス嬢と夢境へ入ることとなった。


 公爵令嬢と僕みたいな一般科の生徒がチームを組んで夢境に入ることは、別の貴族科の生徒の反感を買うかな? とも思ったが……アイリスは『公爵家』の人間。位が高すぎて、意を唱える生徒は現れなかった。だって、アイリス嬢直々に声がかかったのが僕であったのだ。これに文句言ってしまえば、公爵令嬢に文句を言ってるのと同じ。誰も口出しはできないのは仕方なかった。


 ゲートを潜ると、奥の方へと続く見知った通路。いつもの夢境の光景が広がっている。まぁ夜な夜なスライム君と戯れることを日課にする僕にだけ言える話だ。



「中は暗いのね。あなた、先に行きなさい。私は後ろを警戒するから」


「はい、了解しましたアイリス様」



 アイリスは僕の背中をドンッと押すように、前を歩かせる。ここは夢境の中と言っても通路では魔物は出ない。僕はそれが分かっているから警戒こそしていないが、アイリスの反応には緊張が走っているのが分かる。


 だが……この状況は……ちょっと? いや、かなり面白くない。


 この前を歩かせる感じ……もしかして僕は肉壁ですか? だから、いつ死んでもいいような一般科の生徒を選んだんですか? なに、この子、怒ってるの? 前の授業で目立った僕に腹でも立ててるのかな。てっきり不問扱いだと思っていたのだが。

 あの時……アル……アル……えっと……誰だっけ? あの、宮廷マゾヒスト長の息子だとか言う男子生徒……

 『ナメクジスプラッシュ!』とか言う魔法を披露してくれた。『アルコール中毒』みたいな名前の奴……


 アルツハイマー?


 アルプス山脈?? 


 ……ダメだ思い出せん。


 てか、アルプス山脈って何処の山だよ。聞いたことない架空の山の名前まで浮上するとは……僕にとって、よほどどうでもいい男の名前か?


 まぁ……仮として【ナメクジ君】でいいや。


 で、結局アイリスはナメクジ君と一緒で僕に目くじら立てているわけだ。それで、僕のことを肉壁としてダンジョンに同行させたんだな。きっとそうに違いない。本当に勘弁してくれよ。


 これ、いきなり背中グサッて刺されないよな?


 

「ちょっと! 注意散漫よ。しっかり前見て! なにボォーとしてるのよ!」



 あらら、叱られてしまった。


 はぁぁ……「ボォ〜」ともしたくなるさ。だって、この通路に魔物なんて出ないからさ。

 僕の右に握りしめた剣の出番はまだ先だよ。

 ちなみに、今の装備だが、神器なんて持ち出してはいない。学園が貸し出している武器——その中でも、まだ僕のレイピアに長さがそっくりなロングソードを借りてきている。ちょっと重たいのがネックだ。

 アイリスは私物の青魔法石の刀剣だ。ベルトに括りつけた鞘に収まる刀剣は、以前にも見たそのモノだった。今は左手で鞘を支え、右手はいつでも抜刀できるように柄の近くの宙に待機させている。ビクビクだな。


 ここスライムしか出ないよ? 


 まぁ、知らないから仕方ないのか……


 この学園はスパルタだな。そこんところの情報は生徒に伝えておきなさいな。



「うん……ここまで来ればいいかしら」



 と、しばらく通路を進むと、アイリスは声を溢した。

 この先にはスライムが出る広場があるが、そこまで半分しか来ていない。一体こんなところに立ち止まってどうしようというのだろうか?


 と、彼女の反応を訝しんだ僕だったが……


 その時——



「——ッ?」



 振り返る僕に衝撃が走った。


 胸ぐらを掴まれ、通路の石壁にドンッ——と叩きつけられる。


 いきなりなにすんだこの令嬢? さっきまであんなにビクビクしてたのに……

 後頭部痛いんだけど? ぶつけたんですけど!? タンコブできてるよこれ——どうしてくれるんだよ!!



「い、いきなり……なにするんですか? あ、アイリス様?」


「…………」



 とりあえず、話を聞いてみよう。いきなり頭打ちつけられる理由がわからないからね。これ以上、バカになってクソガキ度合いが増したらどうしてくれるのだろうか?

 それにしても、アイリスの表情……ゲートの前で背後から声をかけられた時からそうだが、なんでこんなにも視線を鋭利に研ぎ澄ませているんだろうか? 令嬢の顔じゃないぞ? 僕がなにしたって言うんだよ。



「説明しなさい。アレは何?」


「……は? アレ?!」



 おまけに口を開いたかと思えば支離滅裂。アレってなんだよ、アレって……

 全く身に覚えがないぞ?



「アレって……一体なんのことですか?」


「昨日、あなたが出した黒い魔力球よ。青魔法石の鎧を簡単に破壊してみせた。どういうことか、この私に説明しなさい」


「……ッ」



 ああ……やっぱり怒ってらっしゃいましたか。ですよね〜〜気になりますよね〜〜できれば触れないでいただきたかったんだがな。もう、昨日の校舎裏への呼び出しでお腹いっぱいなんだが。



「あ、あれは……ぼ、僕にもよくわかりません。先生から言われた通りにしたら、出たとしか……あんなの初めてですし……」



 とりあえずシラを切ってみよう。「よくわからない」は嘘だが、後半の発言は嘘をついちゃいない。フェル先生の『ギュバーン』は良いアドバイスだったと思うよ。あれがなかったら多分僕は『影』の魔力球を出せていなかったと思うし。いやマジで。それに初めて出したのも本当だしね。



「はぁあ? それで、説明になっているとでも? あくまでシラを切る腹づもり?」



 だが、アイリスは全くもって取り合ってくれない。それはそうか。彼女、ナメクジ君みたいに馬鹿なように見えないし。おっと!? 失礼……お貴族様に失礼だね。

 彼はオツムが足りていらっしゃらない……これで良いかな?


 まぁ、ナメクジ君のことはいいや。


 それよりこの状況をどうしたらいいだろうか。美女に壁に押し付けられているのは喜ばしいことなのかもしれないが、僕は誰かさんと違ってマゾではないからな。


 さて、どうしたものか。


 考えなくては……





 


 

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