第16話 レベル上げをするに越したことはなし。
さてさて……僕が、再びやってまいりましたのは【夢境】です。
『——ポヨポヨ!!(よく来た勇猛な人間よ! ここがキサマの墓場だぁあ!!)』
本日もお日柄もよく可愛らしいスライム君がお出迎え。彼も僕の来訪を快く受け入れてくれているようです。
とは言っても、ここはダンジョンの中。「お日柄」言っても空は見えないし……目の前のスライムは、ただポヨポヨしてるだけで僕には何言ってるかわからないんだけど。
でもきっと「こんにちは!」「よく来たね!」って言ってくれているはず。だって可愛らしいスライムだもん。怖いことは言ってない筈さ。
「——ポヨヨ! ポヨ!!(さぁ〜殺し合いの始まりだ! 血がたぎるぜ!!)」
冒険科授業初日……あれからよく考えさせられた。僕には力が無いってことを……
神器を持たない只人の令嬢でも、創意工夫で強力な一撃を放つ光景は、僕に畏怖の念を与えてくれた。
そして、僕には圧倒的にレベルが足りていないと気付かされたんだ。
「だから、こうしてレベルを上げに来たのさ。スライム君。悪いけど君は僕の経験値になってもらうよ? 僕には時間がないからさ」
『——ポヨ? ポヨヨ!(ほ〜う、私を喰らおうと言うのか? では、お手なみ拝見と行こうじゃないか!)』
そう、レベルも足りていないが僕にはもう……時間もないんだ。
入学から2ヶ月が過ぎてしまった。それを過ぎると教科を選択して各々、今後に向かって準備を整える。
でだ……僕がここ2ヶ月でやっていたことは殆どが情報収集。大好きだった冒険譚の事実確認をし、街の情勢やエンタメ、冒険者について調べ上げた。当然、神器の中に眠る情報を読み漁り、魔法、技、レベル、戦い方について知識もつけた。
実は——
冒険科の授業も始まり……僕に残されたタイムリミットは……
あと1ヶ月を切ってしまっている。
さてさて、これが一体なんの数字かと言うと……
「——寮費が尽きてしまうのだ!!」
『——ピギャァア!!(——んなこと知るかぁあ!!)』
そう、スライムに【虚】を突き刺しつつ僕が口走った叫び。それが全ての答えだ。
実は僕が暮らす寮は、初めの3ヶ月しか寮費が免除されない。
当初、この3ヶ月のうちにバイトを見つけ、寮費を稼ぐつもりでいたのだが……突然知ることになった冒険譚の真実に、気づけば事実確認と神器の試運転に明け暮れてしまった。
そして……校舎裏の薮から抜け出し、寮に戻ったところを……
「あら?! ウィリア君——ちょうどよかった。実は寮費の支払いのことだけど……」
「……え?」
寮の管理人おば様から、支払い額、支払い場所の話が浮上したことで、思い出したのだよ……全てを……
いや、忘れていたわけではないんだけどね。街に繰り出して、冒険者の情報を調べつつ、求人だって探してたさ。
で、いいなって思ったのは有名『クラン』の雑用仕事だ。
『クラン』て言うのは、冒険者による会社のようなもので、あのチュートリアルダンジョンを攻略するために集まった大規模パーティーである。
通常は冒険者はフォーマンセルが主流かな? だけど、その集まりを何倍にも膨れ上げたのがクランだ。攻略できなければ、数を増やせばいい。実に理に叶った考え方さ。でも、ダンジョンの構造上……狭い通路に何人も固まるなんてできないから、人数制限は場合によっては考えなくてはいけないんだけどね。
て……クランの説明は今はどうでもいいんだ。
それより、なぜ僕がバイト先を『クラン』にしようと考えたのかは、「情報収集が捗るかな?」って思ったからだ。
『クラン』て言うのは、ダンジョン攻略の先駆者の集まりだからね。つまり情報がすぐ手に入る。安直だけど、最善案ではある筈なんだよ。
で、とりあえずバイトには応募した。そして……その結果だが……
——不採用——
有名『クラン』へのバイトは狭き門だった。人気があり過ぎて隙入る余地がなかったみたい。
で……この結果を知ったのは数時間前の夕方のことさ。
「あ? ウィリア君に手紙が届いてたよ。今渡すね」
管理人おば様よ——僕を地獄の底へと叩き落とすとは……それも、一度ならず二度までも!? 貴様の血の色は何色だぁああ!!
(※ A. 赤色です。おば様は仕事をしただけで、何も悪くはありません)
そして、僕は打開案として『計画』を早めることにしたのさ。他のバイト先は楽観視して探してなかったからね。
だったら……
——ダンジョンに潜って金を稼ぐ!!
カラン——と、スライムが蒸発すると一粒の【魔石】が石畳に落ちた。僕はコレを集めるために夢境を訪れている。しかし、決してこれを売ってお金に変えようとしてるわけではない。
小さな魔石は世にとってはあまり重要視される代物とは違うんだ。大量に集めれば、いくらか魔力の流用には繋がるんだが、それでも微々たるモノ。そんな効果は見向きもされず、売ってもお金にはならない。むしろ要らないモノとしてリサイクルボックスがそこら辺の雑貨屋に置いてあるぐらいさ。
だって、小さな魔石なんか、子供にだって回収はできるんだから……
「こうやってスライムに剣を突き立てるだけでいいんだからね!」
『——プギャア!(慈悲は無いのかぁあ!)』
でもね——
僕にとって小さな魔石は、高価な宝石のように輝いて見えるのさ。
僕が魔石を集める理由は神器の“レベル上げ”のためだ。魔石を神器に喰わせることでポイントが貯まってレベルが上がる。
それは一攫千金の機会……『期限10日前のとある日』の為の前準備。
その日を迎える為に少しでも力をつけておきたいんだよね。
レベルなんてさ。上げるに越したことはないんだから。
いついかなる時でも、不足の事態には備えなくちゃね。
『——ポヨン! ポヨヨン!!(自惚れるな人間! ただで喰われてやると思うなよ!!)』
ほら、スライム君も「頑張れ!」って言ってるようだよ。
なんとも健気だよね!
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