第11話 令嬢が見せる炎の一太刀 抜刀 焔《ほむら》
「教諭。剣を使用してもいいだろうか?」
「……ん? はい、お任せしますよ」
「ありがとうございます」
赤髪の少女は一歩前に出て、遠くの青い鎧を見定める。可憐な少女だと言うのに、彼女の腰にはベルトを括り付けた長剣が無骨に目立ち、彼女の左手は定位置とばかりに柄の上に置かれていた。
「きゃぁ〜〜アイリス様よ!」
「今日もお綺麗ね。素敵♪」
「流石は公爵令嬢様ね。お美しい!」
はい……群衆の皆々様〜〜解説ありがとう。
彼女はなんと公爵令嬢様であらせるようだ。
どおりで、気品溢れていると思った。僕とは大違いだな。
だが、僕は全然気にしていない。これでも人生に満足しているのだ。この時点で僕は勝者だと言っても過言じゃない。他人などどうでもいいことだ。
「では——放ちます」
ここで彼女の準備が整ったようだ。宣言を口にすると足を肩幅に開いて膝を曲げる。腰を低くし居合抜刀をする構えだ。
女の子なのによくやるなぁ〜〜。あなた学園ブレザーのミニスカ制服ですよ? 見えてもいいのかね彼女……?
「——ッ抜刀——ッ
と、僕が呆れてジト目で見つめていると彼女は腰の剣を抜いた。
またアルふ……えっと誰だっけ? ナメクジ君? みたいな、どうしようもない魔法もどきでも飛び出るのか——と、ついつい僕は期待なんてしてなかった。
だけど……
「——お?」
思わず声が漏れるほどには驚かされた。
彼女は、ナメクジ君より魔法のセンスに長けているようだ。鞘から抜いた刀身は赤く染まっていて、赤い塗料で濡れているようだった。その色を的(青い鎧)目掛けて遠心力で飛ばすように振り切った刃からは、燃えたぎる火炎が宙を舞った。不規則的に曲がりくねり……そして……鎧にぶつかると『ガキン!!』と空気を震撼させる音を奏でる。
「「「「「おぉ〜〜」」」」」
生徒達から関心の声が溢れた。まぁ、当然だ。
ナメクジ君の……なんだっけ? ウォータースプラッシュ?? ……の時と、威力が雲泥の差であるのは誰でもわかる。
だからさ……
「ふふふ……さすがアイリス嬢だ。俺が一目置くだけのことはある」
てめぇ〜はなんで上から目線なんだよ。ナメクジ君や。お前の魔法の方が出来損ないなんだよ!
音の響きから違うだろ? お前のは『びしゃ?!』で、今のは『ガキン!!』だ。明らかに金属を打ち抜く音が響いてるっていうのに……耳は大丈夫か? 腐ってるのか!?
と、まぁ……コイツは放っておこう。
なんてたって馬鹿に付けるクスリなんてないんだから……
で——話を彼女に戻そうか。
今の火炎の一太刀だが……確か【
——って……これだと僕も上から目線な言い方だな?
これはあくまで、自論の解説だから、ナメクジ君と同じだとはくれぐれも思わないでくれたまえよ! これ大事!!
でだ——彼女はおそらく、鞘の中に魔力を溜め込んだのだろう。そして、抜刀と同時にそれを一気に放出する。こうすることで高威力の一撃を生んだ。実によく考えられたモノだ。
今——彼女の手にある剣はすっかり刀身の色が変わり青く変色してしまっている。あれはおそらく青魔法石の刀身。青魔法石とは、魔力の塊でできた鉄鉱石の一種——その特徴は魔力の吸着だ。
鞘の中で炎の魔力を吸着させ、刀を振る勢いで方向性を持たせてターゲットに吸着させた魔力を振り翳し着弾させたのだ。
武器の性能、魔力の性質、鉱石知識、火炎を命中させるだけの精度と鍛錬——これら全てが噛み合った至極の一撃。それが、【抜刀『焔』】のようだ。
あのアイリスという令嬢……なかなか侮れないな。いいモノを見せてもらった。
もし仮に……彼女がレベルを上げたのなら、卓越者になることはまず間違いないのだろう。
あまり、熱くなることがない僕だけど……珍しく興奮してしまった。こういう気持ちが『負けてられない』って奴なのかもしれない。
別に……見えたから興奮してるわけじゃないからね?
キリッとした風貌だけど、意外と純白なんだ〜〜へぇ~〜意外〜〜って驚いてるわけじゃないからね!?
「私の技は以上です」
「ありがとうございました。流石は騎士を多く輩出する公爵家の御令嬢。素晴らしい絶技を見せていただきました。みなさん。アイリスさんに拍手を!」
「「「「「……パチパチ!!」」」」」
と、気づけば彼女は生徒の輪に戻っていく。教師も彼女の一撃を大絶賛だ。この時の生徒の拍手は、先ほどの一撃への絶賛とばかりに高々と校庭に響いていた。当然、僕もこのコーラスには参加したさ。アイリス嬢の一撃は賞賛に値するからね。
「それでは……次は……」
そして、フェル先生は次のターゲットを探す。先ほどの技の後だ。次に披露する生徒は気の毒だろうに……
「では……ウィリア君!」
「なんでだ! クソォおお!!」
ほんとうに気の毒だよ……
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