第17話 嘘だろ?!

 だが僕の魔石漁りは、何も夜にコッソリ夢境に侵入してのスライム狩りだけにはとどまらない。


 昼間にだって、堂々と狩らせてもらうさ。


 

——翌日——



「では、皆さん。本日から本格的に戦闘の訓練に入ります。まずこちらが指示した通りに2人1組になってください」



 冒険科の生徒はとある薮の中に集められた。


 そこは僕が昨夜訪れていた夢境がある薮の中——入り口となってるアーチが鎮座する広場である。

 夜は、個人的にスライムを狩っていたが、昼間は授業を介してスライムを狩る。昼夜問わない無駄のないレベル上げ。完璧だ!

 これなら相当数の魔石が集められる筈。最悪、町中の雑貨屋を巡り、魔石のリサイクルボックスに神器を投げ込めばいい話だけどね。半自動廃品回収さ。

 ちょっと罪悪感が湧くからボツにはしたけど。コレは最終手段である。

 


「ふわぁ~〜」



 昨夜の夜更かしのい影響か、思わず“あくび”が出てしまったが、幸い僕はショートスリーパーだ。

 昔から、冒険譚を端から端まで読んでいた日々——それは、深夜になっても継続した。おかげで母を寝不足気味にしてしまったが、当時の僕はそれだけ本を愛していたのだよ。これが原因だな。


 まぁ……僕の昔話はどうでもいい。


 それより授業の方だ。

 本日の担当教官はフェル先生だ。

 ギュバーン! な授業が独特の擬音の女教師。まぁ、それはいいんだ。

 しかし、気になったのは彼女のセリフ。

 「2人1組」——ツーマンセルかぁ〜〜僕は効率的な狩りを求めているんだよな。人の目があるとちょっと……他の生徒がいるとギュバーンな狩りができないぞ。フェル先生! 僕は意義を申し立てる!!

 どうか、トロットロ〜〜に、トロ〜い子と組ませてくださ〜い! なにとぞ!!



「……ねぇ、あなた」


「……ん?!」



 と、眠気で少々意識が朧げ状態の僕に背後から声がかかる。


 すると、そこには……

 


「……あ、あなたは……?! ……アイリス……様?」



 初授業——炎の抜刀を披露し、生徒の度肝を抜いて見せた公爵令嬢【アイリス】の姿があった。


 僕が振り返ると、彼女は肩に掛かった輝く赤い長髪を、フンッ——と息を零すと右手で弾いた。その波打つ髪の輝きは美しく、美麗な顔立ちと相まって可愛らしくあるのだが……残念なことに眉間に皺を寄せて僕を睨んでいる。折角の美人が台無しだ。

 何でだろう? 凄く不機嫌そうだ。僕と同じで寝不足なのだろうか?

 そもそも、田舎者のしみったれたクソガキの僕に、公爵令嬢様が何のようなのだろうか?



「えっとぉ〜〜……アイリス様? 本日はお日柄もよく……」



 びっくりはしたけど、とりあえず挨拶からだ! これ社会の常識♪ 挨拶ができない人間は嫌われちゃうからね。これぐらい田舎者でも分かるともさ!



「あぁ、そういうのはいいから。いちいち鬱陶しい挨拶はやめて——逆に馬鹿にされてる気がするのよ。庶民の挨拶って……」


「そ、そうっスか……」



 ダメだ。社会の常識が通じない。


 ——ック! これが貴族か! 手強い!!


 てか、アイリス嬢は物静かなタイプかと思ったが、これ鼻につくタイプだな。



「フンッ——単刀直入に言うわ」



 あらあら、こちらの反応も他所で会話を始めてしまったよ。


 僕、貴族様は苦手かもしれない。まぁ、僕に限ったことでもないか?



「あなたは私とチームよ」



 ……は? 今なんて?!



「夢境に入るから早く来なさい」



 ちょっと待ってくれ! 僕がアイリス嬢とチーム?? 何をどう間違ったらそうなるんだよ! 

 僕、元は一般科生徒ですよ。なんで貴族様と、それも公爵令嬢様と組まされるんだよ。絶ッッッ対——嫌だぞ!!



「あ、あのぉ〜〜?」


「ん? なに……」


「な、なんで僕、いや僕如きが〜〜アイリス様と?」


「はぁぁ……なに? いちいち説明しないとダメ?」


「で、できれば……お聞かせ願えればと……」



 なにが「いちいち説明しないとダメ?」だよ! ダメに決まってんだろ! 

 まだそれが「テヘ♪」って笑顔で言ってくれるならいいよ? 僕も美少女の笑顔に免じて「いいよ!」って口走ってたかもしれないさ。

 それが振り返り様の鋭い視線と眼光! 

 あんなの、宿敵を目の前にした復讐者の視線だぞ! 

 煌びやかな公爵令嬢様がしていい表情じゃないよ! まったく!!

 少なからず、僕の心は彼女の視線のナイフでズタボロさ。せめて納得いく説明をしてくれるんだろうな。



「私の組む相手……嫌いだったのよ。だから、教師に直談判して変えてもらった。ちょうど、前の授業であなたのことは覚えていたから、あたりさわりのないあなたを使命したのよ」


「……は?」



 あぁ〜〜なるほど♪ なるほど〜♪ な〜〜るほど!!


 それは、すっごく納得♪


 って、言うわけねぇ〜〜だろ! 


 バァアーーーーカ!!


 なに余計なことしてくれとんねん!!


 ——クソ!! ここに来て、前の授業で目立ったことが悔やまれる。もう、その件は片付いたモノだとばかり思っていたが、これだったら闇雲に魔法モドキを発動させるんじゃなかった!


 僕のバカバカバカ、馬鹿ぁぁああああ!!


 てか、この子もこの子で大概だけどな! 人の選り好みしてるんじゃないぞ!

 選ばれなかった人間の気持ちも考えてあげてよ! で、妥協案で一般市民を選ぶな! 僕は普通に授業を受けたいんだ。トロっトロのトロ子ちゃんと組むはずだったんだ! 


 それを……



「なにしてるの? いくわよ。あなたってトロいのね?」



 こんなの、あんまりだぁぁ……鼻につく高飛車令嬢と組むなんて嫌だぞ。


 ヨシ! 今からフェル先生にギュバーンと猛抗議だ!



「——って、どこいくの!? 入り口はこっち! 早くしなさいグズ!!」


「…………はい」



 もう……拒否が通用する段階ではありませんでした。


 僕は首根っこを掴まれて、ズルズルと夢境のアーチに引きられていった。可憐な少女のように見えて、アイリス嬢……あなた意外と力持ちなのね? でも、せめて首の閉まらないように考えて引き摺って、さっきから苦しいんだよ。


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