第15話 女心の分からない男は嫌われちゃうぞ! て言う僕はとある色で判断してたら人のこと言えないよね。テヘ!

「貴様、さっきから何を見ている。……ん? おぉ〜〜アイリスじゃないか!」



 ふと、僕は彼女と目が合った。


 アルフレッド君も僕の視線を追って彼女に気づいたみたいだ。


 数人の女生徒と共に観衆の一部としてこちらを伺っていた令嬢の姿を僕は捉えたんだ。


 ……って……この、純白って呼び方やめようかな。


 お前はどこの色に着眼して人を判断してるんだって変な目で見られかねないし。

 う〜んと……そ〜だなぁ〜……狂炎令嬢でどうだろうか? 印象はガラリと変わるぞ。


 え? センスない? 


 またまた、そんな〜〜可愛いでしょう。


 …………え? 可愛くない? 狂ってる?



「今、調子に乗った愚民を躾けていたところさ。君も先ほどの授業では面白くなかったことだろう。一緒にどうだ。近くで見ていくかい?」



 おいおい、アルフレッド君。彼女の視線は僕に注がれているんだよ? 

 相手の視線が向いてすらいないのに、会話を続けるのはナンセンスだぜ。そんなんじゃ女の子にモテないよ。

 てか、デートに誘うどころか、熱血的鉄拳制裁に令嬢を誘うとかマジでないと思うよ。どうかしてる。



「——ッふん。興味ないわ。好きにするといいでしょう」



 ほら、アイリス嬢がプイってそっぽを向いて行っちゃったぞ。まぁ、当たり前だよね。女心のわかってないナメクジさんは嫌われちゃうぞ!

 てか「好きにするといい」って、捨て台詞は余計だな。煽んなや。



「ふふふ……困った子猫ちゃんだ。照れ屋だったかな?」



 んな訳あるか。今のをどう感受すれば「照れ」で治るんだよ。完全に「拒否」だろうが! 

 勘違いも大概にした方がいいぞ。アルフレッド君や。

 


 嫌よ嫌よは嫌なんだからな!



 さてさて……


 ツッコむのもこのぐらいにして、皆んなの視線がちょうどよくアイリス嬢に移ったのはナイスタイミングだ。

 グッジョブ狂炎令嬢! 

 だが、助けてくれると尚のことよかったけどな。

 だが、まぁ〜〜贅沢は言わないさ。僕にとっては、一瞬視線が外れただけで十分だしね。この隙に逃げてしまおうかな。


 で——どうやって逃げるかだが……



「発動【影移動】」



 ボソッと僕は呟く。すると身体が、まるで自身の影に落ちるように吸い込まれて消える。



「——ッ!? アルフレッド様! あの男がいません!」

「……なに?」



 それは、アルフレッド君達にとっては一瞬にして消えてしまったように錯覚することだろう。

 それで、僕の行方だが、彼らのすぐ隣……校舎脇の薮の中に僕はいた。覚えたての【魔技】だったが無事発動してくれたようでよかった。

 今、発動した技は【影移動】という。その名の通り、影どうしを一瞬にして移動することができる能力だ。これは神器を取り出した状態でなくとも発動ができる。

 しかし、一見便利で厨二な能力だが、弱点もある。

 まず、影がないと発動しない。まぁ、これは言わずもがなだ。

 それに、僕自身が目視で影の存在を認知していないといけない。でないと発動した時にどこに飛んでしまうかわからなくなってしまう。ランダムで飛んで、飛び出たのが更衣室とかだと困るだろ? そうなれば僕は二重の意味で死んでしまうよ。能力がバレてしまう死と……社会的な死。

 あと、僕の神器の2本のレイピア間を瞬間移動する【虚影】を覚えているだろうか? アレと似たり寄ったりな能力だと思うが、アレは瞬間で移動、それも任意でできる。だが【影移動】は発動から若干のタイムラグがあるのと、影に飲み込まれる時と這い出る時が動けないので隙がでかいんだ。初見なら、意表をつけるだろうが、何度も発動してはネタが割れすぐ対処されてしまう。連発厳禁な技だ。



「まぁ……いい、地べたを這い回る虫のように逃げ足が早い。実に民草らしい。今日のところは見逃すとしよう。僕も貴族として愚民に構ってる暇などないからさ」



 アルフレッド君も、僕は普通に逃げたもんだと思ってくれたようだ。てか、暇じゃないなら突っかかるな。田舎者にケチ付けるなんてどんだけ暇人なんだと思ってたよ。

 とにかく、華麗な僕のスルースキルで、脱出には成功したんだ。あとは何事もなかったていを装い自室に帰ればミッションコンプリートだ。



「……じぃ〜〜〜〜」



 ん? 誰、この子??


 しゃがみ込んで、こちらをジィ〜と見つめてくる女の子。薄緑の癖っ毛に特徴的なのがピコッと動く獣耳……犬なのか? この子は犬なのか!? そのピコピコと反応するのは好奇心をくすぐられた犬そのものだ。

 ただ、目元はとろ〜んと眠たげだが、はっきり僕を見つめ続けている。

 てか、この子……女子のブレザーを着ていることから生徒だと思うが、何ゆえこんな薮の中にいるんだ? まさか、今のを見られた?!



——ピコピコ!!


「——ッは!?」



 だが……僕の思考を大きく刺激するのは、やはりケモ耳——!

 今まで獣人さんとはさほど関わりをもってこなかったからなぁ〜〜実に気になる。

 いきなり目の前に子猫が腹を出して現れたとする。それを「撫でたい!!」と思うのは道理だろう? 撫でてあげないのは寧ろ失礼に値しないか?


 僕の腕は、気づくと彼女の頭にフルフルと吸い寄せられて……



「——ック!!」


「……ん?」



 だがイケナイ!!


 ここは耐えるのだ!! 僕の右腕よ。どうか暴れないでくれ!

 欲求を開放したい気持ちは分かるが、ここは力を抑えるんだ!!


 僕は【影移動】を発動させて薮の中にいる。だが、そんな僕の隣には獣人の女の子。で、僕のことをジィ〜〜と見つめていた。

 おそらく、見られている。

 いや、まだ慌てる段階ではない。

 きっと……あれだ。彼女は驚く素振り1つしてないんだ。

 多分、見てなかった。そう、タッチの差で見てはいなかったはずさ!

 ならここは、僕の華麗なスルースキルを発動させればいい。

 何事もなかったように、この子の隣を通って……なんならズボンのポケットに手を入れて、何食わぬ顔で日常に戻っていくだけ。

 な〜に、何も心配はいらない筈だ。

 僕にはこの後予定があるのでね。ここで立ち止まっている訳にはいかないのさ。


 アデュ〜! 名も知らない獣人の娘よ! 


 今度、どこかで交流する機会があれば、是非その頭を“わしゃわしゃ”させてくれたまえ!


 こうして僕は、寮の自室に帰って行った。



 しかし……



「いきなり現れた!? オバケさんだ!」



 数日後——


 ここ【学園アルクス】では、『七不思議』というものが噂され始める。




——第1の噂——


 『校舎裏の薮の中には影から這い出る男子生徒の幽霊が現れる』




 この噂は、まだ序章にすぎない。




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