第9話 虎の威を借る“ナメクジさん”!
冒険科授業初日——
冒険科の生徒は、貴族科、普通科、関係なく校庭の一角に集まっている。
「冒険科志望の皆さん。ただいまより、初日の授業を開始します。ですが初めに、自己紹介を——冒険科『魔法学』を担当する【フェルナンド】です。どうぞ“フェル先生”とでも呼んでください」
そして、本日の担当教師として唾のでかいトンガリ帽子を被った、背の高い女性が仕切っている。手には長い杖を抱えていることからも、“the魔女”って風貌。僕の知る英雄譚通りのいかにもな魔法使いだ。
『魔法学』が何かは知らないが、おそらく魔力の扱いか何かを教えるのだろう。
「本日は、初日ともあるのでオリエンテーションです。皆さんには『魔法』に触れ、実際『魔法』を使ってもらおうと思います」
おお……いきなり魔法を扱えと? 酷な事を言うなフェル先生とやらは……優しい風貌のくせに意外とスパルタなのだろか?
と、言うのもだ——
「ですが、皆さんは魔法が使えない人がほとんどだと思います。それは、レベルが1であるから仕方がありません」
そう、レベルが低過ぎて使えないのだ。学生なんて、生まれてこのかた魔物となんて戦う機会なんてないはずだから、全員レベル1であるはず。
例外を除いて……
「では——早速、実演をお見せしましょう。貴族科アルフレッド君——皆さんにお手本を見せてあげてください」
「ああ、任せておけ!」
ここで、金短髪の美丈夫である1人の生徒が前に出る。アルフレッド——確か彼は、宮廷魔術師の家系で父親が宮廷魔術師長だとかなんとか?
で——何故、僕が、そんなどうでもいい情報を知ってるかと言うと……
「宮廷魔術師長の息子である俺の出番だな……」
と、本人がおっしゃっているからです。
この貴族の無駄に尊大な雰囲気は僕にはよくわからない。自分の親を引き合いに出しているが、偉いのは親であって、お前はシミったれたガキの1人だろ? としか思えないんだよね。
父の威光を傘に着て横柄に振る舞う。うん……愚か者だな。これが俗に言う虎の威を借るナメクジさん——ってやつだ。
まぁ……アルフレッド君のことはどうでもいいや。どうせ3日ぐらいで彼の肩書きは忘れる。僕はどうでもいいことは記憶に留めない主義なのでね。
「見るがいい! これが魔法と言うものだ! ウォーターランス!!」
そして……
アルフレッドが生徒の輪から一歩前に出ると、右腕を突き出して呪文を唱える。すると、青い輝きが腕を包み、次の瞬間には水の槍が放たれる。やがて、離れた位置にあった青い鎧にそれは当たった。
「「「「「——ッおぉ〜〜!」」」」」
「ふっふっふ……こんなものかな?」
たちまち周囲から歓声が沸く。アルフレッドも誇らしそうに鼻を伸ばした。
うん……
わ〜〜すごいね〜〜(棒読み)!
…………え? 反応が薄いって?
いや……だってね。
彼の放ったアレは……その……
いや——アレでも彼は頑張ってるのかもしれない。それを否定するのはちょっと酷か。僕は、否定するより肯定して成長を促すタイプなんだ。昔育ててたお花にだってね水をやるのを忘れても毎日『頑張れ!』ってエールを送ってたぐらいだから——彼のことを知ろうとしないで辛口批判は可哀想であろう?
まぁ……僕の反応が今ひとつな理由だが……
端的に言おう——今、彼が見せた水の槍は魔法ではない。
では、なんだったのか……
「さすがは宮廷魔術師長の子だよな。すげぇ……」
「貴族様って魔法に卓越してるらしいよ!」
「これがレベル5の力か……」
はい……観衆の皆様——欲しい言葉をありがとう。
で、ここで注目したいのは、“親の威光の力”でも“貴族補正”でもない……しれっと登場した『レベル5』との発言だ。
そう……彼はレベル5なのだ。
とはいっても……おそらく、魔物を倒してレベリングしたわけではない。
との話の前に……
ここで1つ、レベルについて語らせてもらおうか。
授業の前——校庭に集められた冒険科の生徒の面々だが、とある水晶に手をかざしていた。
「ウィリア君——レベル3……魔力属性『影』です」
「——ん?! レベル3?? 1じゃなくて?」
「はい、レベル3です。ですが、この数値は変ではありません。人間誰しも生まれつき魔力は持ち得ますが……稀に多く所持して産まれてくる子もいる。そういった人は先天的にある程度レベルが高いことがあります。一説には遺伝だと言う学者もいますね」
と、フェル先生は言ったが……まぁ〜そこは、ほぼその通りだ。
そもそも『レベル』とは、個人の体内に内包する魔力量を数値化したものを言う……らしい。例えば、魔力が100未満なら……レベル1。200未満ならレベル2と……簡単に言えばそんなもんだ。もし仮に産まれてくる子が、なんらかの理由で魔力を多く所持してた場合——これを数値化するとレベル1以上の数値表記がなされる場合もあるのだ。とても稀な症例だがな。
そして、アルフレッドはフェル先生の言った『遺伝』との一説を証明するかのように水晶に手を翳すと同時に「レベル5」との数値を叩き出していたのを僕は覚えている。まぁ、宮廷魔術師の家系なら、なんら不思議なことではない。どうでもいい事に無頓着な僕が、そのことを覚えていたのは……その数値を高らかにひけらかし自慢する彼を、周りが
あ〜〜嘆かわしい。
僕の脳内メモリを汚さないでもらいたいものだ。
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